【R18】ボロボロの“ぬいぐるみ”に転生したけど、騎士様に溺愛されてます!

はる乃

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本編

責任を取らせて下さい!!

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「申し訳ないっ!婚約者でもないのに、エマさんにこんな事をしてしまって……!」

長く深い濃厚なキスを終えた後、私とクリストファー様は気まずい雰囲気の中、互いにベッドの上で向かい合いながら正座していた。…のだけど。
突然、何か覚悟を決めたらしいクリストファー様が、土下座する勢いで頭を深く下げて謝ってきたのだ。
私は驚いて目を丸くしつつ、慌てて両手をぶんぶんと振った。

「あ、頭を上げて下さい!いいんです、これが私のお仕事なので……」
「責任を取らせて下さい!!」
「へっ?!」

せせせ責任?!
いやいや、これは私のお仕事なんですよ?それなのに、どうしてクリストファー様が責任を取るの?
むしろ、魔力を吸収する為とはいえ、最初に押し倒してキスをしたのは私の方なのだから、私の方こそ責任を取らないといけないのでは??

…それに、私は“ぬいぐるみ”なのだし。

「クリストファー様、どうか落ち着いて下さい。魔力を吸収する前にもお伝えしましたが、私は人間ではありません。マリアムさんの魔力がなければ、人の姿を保つ事もままならない、ただの“ぬいぐるみ”なのです」
「……ぬいぐるみ……」
「はい。ですから、私に対して――――」

“罪悪感や責任を感じる必要は無い”。

そう言い掛けた時、クリストファー様がやや強い口調で私の言葉を遮った。
クリストファー様の深い緑色の瞳からは、強い意思が感じられる。

「僕には、貴女が自分の意思に基づいて行動しているように見えます。ということは、貴女は例えぬいぐるみであったとしても、僕と同じで心が……魂がある存在、ということなのでは?」

“魂がある存在”。

私は思わず、目を見開いてクリストファー様を凝視してしまった。
この人はマリアムさんと同じで、私がぬいぐるみだと知っても、対等のように扱ってくれる人なのだろうか。

(ううん、まだ分からない。だって、この人は私がぬいぐるみに戻った姿を、見たことがないもの。それに……)

そもそも、私が本当にぬいぐるみなのだと信じていないのかもしれない。
いくら魔法や妖精、獣人が当たり前に存在するファンタジーな世界であっても、ぬいぐるみに魂が宿っているだなんて、到底信じられるような話ではないと思うし。

「…………ともかく、責任を取るとか、そういったことは不要です。むしろ……」

キスでしか魔力を吸収出来ないことの方が問題よね……
まぁ、本当にそれ以外に方法が無い訳だし、考えても仕方がないのだけれど。

「むしろ、何でしょう?」
「いえ、何でもありません」
「……そうですか。エマさん、僕は」


――――コンコン。

会話の途中で、部屋の扉がノックされた。クリストファー様が眉根を寄せて、扉の方へ振り向く。


「クリストファー様、エドガーです。お取り込み中に申し訳ありません。騎士団のバーデン様がいらっしゃっております」
「……そうか」
「はい。応接室サロンにてお待ちです」
「分かった」

執事エドガーさんの声に答えると、クリストファー様は小さく溜め息を零し、ベッドから降りる。

「……すみません、エマさん。話の途中ですが、来客が来たようなので一度席を外します」
「私のことは気にしないで下さい!どうぞ、ごゆっくり!」
「ありがとう。……夕食に誘っても良いでしょうか?」
「え?」
「よければ、一緒に食べませんか?うちのシェフはなかなかに腕が良いのですが」

先程までの切迫したような表情とは違い、穏やかに瞳を細められて、私はコクリと頷いた。
本当は食べなくても大丈夫なのだけれど。

「是非」
「……良かった。それでは、また後ほど」
「はい」

あからさまにホッとしたような顔になり、嬉しそうに微笑んでから退出した彼を見送って、私は何とも言えない気分になる。

彼は随分と真面目で責任感が強いらしい。まさか、責任を取るだなんて言い出すとは全く予想だにしていなかった。

キスの、責任――――……


「激しかった……」


ポツリとそう呟いて、一気に顔へ熱が集中するのが分かる。

だって、いくら魔力を吸収する為とはいえ、あんな風にキスされるだなんて。
しかも、凄く気持ちが良かった。

「流石はイケメンね。……きっと経験豊富なんだわ」

でなければ、キスだけであんなに気持ち良くなれるわけがない。

「それに、私ったら……」

気持ち良すぎて粗相までしてしまうなんて。

そっとスカートを捲り、自身の下着に目を向けると、明らかにぐっしょりと濡れてしまっていた。
私は羞恥で真っ赤になりながら、濡れた下着を脱いだ。

「どうしてこんな風になっちゃったのかしら?」

しかも何だか、まだ身体が熱いような?
おかしいわね。
だって私はぬいぐるみなのに。

粗相だって、本来であれば有り得ないことだ。
マリアムさんが組んだ魔法式では、食べ物や飲み物を口にする事は出来ても、排泄行為まで再現するように組み込まれていない。魔力に比べたら微々たるものだけれど、口にしたものは全てエネルギーに変換されてしまうようになっているからだ。
だから、粗相なんてする筈がない。

なのに。

(身体が熱い。……クリストファー様にされたキスを思い出すと、何だかまた……)



――――粗相を……



堪らず下半身に手が伸びそうになって、私はハッと我に返った。
私は今、何をしようとしてたのかしら?
何故だか分からないけれど、凄く恥ずかしい。

私はふるふると頭を振って、濡れた下着を人目につかないところへ隠した。

(後で洗濯する場所を教えてもらわなくちゃ)

そうして私は、部屋の入口近くに置かれたままのトランクから、替えの下着を取り出した。いそいそと身に着けた後、高そうな立派なソファーに身を投げる。

ソファーはびっくりするくらいフワフワで、心地良かった。
暫くゴロゴロしていると、私は知らず知らず眠りに落ちた。夕食の時間になるまで、ずっと。


フワフワなソファーのお陰だろうか。
随分と幸せな夢を見たような気がした。


* * *
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