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本編
責任を取らせて下さい!!
しおりを挟む「申し訳ないっ!婚約者でもないのに、エマさんにこんな事をしてしまって……!」
長く深い濃厚なキスを終えた後、私とクリストファー様は気まずい雰囲気の中、互いにベッドの上で向かい合いながら正座していた。…のだけど。
突然、何か覚悟を決めたらしいクリストファー様が、土下座する勢いで頭を深く下げて謝ってきたのだ。
私は驚いて目を丸くしつつ、慌てて両手をぶんぶんと振った。
「あ、頭を上げて下さい!いいんです、これが私のお仕事なので……」
「責任を取らせて下さい!!」
「へっ?!」
せせせ責任?!
いやいや、これは私のお仕事なんですよ?それなのに、どうしてクリストファー様が責任を取るの?
むしろ、魔力を吸収する為とはいえ、最初に押し倒してキスをしたのは私の方なのだから、私の方こそ責任を取らないといけないのでは??
…それに、私は“ぬいぐるみ”なのだし。
「クリストファー様、どうか落ち着いて下さい。魔力を吸収する前にもお伝えしましたが、私は人間ではありません。マリアムさんの魔力がなければ、人の姿を保つ事もままならない、ただの“ぬいぐるみ”なのです」
「……ぬいぐるみ……」
「はい。ですから、私に対して――――」
“罪悪感や責任を感じる必要は無い”。
そう言い掛けた時、クリストファー様がやや強い口調で私の言葉を遮った。
クリストファー様の深い緑色の瞳からは、強い意思が感じられる。
「僕には、貴女が自分の意思に基づいて行動しているように見えます。ということは、貴女は例えぬいぐるみであったとしても、僕と同じで心が……魂がある存在、ということなのでは?」
“魂がある存在”。
私は思わず、目を見開いてクリストファー様を凝視してしまった。
この人はマリアムさんと同じで、私がぬいぐるみだと知っても、対等のように扱ってくれる人なのだろうか。
(ううん、まだ分からない。だって、この人は私がぬいぐるみに戻った姿を、見たことがないもの。それに……)
そもそも、私が本当にぬいぐるみなのだと信じていないのかもしれない。
いくら魔法や妖精、獣人が当たり前に存在するファンタジーな世界であっても、ぬいぐるみに魂が宿っているだなんて、到底信じられるような話ではないと思うし。
「…………ともかく、責任を取るとか、そういったことは不要です。むしろ……」
キスでしか魔力を吸収出来ないことの方が問題よね……
まぁ、本当にそれ以外に方法が無い訳だし、考えても仕方がないのだけれど。
「むしろ、何でしょう?」
「いえ、何でもありません」
「……そうですか。エマさん、僕は」
――――コンコン。
会話の途中で、部屋の扉がノックされた。クリストファー様が眉根を寄せて、扉の方へ振り向く。
「クリストファー様、エドガーです。お取り込み中に申し訳ありません。騎士団のバーデン様がいらっしゃっております」
「……そうか」
「はい。応接室にてお待ちです」
「分かった」
執事さんの声に答えると、クリストファー様は小さく溜め息を零し、ベッドから降りる。
「……すみません、エマさん。話の途中ですが、来客が来たようなので一度席を外します」
「私のことは気にしないで下さい!どうぞ、ごゆっくり!」
「ありがとう。……夕食に誘っても良いでしょうか?」
「え?」
「よければ、一緒に食べませんか?うちのシェフはなかなかに腕が良いのですが」
先程までの切迫したような表情とは違い、穏やかに瞳を細められて、私はコクリと頷いた。
本当は食べなくても大丈夫なのだけれど。
「是非」
「……良かった。それでは、また後ほど」
「はい」
あからさまにホッとしたような顔になり、嬉しそうに微笑んでから退出した彼を見送って、私は何とも言えない気分になる。
彼は随分と真面目で責任感が強いらしい。まさか、責任を取るだなんて言い出すとは全く予想だにしていなかった。
キスの、責任――――……
「激しかった……」
ポツリとそう呟いて、一気に顔へ熱が集中するのが分かる。
だって、いくら魔力を吸収する為とはいえ、あんな風にキスされるだなんて。
しかも、凄く気持ちが良かった。
「流石はイケメンね。……きっと経験豊富なんだわ」
でなければ、キスだけであんなに気持ち良くなれるわけがない。
「それに、私ったら……」
気持ち良すぎて粗相までしてしまうなんて。
そっとスカートを捲り、自身の下着に目を向けると、明らかにぐっしょりと濡れてしまっていた。
私は羞恥で真っ赤になりながら、濡れた下着を脱いだ。
「どうしてこんな風になっちゃったのかしら?」
しかも何だか、まだ身体が熱いような?
おかしいわね。
だって私はぬいぐるみなのに。
粗相だって、本来であれば有り得ないことだ。
マリアムさんが組んだ魔法式では、食べ物や飲み物を口にする事は出来ても、排泄行為まで再現するように組み込まれていない。魔力に比べたら微々たるものだけれど、口にしたものは全てエネルギーに変換されてしまうようになっているからだ。
だから、粗相なんてする筈がない。
なのに。
(身体が熱い。……クリストファー様にされたキスを思い出すと、何だかまた……)
――――粗相を……
堪らず下半身に手が伸びそうになって、私はハッと我に返った。
私は今、何をしようとしてたのかしら?
何故だか分からないけれど、凄く恥ずかしい。
私はふるふると頭を振って、濡れた下着を人目につかないところへ隠した。
(後で洗濯する場所を教えてもらわなくちゃ)
そうして私は、部屋の入口近くに置かれたままのトランクから、替えの下着を取り出した。いそいそと身に着けた後、高そうな立派なソファーに身を投げる。
ソファーはびっくりするくらいフワフワで、心地良かった。
暫くゴロゴロしていると、私は知らず知らず眠りに落ちた。夕食の時間になるまで、ずっと。
フワフワなソファーのお陰だろうか。
随分と幸せな夢を見たような気がした。
* * *
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