上 下
5 / 9
本編

対となる者

しおりを挟む

「魔力を吸収する魔導具?」
「はい。そういった物をこちらで扱っていませんか?もしくは、無ければ創っていただけませんか?」
「探してるって事は……あんた、対となる者は見つけていないんだね?」
「はい」

私とマリアムさんが朝食を食べ終えて、お茶で一息ついていた頃に、第二騎士団のクリストファー様が再びこの家を訪れた。
今朝は、その端正な容姿ばかり見てしまっていたけれど、今の彼の服装は恐らく第二騎士団の制服なのだろう。紺色を基調としており、ボタンは銀色。首元や袖口にある刺繍は、植物の形をしていた。

イケメンに制服。
眼福です。御馳走様です。
普段は腰の辺りで帯剣しているそうなのですが、私達に敵意が無いと示す為に、家の外で待機している信頼できる部下に剣を預けて来てくれたらしい。マリアムさんが「賢明だね」と言うと、クリストファー様はにこりと微笑んだ。

「間違っても魔女相手に剣を抜いちゃいけないよ。魔女は己の身を守る為に何重にも自己防衛のまじないを掛けているんだ。その呪いを発動させちまったら、何が起こるか分からないからね」

流石魔女。
まぁ、マリアムさんは自分の身が守れればいいから、身の丈に合わない呪いは掛けていないって言ってたけど。
魔女の中には、自分を襲おうとした者には容赦なく死の呪いが発動するように防衛魔法に仕込んでいる者も居るのだとか。
ただ、相手を死に至らしめる呪いはそれだけリスクを伴うそうで、呪いを掛けた魔女自身も何らかの強力な反動をその身に受ける事になるとか何とか…

怖いわ。
マリアムさんがそういった怖い系の魔女じゃなくて本当に良かった。

「魔力の吸収か。……ちょっと手を出してもらえるかい?」
「どうぞ」

マリアムさんが、クリストファー様の手に触れる。
それは瞬きする程の短い時間だったけれど、マリアムさんにはそれだけでクリストファー様の事情が分かってしまったみたい。流石は姉御。

「成程。恐ろしく規格外な魔力量だ。これはさぞかし辛かろう。今も相当無理してるんじゃないのかい?」
「もう慣れました」
「…………そうか」


――“対となる者”。


この世界には、一人の人間に対し、必ず“対となる者”が存在する。対となる者がいれば、魔力が安定し、膨大な魔力によって自身を内側から傷付けたり、暴走したりする事が無くなるそうだ。
近年ではそれほどまでに膨大な魔力量を保有している者は少なく、むしろ稀少になってきた為、殆んど者が“対となる者”を探す事は無い。通常の平均的な魔力量であるなら、自身が行う魔力操作で十分調節出来るからだ。

クリストファー様は近年稀に見る膨大な魔力量の保有者らしい。彼は“対となる者”が必要な人間だ。
しかし、対となる者が何処にいるかは分からない。例え出会っていたとしても、相手に触れないと分からないそうなのだ。
要するに、対となる者を探すには片っ端から出会った人達に触れていかないといけないわけで…
なんて非効率な羞恥プレイ。この世界の神様はちょっと……いや、かなり残念だよね?
私の魂だって、うっかりぬいぐるみに落としちゃったとか、そんな感じだったんじゃない?なんて、つい考えてしまう。本当のところは分からないし、神様がいるのかも分からないけど。

(妖精や魔女、獣人がいるなら、神様だっていそうだけど)

マリアムさんとクリストファー様にお茶とお菓子を出して、私は少し離れた位置に座る。
そうして二人を見守っていると、マリアムさんの視線が一度だけ私に向けられた。

何だろう?
お茶、渋かったかな?

「魔力を吸収する魔導具は過去に何度も作ろうと試してみた。けど、上手く出来た事はない。恐らく他の魔女や魔法使いも一緒だろう。だからこそ、この世界には“対となる者”が存在するんだ」
「そんな。……対となる者は、今まで散々探しました。ですが、見つからないのです。古い文献によれば、対となる者が遥か遠い異国の地に居た事もあるとか。そんなの見つけ出せる筈がありません。何より、僕にはもう時間が無いのです……!」

遥か遠い異国の地って……
ただでさえ触れなきゃ分からないのに、その文献に書かれていた人はよっぽど幸運だったのね。むしろ奇跡だよ。
だから見つかるか分からない“対となる者”を探すより、魔力を吸収する魔導具を開発してもらえれば、と思ったんだね。
確かに、顔も性別も不明で、どこにいるか分からない人を闇雲に探し回るより、魔導具開発の方がよっぽど希望が有りそうだ。建設的で現実的。

この先、クリストファー様と同じ様に困ってる人達が現れても、魔力を吸収する魔導具があれば、皆が助かるもの。

「時間が無い……?それじゃあ、あんた。仮に今すぐ魔導具開発に取り組んだとしても……」
「…………間に合わない可能性の方が高いです。ですが、僕はもう“対となる者”を探すのに疲れてしまった。騎士団での役割もある。休みの度に様々な場所へ赴いて探し回りました。けれど、見つからない。家族は、騎士団を退団して対となる者を探す事だけに専念した方が良いとまで言ってくれました。実際、成人までは学業もそこそこに、殆んどの時間を“対となる者”探しに充てていました。ですが、僕はもう嫌なのです。探しに行っては見つからず、また無理だったと言った僕を見て、落胆し、憔悴していく家族の顔を、もう見たくない。……楽にしてやりたいのです……」
「…………」


クリストファー様は、もう家族の皆さんに自分の事で心配して欲しくないんだ。
私はもう、前世の事は殆ど忘れてしまったから、家族のことも思い出せない。
だけど、今の私にはマリアムさんがいる。

マリアムさんに悲しい顔はさせたくないし、余計な心配もかけたくない。
だから、ほんの少しだけど、彼の気持ちが理解できた。

…何とかならないのかな。
こんなに家族想いで、仕事も頑張ってて、凄く良い人なのに。
しかもイケメン。

これが世に聞く、美人薄命ってやつなのか……

「エマ」

私がそんな風に思いながら二人の話を聞いていたら、突然マリアムさんに名前を呼ばれた。

マリアムさんと、クリストファー様の視線が私に注がれる。
お茶のおかわりですか?

しかし、マリアムさんから振られた話は、私にとって思いもよらぬものだった。


* * *
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。 そんな彼に見事に捕まる主人公。 そんなお話です。 ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。

騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?

うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。 濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

ヤンデレ義父に執着されている娘の話

アオ
恋愛
美少女に転生した主人公が義父に執着、溺愛されつつ執着させていることに気が付かない話。 色々拗らせてます。 前世の2人という話はメリバ。 バッドエンド苦手な方は閲覧注意です。

処理中です...