悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

はる乃

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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)

幸せの形㉑

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身体が鉛のように重くて怠い。それにとても熱くて……

(私、一体……確か、教室でシュティと……)

状況を確認したくて、何とか重たい瞼を上げると、視界に飛び込んできたのは、心配そうに私を見つめるフィルとナハト、そしてエリック様だった。

「ヴィクトリア様!」
「気が付いたか?身体は大丈夫か?」
「…フィル、ナハト……?」
「リア…!ああ、良かった!目を覚ましてくれて…っ」
「エリック様……」

三人にぎゅうぎゅうと抱き締められて、私は心の底から安堵してしまった。…シュティのことも、勿論好きなのだけど、彼との従属契約は不意打ちのようなものだったし、何より彼は一番危ない性癖の持ち主だと思う。

「あの、ここは…?それに、私…」

そうして、すぐにハッと思い出した。私の今の状態は、皆にとって毒のようなもの。慌てて抱き締めてくれる彼らと距離を取ろうと身動ぎしたのだけれど、身体に全く力が入らず、なんの抵抗も出来ずされるがままになってしまう。

「さ、三人とも離れて!今の私は危険なの!サキュバスの力が…」
「大丈夫だよ、リア。…君は昔から、何でも一人で解決しようとする。どうして僕に相談してくれないんだい?僕はリアの夫で、リアは僕の妻なのだよ?」
「そこは『僕に』ではなく、『僕たちに』でしょう?どさくさに紛れてヴィクトリア様を独占しようとするのは止めて下さい」
「やっぱりコイツも締め出しておけば良かったんだって。今からでも、ジルベールやアベルたちと一緒に、学園の理事長に会いに行って来いよ」
「彼らに任せておけば問題ないよ。それに、今は片時もリアと離れていたくないのでね」

いつも通りの彼らの会話。胸の内がくすぐったくて、気持ちがほわほわしてしまう。というか、彼らの状態を見るに、特に発情などの症状は感じられない。もしかして、もう私の力は治まったのだろうか?それに、どうやらここはまだ学園内らしい。

「ここは学園にある高位貴族用の客室だよ。今、ジルたちが理事長に事情を説明している。急なことだったから正直参ったけれど、今回はレオンに協力してもらった。ザシャルーク王国でもリリーナ魔法学園のような教育機関を創設するつもりだから、外交期間中に施設を見学させて欲しいとね」
「そうなのですか…!でも、大丈夫なのですか?」

エリック様たちは、私を回収して即撤収。…ではなく、私の身体など諸々な事情を考慮し、きちんと公的な手続きをした上で、数日だけ学園に滞在することを選んだようだ。けれど、今回のことはあまりに急な訪問。教師たちや生徒たちだって困ってしまったはず。本当に大丈夫なのだろうか?
私の不安が顔に出ていたのか、エリック様は輝くような笑みを浮かべて、自信たっぷりに答えてくれた。

「――彼らは優秀だ。何せ、王太子であった僕の最側近たちだよ?彼らになら、僕の後ろも、国さえも任せられる。在るべき場所が変わったとしても、彼ら自身は変わらない。むしろ、昔よりも怖いくらいに成長しているのだから」
「…っ」

エリック様の後ろには、大きな窓が見えていた。
差し込む夕日に照らされた彼が、あまりに大きく威厳に満ちて見えて。
彼は、本来であればこの国を背負って立つ存在だった。そうして、まざまざと突き付けられる。今でも彼は、その資質を持った揺るぎない存在なのだと。

「だから、リアは何も心配しなくていい。今はとにかく、安静にして休まないと。ね?」
「……はい」

夕日に照らされた彼の金色の髪と、どこまでも澄んだ青い瞳が眩しくて。私は思わず目を逸らしてしまった。

(だって、ずっと見つめていたら……)

きゅっと唇を噛むと、フィルの人差し指が手袋越しに、私の唇に触れた。見上げると、フィルは複雑そうな顔をしていたけれど、すぐに優しく微笑んでくれた。

「今日はもうお休み下さい。色ボケ当主様が仰る通り、何も心配はいりません」
「…フィル。頼むから外で僕を軽んじるような発言は控えて欲しいのだけど」
「安心しろ、色ボケ当主サマ。この部屋には音声遮断の魔法が掛かってるからな」
「はぁ。…ナハトも、お願いだから頼むよ。そういう問題じゃないんだ。僕がいくら言ったところで聞く耳を持たないかもしれないけど。本当に大事なことなんだ。普段から気を付けておかないと、いざという時に、きっとボロが出てしまう」
「ご安心下さい、当主様。私は常日頃から慎重に発言していますので」
「そうそう。ボロなんて出ねーっつーの」
「だからそうじゃなくて…」

エリック様が頭を抱えて困っている様子だったので、思わず私も二人を注意する言葉を口にする。

「フィル、ナハト。もしも誰かに聞かれでもしたら、アルディエンヌ領全体を軽んじられてしまう恐れがあるの。だから外では気をつけましょう?お願い」
「勿論です、ヴィクトリア様。今後は、外では一切、先程のような発言はいたしません。今、この場にて誓います」
「俺も誓います」
「ありがとう、二人とも」

やっぱり、フィルとナハトは昔から変わらず、とても良い子。エリック様にあんな風に言ってしまうのも、きっと二人なりの友情みたいなものなのよ。前世でも、男の子たちって仲が良いほどに冗談を言い合っていたし。…昔は喧嘩ばかりだったし、恐らく魔物であるフィルとナハトは、人間であるエリック様たちに素直になれないのね。

「……鶴の一声とは、正にこのことだよね。いっそ清々しいよ、君たちのリア至上主義。…まぁ、嫌いじゃないけどね」

エリック様ったら、そんなジト目で一体何を勘違いしているの?フィルもナハトも、何故かこういった時はよくお願いを聞いてくれるけれど、食事の時なんて全然聞いてくれないよ?意地悪全開だもの。

(…ああ、頭がぼうっとする…本当に熱があるみたい。…眠い……)

睡魔に襲われて、ウトウトし始めた私に、三人は優しく声をかけて、それぞれキスをしてくれる。キスされた所がくすぐったい。

「ヴィクトリア様。…駄犬はきちんと捕まえてあります。ですから、どうか安心してお休み下さい」
「おやすみなさい、ヴィクトリア」
「リア、愛しているよ。良い夢を」

――良かった。きっともう、大丈夫なんだ。シュティとの行為はすごく恥ずかしかったけれど、これでサキュバスの力が治まったのなら、感謝したいくらい。…いや、本当は少し怒りたい気持ちもあるけれど。

「…よかった…」

瞼を閉じれば、私はすぐに夢の世界へと落ちていった。

――本当は、私の増してしまったサキュバスの力はまだ治まってなくて、ソレを三人が隠していただなんて、露ほども気付かずに。
私は朝になるまで、幸せな夢を見続けたのだった。


***

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