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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
幸せの形⑮★
しおりを挟む「…はぁ…」
今日、何回目の溜息だろうか。でも、出てしまうのだから仕方がない。
昨日、ナハトと過ごしていて、これまでとは違う妙な違和感を感じた。精気を食べても、渇きが癒えないような感覚。もしかして、また以前のように魔力が不安定になっているのだろうか?魔力が不安定になると、また皆に迷惑をかけてしまう。
(ただの思い過ごしならいいのだけど…)
手元の書類から顔を上げて、窓の外へ視線を向けていると、コンコンと扉をノックされた。ここは公爵夫人用の執務室。故に、今は私の執務室なのだけれど、時間的にお茶の時間でもないし、誰が来たのだろうと首を傾げつつ、私は入室許可の返事をした。
「どうぞ」
というか、名乗らない時点でエリック様やジルベール様たちではないわね。それに、フィルでもない。予想通りというか、執務室へ入室してきたのはアスモデウスだった。
「浮かない顔だな、ヴィクトリア」
「アスモデウス…」
アスモデウスは笑みを浮かべているが、色欲の悪魔なだけあって、彼の微笑みは何とも魅惑的だ。普通の人間であれば、コロッと心を奪われてしまっているだろう。まるで砂漠に住む王族が身に着けているかのような開けた衣装に、浅黒い肌、細身だけれど、しなやかで逞しい体躯。艶やかな長いブロンドの髪。頭に生えている山羊のような角と、金色が混じった深紅の瞳。その全てが美しく魅力的で。恐らくこの悪魔は自分を誰よりも魅力的に魅せる術を熟知しているのだろう。
「貴方がこんなところへ来るだなんて珍しいですね。何のご用で…」
「美味そうな匂いがする」
「――え?」
次の瞬間には、いつの間にか至近距離までやって来ていたアスモデウスに唇を塞がれていた。
「~~~んんっ♡♡??」
頭の中では、ひたすらにハテナマークが浮かび上がる。突然どうして?それに、濃い匂いとは、一体何の話?質問したくても、アスモデウスはなかなか唇を離してくれない。口腔内を舌で蹂躙されてしまい、あまりの気持ち良さにクラクラしてしまう。
(だめ…♡キス、気持ちいい……っ)
思わず瞑ってしまっていた瞳を開いて、滲む視界でアスモデウスを見止めると、彼と目が合った。彼の瞳はまるで猛禽類のようで、その金色が混じった深紅の瞳で見つめられると、まるで自分が獲物として彼に捕食されているかのような気になってしまう。
「んぅ♡…はぁ…♡」
つぅっと光る糸を引きながら漸く唇が解放されると、アスモデウスに力強く抱き締められる。
「あ、の…??」
「はぁ…匂いが濃過ぎる。悪魔である私まで惑わせるとは、本当にお前は底が知れないな?」
「やっ、待って…!」
アスモデウスが私の首筋に舌を這わせ、ちゅうっと吸い付いてくる。ゾクリとした感覚に肌が粟立ち、反射的にアスモデウスの胸をぐっと押し返そうとするけれど、まるで歯が立たない。このままではマズイ。何か嫌な予感がする。
「堪らない匂いだ。今すぐにお前の全てを喰らい尽くしたい」
「だめ…っ。今はよくない気がするの。だから…」
「…確かに、今のお前は不安定なようだ。だが……」
「ひぅっ♡♡」
身体を駆け抜けていく、ビリビリとした官能の波。
私を抱き締めるアスモデウスの腕が片方だけ解かれ、その手が妖しく私の太腿を撫で上げていく。
優しく丁寧な触れ方なのに、私の身体は快楽を拾って、はしたなくビクビクと反応してしまう。
「ほ、本当に待って欲しいの。私の身体、何だかおかし、くて…っ」
「……話は聞いてやる。このまま話すがいい」
「やぁん♡♡…こんな状態じゃ、まともに話なんて……あぁっ♡♡」
アスモデウスの手が私の足の間へ滑り込み、二本の指を使って秘処に近い部分のショーツの縁をなぞっていく。
焦らすような触れ方が気持ち良くて、お腹の奥がキュンと疼いてしまう。
「ああ、更に匂いが濃くなったな。…恐らくサキュバスとしての力が増してきたのだろう」
「…サキュバスとしての、ちから…?」
必死に会話に答えつつも、止まらないアスモデウスの行動に翻弄されてしまう。
「ああっ♡♡そこ、触っちゃ…っ♡♡」
「ここの溝が大好きなのだろう?すごく湿っているぞ」
「ひぃんっ♡♡」
くちゅくちゅとわざと淫靡な水音を響かせながら、ショーツ越しに上へ下へと指を何度も滑らせていく。ゆっくりゆっくり、花芽をくるくると擦り、次は下へと滑る指が、蜜口の入り口を愛撫する。恥ずかしい蜜が溢れ出して止まらない。もっともっと刺激が欲しくて、無意識に腰を揺らしてしまう。
「ここ数年、ヴィクトリアの魔力は安定していた。…人間の魔力量は、生まれた瞬間にほぼ決まってしまう。成長と共に少しは増えたりするが、大きく変わることは稀だ。だが、魔物は違う。長く生きれば生きるほどに、魔力量は増していく」
くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくちゅ♡♡
「あっ♡あっ♡あぁっ♡♡」
「以前は魔力が不安定だった為に増えることもなかったのだろうが、安定した状態であれば、魔力量が増えていくのはごく自然なことだ。…ああ、ほら。下着越しなのに、もうドロドロだ♡」
「やぁあん♡♡おねが…っ、くちゅくちゅしないで…♡♡」
「つまり、今のヴィクトリアの身体は増えた魔力の分だけ、サキュバスとしての力が増してしまっている。その影響で、無意識に男を惑わせる匂いを放っているのだろう。男を興奮させる媚薬のような匂いをな」
「そん…な…♡こまり、ます…っ」
「私は困らない。むしろ……」
「ひゃあああんっ♡♡」
アスモデウスの瞳が、真っ直ぐに私を射貫く。
今の状態はまずいと分かっているのに、抗い切れない。
ただ魔力量が増えた為に、いつもより食事量が増えたのだということなら問題はなかった。
けれど、昨日の私は早い段階で理性が飛んでしまい、自分が自分でなくなるような違和感を覚えた。
「むしろ、今の状況を好ましくさえ感じている。――まるで獣のように愛し合おう、ヴィクトリア」
***
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