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1巻
1-3
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これは夢だろうか。実は今朝、フィルとナハトに精気を与えたあと、そのまま眠ってしまったとか? エリック様が私を知れば、恐らく秒で嫌いになるに違いない。王族である彼からのお願いを無碍にはできないけれど、言われたままに頷くことは難しい。
私は何とも答えられないまま、返事は今すぐでなくともいいと言うエリック様のお言葉に甘えて、王宮から貸してもらった馬車に乗り込み、公爵邸への帰路についた。
入学式は昼間だったのに、もうすっかり辺りは暗くなってしまっている。公爵家には、エリック様から連絡がいっていた為、特に叱られることはなかったが、大層心配されてしまった。心配してくれたのは、お父様の他はフィルとナハトだけだったけども。
以前の私を知っている使用人たちには、前世の記憶を思い出したあと、機を見て謝罪した。だけどやっぱり、すぐには受け入れられないのだろう。仕方ない。焦っても仕方がないことだし、分かってもらえるようにコツコツ頑張ろう。
その晩、疲れ切った私は湯浴みのあと、ベッドに入るなり気絶するように眠りについたのだった。
***
「この世界にもネットがあればいいのに……」
翌朝。私はそう呟きながら、自分のベッドで必死に起き上がろうとしていた。しかし、昨日の疲れが残っているせいか、なかなか身体は言うことを聞いてくれない。私は小さく溜め息をついて、柔らかな枕に顔を埋めた。
正直言って今の私の頭の中はぐっちゃぐちゃだ。昨日は突然媚薬を盛られ、エリック様とあんなことやそんなこと……。しかも、何故か告白のようなものまでされてしまった。完全にキャパオーバーである。
せめて、フィルとナハトの食事事情だけでも解決したい。全て私が無計画であの二人の主になってしまったことが原因なのだけど、最推しである二人を放ってなんておけないし、前世を思い出すタイミングなんて自分では選べないのだから、こればかりはどうにもならない。
今すぐ教えて〇〇! 的なサイトで、『インキュバスの主をしている方、普段の食事、どうしていますか?』って質問したい。このままでは身が持たない。身体は処女のはずだけど、むしろすごく……
(朝から私は何を考えているの? 思い出しちゃうじゃないっ)
私はぶんぶんと頭を振って、再び思考を巡らせる。今すぐインキュバス関連のコミュニティとかに入って訊いて回りたい。最初、私はキスだけで済まそうとした。けれど、そのキス自体が厄介で。唾液による催淫効果で、私の身体が媚薬を盛られるのと同じ状態になってしまうのだ。
(頬や額にキスするくらいじゃ、全然精気を食べられないらしいし)
インキュバスたちの食事となる精気とは、淫らな行為でなければならないらしい。
(そう考えると、ヒロインてすごい。体力もメンタルも底なしね。悪役令嬢ヴィクトリアにフィルとナハトをけしかけられて、えっちなことをされて、そこから更に他の攻略対象者たちともエロイベントをこなしていたなんて)
私は戦慄した。これがR18指定の世界か。恐るべしR18。私、早死にするかもしれない。
「早急に何か対策を考えないと……」
フィルとナハトは前世からの最推しキャラ。今世ではただのキャラクターではなく、リアルに存在する私の大事な従魔。ちょっと前世のゲームで見た時と性格が変わってしまっている気もするけど、基本的には良い子たちだし……
――コンコン。
ノックの音がして返事をすると、入室してきたのはまさに今考えていた張本人たち。フィルとナハトの二人だった。
「「おはようございます、ヴィクトリアお嬢様」」
「二人とも、おは……」
「昨日は昼も夜もお預けでしたので、朝食をいただいてもよろしいでしょうか?」
「……」
いやいやいや、良い子たちだよ。うん。フィルとナハトは良い子。ちょっとご飯が特殊なだけ。とりあえず、今日は学園でインキュバスについて調べてみよう。魔物図鑑以外の書物を探すとかね。
ギシッと私のベッドに上がってきた二人は、柔らかく微笑んでいる。けれど、今日の二人はいつもと違った。目が笑っていない。
「昨日、何があったのかは知っております。何らかの方法で媚薬らしきものを盛られたお嬢様は、学園で偶然お会いした王太子殿下に保護され、王宮にて解毒していただいたのですよね?」
フィルが言った通り、公爵家にはそのように通達されている。王太子であるエリック様が私の媚薬効果を緩和させる為に、何をしたのかは当然秘密で、伏せられている。
「え、ええ。そうだけど……」
私が肯定すると、フィルは困ったような顔をしながら、更に距離を縮めて、私の耳元で囁いた。
「『嘘』はいけませんね、お嬢様」
「……うそ?」
ナハトがペロリと舌舐めずりして、私のふかふかな掛け布団をベッドの下へと落とした。
「俺たちは隷属契約によってお嬢様と繋がっている。思っていること全部は分からないけど、単純な喜怒哀楽くらいの感情は感じ取れる」
「⁉」
「お嬢様は昨日、快楽を感じていた。それも、ちょっとやそっとの短い時間じゃなかった」
「それに、お嬢様から男の匂いがしますので、すぐに分かりました。……朝食はついでで構いません。まずはお嬢様を綺麗にしなければ」
「同感。……中には挿れられてないみたいだけど、ここから男の濃い魔力を感じる。擦り付けられて悦んじゃった? 気持ち良いって悦がって達しちゃったのか?」
「ふふ。許せませんね。……お嬢様は、私たちのただ一人の愛しい主であるのに」
「フィル、ナハト? お、怒っているの?」
二人が怒るだなんて、ゲームの中では一度も見たことがない。戸惑う私をよそに、二人は酷く優しく触れてきた。大事に大事に、まるで壊れやすい宝物にでも触れるかのように。
「まさか。私たちがお嬢様に怒るだなんて、あり得ません。……あまり時間もありませんし、今すぐ綺麗にしましょう。お嬢様に触れた男の匂いを完全に消さなければ」
「ひゃあっ! ま、待って! 私、今朝は疲れ――」
「大丈夫。疲れないように、優しくする。あまりイカせないようにするから」
「なっ! やっ……あっ、あっ、だめ! やぁあああんっ!」
昨日エリック様に熱くて硬い男根を何度も繰り返し擦り付けられた秘処を、二人が満遍なく丁寧に舌を使って舐め上げていく。レロレロ、ヌルヌル、ぴちゃぴちゃと耳に届く卑猥な水音。しかも二人の唾液にはインキュバス特有の催淫効果があるわけで。それだけでも十分耐えられないほど気持ち良過ぎて辛いのに、イクと体力を消耗するからと、散々焦らされて、朝からハード過ぎる快楽に沈められてしまったのだった。やっぱり、二人の食事事情改善は一番の急務よ!
遅刻しない時間ギリギリまで休んだ私は、いつも通りアルディエンヌ公爵家の馬車で学園へと向かった。学園へ到着すると、従者として同乗させたフィルのエスコートを受け、ゆっくりと馬車から降りる。
ちなみにナハトは私の夢空間で待機しているらしい。本人が起きていても、夢の空間はそのまま存在しているなんておかしな気がするけど、インキュバスの能力ありきのことなのだろう。
フィルとナハトは従魔だけど、その事実を学園側に伝えてしまうと、フィルとナハトは学園に入れなくなってしまう。隷属させている従魔とはいえ、二人は魔物だからだ。万に一つでも、間違いが起こってはならない。それ故に、従魔ということは秘密であり、学園へは私の従者として許可をもらっている。
公爵家には敵が多い。それに、昨日のこともある。昨日のように、知らぬ間に媚薬を盛られてしまうようなことがあってはならないのだ。フィルとナハトは、その為の護衛。
(……視線が痛い。特に女子生徒からの視線が)
インキュバスであるフィルの見た目は、人間離れした超絶美少年だ。美しく整った顔立ち、まるでルビーのような深紅の瞳に、紫色の紐で一つに束ね、左サイドに流している淡い桃色のサラリとした長い髪。背はそれほど高くないが、前世での日本人女性の平均身長より少し高い私の身長よりは高い。服装は執事の着る燕尾服のような制服を着用しており、胸元のポケットにはアルディエンヌ公爵家の紋章が刺繍されている。全体的にシックなその制服は、フィルにとてもよく似合っていた。待機中のナハトも当然フィルと同じ格好だ。
(フィルとナハトの従者の制服姿、格好良過ぎる! ついつい見惚れちゃう。うちの子たちは控えめに言って最高ですっ!!)
内心そんなことを考えながら、フィルを付き従えて校舎の中へ入っていくと、壁に掛けられた掲示板へと目が吸い寄せられた。クラブやサークルの人員を募集する張り紙が貼ってあったのだ。
(インキュバス同好会とかないかなぁ。ご飯事情について情報収集したい……)
インキュバスは人型で、普段はあまり姿を現さない稀少な魔物。知能も高く、能力や容姿も優れている為、彼らは魔物市場では滅多に出回らない高級品なのだ。しかも、彼らの主な用途は貴族の既に結婚している夫人たちの慰み者。学生が従魔にしていること自体がおかしいのだ。
「魔法研究会、馬術クラブ、乙女のお茶会、ダンスクラブ………魔物研究会?」
張り紙を見ていた私は、魔物研究会という名前を目にして、これだ! と心躍らせる。魔物研究会なら、魔物図鑑では分からないインキュバスの生態が分かるかもしれない。張り紙を食い入るように見入っていると、後ろから声を掛けられた。
「リア!」
私はギクリとして、一瞬肩を震わせる。私を『リア』と呼ぶのは、彼しかいないからだ。私の微妙な雰囲気を感じ取ったのか、フィルが後手で私を庇うように彼との間に入った。彼――エリック様との間に。
「失礼、お嬢様に何かご用でしょうか?」
「フィル⁉」
「朝の挨拶をしようと思っただけだが……君は? リアの従者か?」
エリック様が、フィルを見て鋭く瞳を細めた。私は顔色を青ざめさせながら暫し声を失う。
(――やばいっ。庇ってくれるのは嬉しいけど、相手は王族だから! いくらこの学園内では身分平等を謳っていたとしても、これはまずいわ!)
「君は従者だろう? 僕とリアの会話に割って入ってくるなんて、本来ならば許されないよ?」
エリック様が面白くなさそうな顔をして、フィルにそう注意をした。私はそれだけで危うく卒倒しそうになったけれど、注意を受けたフィルの方は全く危機感を抱いていないようで、にこりと笑みを浮かべている。
「そうですか。私にはお嬢様にたかる虫に見え……んむっ!」
「ストップストーーップ!!」
私は、あまりに失礼なことを口走ろうとしたフィルの口を後ろから両手で塞いだ。もっときちんとお勉強させておくべきだったと後悔する。このままでは不敬罪で処罰されてしまう。驚いてキョトンとしているフィルの口を塞いだまま、私はエリック様に謝罪した。
「も、申し訳ありません、エリック殿下! この者はまだ従者として日が浅く、王族との接し方を学んでいなかったのです。従者の失態は主である私の失態! どんな罰であっても私がお受けいたしますので、どうかご無礼をお許し下さい!」
「んん~~⁉(お嬢様⁉)」
フィルの動揺が伝わってくる。しかし、私はフィルの口を塞ぐ自身の両手を退けなかった。これ以上罪が増えたら困るので、とにかく今は黙っていて下さい。
――周囲から聞こえてくるざわめき。ずっと傍若無人で傲慢不遜な態度だったヴィクトリア・アルディエンヌが、ここ最近おとなしいと思ったら、まさか従者を庇うなんて。
たまたまこの場に居合わせた人たちは、正しく青天の霹靂と思ったのかもしれない。前世の記憶を思い出す前の私だったら、間違っても従者を庇ったりなんてしなかったし、むしろこの場で切り捨てていたかもしれない。
あの時の私は、正しくゲームの中の悪役令嬢ヴィクトリアそのものだった。それなのに、今のヴィクトリアは従者を庇い、罰まで受けると口にした。これが本当に、あのアルディエンヌ公爵家のヴィクトリアなのだろうか? と周囲の人たちが訝しむのも無理はない。
これは俗に言う『ゲインロス効果』を期待しよう。不良が捨て猫に優しくしているところを目撃した人が感じるアレである。周囲の人たちが抱く私への印象を大きく変えるチャンス! 私は誠心誠意、平に謝った。もう皆様に迷惑はかけません! 私はまともな令嬢に生まれ変わりました!
そんな私の想いが伝わりますようにと祈りながら、エリック様に頭を下げ続けたのだった。
教室に着いた私は、窓際の席に座りつつ、つい先ほどの出来事を反芻する。
『……リア、頭を上げて? 僕がリアに、こんなことくらいで罰を与えるわけがないだろう? リアの従者の無礼は全て許そう。それに、ここは身分なんて関係ない学園の中なのだから、余程のことでもない限り、僕は王族としての権限を使用しないと約束するよ』
エリック様は目元を赤く染め、キラキラした瞳でフィルの後ろにいる私に熱い視線を送っていた……ように見えた。私の祈りが通じたのかもしれない。しかも、エリック様の私に対する態度や話し方で、周囲の生徒たちは一様に瞠目し、言葉を失っていた。
まぁ、そうだよね。今まで全く興味を持たれてなかったのだし。私がお茶会などで、エリック様に纏わりつき迷惑をかけてしまっていたことは周知の事実。エリック様は表立って非難したりはなさらなかったけど、興味がないのはすぐに分かった。でも、今のエリック様の態度や言動を見る限り、以前のように全く興味がないようには見えないだろう。
『一体、あの二人の間に何があったんだ?』
ひそひそと聞こえてくる声を聞き流しながら、私は急ぎ足で教室へと向かった。あまり注目されるのは苦手なのだ。エリック様の声が聞こえたような気がしたけれど、気のせいだと思い、私は脇目も振らずに歩を進めたのだった。
この学園の教室は、教壇にいる教師が全ての生徒たちからよく見えるように設計されていて、段々と後ろの席の方が高くなっている。真ん中に通路があり、その両脇には一列ずつ教室の端まである長い机が設置されていて、座る席は自由となっていた。私が窓際後方の端にある席に腰を下ろすと、隣にエリック様がやってきた。ちなみに従者であるフィルは、授業中は教室に入れない為、隣の従者用の部屋で待機している。
「リア、隣に座ってもいいかな?」
「え、エリック殿下! 勿論です! どうぞお座りください!」
「ありがとう」
にこにこと笑顔で隣に座るエリック様を見て、私も微笑もうとしたのだけど、ついぎこちなくなってしまった。だって昨日の今日ですし。何でわざわざ私の隣に座るの? まさか、本当に私のことを知ろうと思って、有言実行?
やがて教師がやって来て、一限目開始のベルが鳴った。特に問題なく進んでいたのだけれど、授業が中盤まで進んだ頃、廊下から誰かがバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。嫌な予感。その足音は私たちがいる教室の前で止まり、勢いよく扉が開かれる。
「遅れましたぁ! クラリスです! よろしくお願いします!」
肩まであるフワフワのストロベリーブロンドの髪に、大きなマリンブルーの瞳をした、明るく活発そうな美少女。春らしいピンク色のドレスを身に纏っていて、とても可愛らしい印象を受ける。間違いない。ヒロインだ。教師が遅れた理由を問い質すと、彼女は悪びれた様子もなく、教室の場所が分からなくて迷子になっていたのだと告げた。クラス中の生徒たちに注目されているというのに、全く気にしていないようで、鋼のメンタルだなと素直に感心してしまう。
(あれ? 今、一瞬だけこっちを見た?)
睨まれたように見えたけれど、相手はヒロインだ。この乙女ゲームのヒロインは、王道美少女設定なので、正義感が強く、真面目でドジっ子。しかしR18指定なだけあって、スタイルはけしからん感じにボンキュッボンなのだ。
そんなヒロインに睨まれたように見えただなんて、きっと気のせいに違いない。そう考えていた時、私は不意にヒロインとエリック様の出会いイベントのことを思い出した。出会いイベントは入学式が終わったあとに起こるのだが、エリック様は昨日、ヒロインのクラリスと出会っていたのだろうか? 思わずエリック様をじっと見つめると、私の視線に気付いたエリック様が、柔らかく微笑みながら「どうかした?」と尋ねてきた。
「エリック様は、昨日彼女と……クラリス様とお会いしましたか?」
「クラリス嬢? ……今あそこで先生と話している彼女のことかい?」
「はい」
「いや? 僕は入学式に参加していないからね。だから、彼女とは会っていないな」
「……え?」
私の戸惑いが顔に出てしまっていたようで、エリック様が首を傾げながら「リア?」と私の名前を呼ぶ。私はハッとして、咄嗟に誤魔化してしまった。
「いえ、変なことを訊いてしまって申し訳ありません」
「……」
訝しんだようなエリック様の瞳。これは全く誤魔化せてない感じですな。前世の記憶を思い出してからというもの、私は嘘が下手くそになってしまったようだ。いや、思い出す前のヴィクトリアも嫌なものは嫌だと我慢しない性格だったので、嘘をつく必要がなかったとも言える? まぁ悪事に関しては「していませんわ! どこに証拠がありますの?」って感じで嘘ついていたけど、バレバレだったし。
……あれ? 実は本質的にはあんまり変わってなくない? いや、きっと大丈夫。この学園って授業は全部選択だから、毎回エリック様と授業が被る可能性は低いし、一限目が終わったあと、速やかにこの場を離れれば、きっとこのまま有耶無耶にできるはず……
そんな風に思っていた時もありました。私は今、教師に頼まれてエリック様と資材室に来ている。
「こら、適当なところに片づけちゃ駄目だろう? この資材はこっちの棚だよ。リアって、意外と大雑把な面があったんだね。可愛い。また知らなかったリアの一面が知れて嬉しいよ」
どうしてすぐに可愛いとか言うの? 以前の私たちの会話は、『エリック殿下! 今日の私の装いはいかがでしょうか? エリック様の瞳の色に合わせましたの!』『……うん。いいんじゃないかな?』って感じで明らかに社交辞令だったし、目も笑っていなかった。それなのに、それなのに……
――ドクンッ
(え?)
突然激しくなる鼓動。エリック様の発言にときめいてしまったのかと思ったけど、無理矢理身体が熱くなっていく感覚に覚えがあった。何せ、昨日体験したばかりなのだから。
「ところでリア。さっきのクラリス嬢のことだけれど……リア?」
エリック様が私の異変に気付く。一体どうして? 授業を受けている時は何ともなかったのに。資材室に入って、エリック様と二人きりになった途端に、こんな……
「リア! まさか、また……?」
エリック様に肩を抱かれた瞬間、お腹の奥が甘く疼いてしまう。
「……また、みたいです。申し訳ありませ……っ」
「謝らないでいい。リアは悪くないのだから。しかし、これは……」
昨日と同じ状態になってしまった私を見て、エリック様は困惑している様子だ。今日は学園に着いてから今の今まで、私の周囲には常に誰かがいた。当然、飲食もしていない。状況的に媚薬を盛るのは不可能だ。それなのに、昨日と同じ状態となってしまった。私自身、訳が分からなくて泣きそうよ。この涙は私の身体に起きている状態異常のせいかもしれないけど。
「状況的に考えて、恐らくこれは呪いの類だと思う」
「呪い……?」
エリック様が真剣な表情で、私にそう告げた。そんな。記憶を思い出す前の私は、そこまで誰かに恨まれていたと言うの? いや、確実に恨まれていた。ということは、この呪いは正しく私の身から出た錆ってことですか。なんてこった。
「とりあえず、話はあとにしよう。今は、リアの身体を楽にしてあげるのが先だ」
『楽にしてあげる』と言われて、私は勢いよく首を左右に振った。
「王太子であるエリック殿下に、一度ならず二度までも、このようなご迷惑を……っ、お掛けするわけにはいきません……」
私がそう言うと、エリック様は眉根を寄せてからフッと苦笑した。
「また、殿下と言ったね。無意識かな? 実は今朝も何度か僕のことを殿下と呼んだよ?」
「へ……」
「呼び方一つで、嬉しくなったり悲しくなったりするだなんて知らなかった。ゆっくりでいいから、殿下と呼ばないことに慣れてほしい。……身体、辛いだろう? 今から僕が楽にしてあげるよ」
エリック様が、資材室の隅に置かれていた一人掛けの椅子に、私を座らせた。そうして、ドレスのスカートを捲り、恥ずかしい染みのついたショーツを熱っぽい瞳で見つめてくる。
「僕がいっぱい気持ち良くしてあげるから。だから、僕の名前を沢山呼んで? リアにとっては不本意な状況だと思うけど、今だけは頭の中を僕でいっぱいにしてほしい」
「……っ」
エリック様はそう言って、昨日と同じように、私の秘処にその綺麗過ぎる端正な顔を埋めた
「あっ、あっ、だめぇ……えりっく、さまぁ……!」
気持ち良くて身体が震えてしまう。両足の間で、必死に私の花芽にしゃぶりつくエリック様に、いやいやと首を振るけれど、全く止めてくれなくて。
「これは恐らく呪いなのだから、甘く見てはいけないよ? 何度イケば呪いが落ち着くのか、それとも落ち着く条件が別にあるのか、期間や場所、何に左右されるのか、慎重に調べていかないと。だから、リアも協力して?」
「協力……?」
「そう。どこが気持ち良いのか、どこに触れてほしいのか。……どう触れられるのが好きなのか」
「……っ」
「全部教えて、リア。……どこに呪いを解くヒントがあるのか分からないし。ね?」
「そ、そんな……ひぅっ」
エリック様の形の良い口に、下着の上から花芽をすっぽり包み込まれ、舌先で何度も転がされてしまい、甘い声が溢れて止まらない。
「やぁ……! そこ、ばっかり……だめぇ……!」
「だめ? ……ああ、そうか。リアは直接舐めてほしいんだね? いいよ」
「そ、そうじゃなくて……やぁああああっ」
ショーツをズラされて、直接花芽を舌で舐めしゃぶられ、目の前がチカチカと明滅する。
「イキそう? イク時は昨日みたいにちゃんと言うんだよ?」
そう言うなり、エリック様が執拗に花芽を舐め回し、蜜壺の中へ指を挿入して、花芽の裏側にあるザラザラした部分を指で何度もトントン押して、擦り始めた。
「だめ……っ、両方はだめなのぉ……っ」
「駄目、駄目ってそればっかりだね。何がどう駄目なのか、教えてくれないと分からないよ」
エリック様は秘処から顔を上げて話している時も、ずっと指先で花芽をカリカリ弄ってくる。堪らない快楽に、思わず腰が揺れてしまう。微笑むエリック様からは壮絶な色気が駄々漏れていた。
「ほら、言って? 何が駄目なの?」
私は息も絶え絶えに、花芽を弄られてゾクゾクと気持ち良くなりながら、涙目でエリック様に伝える。何が駄目なのか、理解してほしくて。
「き、気持ち良く……なっちゃうの。一緒にされると、おかしくなっちゃ……」
「……そんなに気持ちが良いの? おかしくなっちゃうくらい?」
「う、ん……! 気持ち良い……」
「リア、誰に何をされるのが気持ち良いの?」
「ひぅっ! え、えりっくさまに……、お豆吸われたり、舐められ、たり……きゃうっ」
「うん。それで?」
……あれ? 何だか私、すごく恥ずかしいことを口走ってしまっているような? 会話していても、エリック様は止まってくれない。それどころか、恍惚としたような蕩けた顔をして、蜜を絡ませたヌルヌルの指で花芽を挟んで扱き、蜜壺の中に挿入されている指も、いつの間にか本数を増やされて、じゅぼじゅぼぐぷぐぷと卑猥な水音を奏で続けている。
「ゆび、指で中……擦られたり……、出たり入ったり……っ」
「お豆を弄られながら、ぐっしょり蕩けた蜜穴の中を指で突っ込まれるのが気持ち良いの?」
「そんな……っ、あぁんっ」
「リア? ちゃんと答えて?」
私は何とも答えられないまま、返事は今すぐでなくともいいと言うエリック様のお言葉に甘えて、王宮から貸してもらった馬車に乗り込み、公爵邸への帰路についた。
入学式は昼間だったのに、もうすっかり辺りは暗くなってしまっている。公爵家には、エリック様から連絡がいっていた為、特に叱られることはなかったが、大層心配されてしまった。心配してくれたのは、お父様の他はフィルとナハトだけだったけども。
以前の私を知っている使用人たちには、前世の記憶を思い出したあと、機を見て謝罪した。だけどやっぱり、すぐには受け入れられないのだろう。仕方ない。焦っても仕方がないことだし、分かってもらえるようにコツコツ頑張ろう。
その晩、疲れ切った私は湯浴みのあと、ベッドに入るなり気絶するように眠りについたのだった。
***
「この世界にもネットがあればいいのに……」
翌朝。私はそう呟きながら、自分のベッドで必死に起き上がろうとしていた。しかし、昨日の疲れが残っているせいか、なかなか身体は言うことを聞いてくれない。私は小さく溜め息をついて、柔らかな枕に顔を埋めた。
正直言って今の私の頭の中はぐっちゃぐちゃだ。昨日は突然媚薬を盛られ、エリック様とあんなことやそんなこと……。しかも、何故か告白のようなものまでされてしまった。完全にキャパオーバーである。
せめて、フィルとナハトの食事事情だけでも解決したい。全て私が無計画であの二人の主になってしまったことが原因なのだけど、最推しである二人を放ってなんておけないし、前世を思い出すタイミングなんて自分では選べないのだから、こればかりはどうにもならない。
今すぐ教えて〇〇! 的なサイトで、『インキュバスの主をしている方、普段の食事、どうしていますか?』って質問したい。このままでは身が持たない。身体は処女のはずだけど、むしろすごく……
(朝から私は何を考えているの? 思い出しちゃうじゃないっ)
私はぶんぶんと頭を振って、再び思考を巡らせる。今すぐインキュバス関連のコミュニティとかに入って訊いて回りたい。最初、私はキスだけで済まそうとした。けれど、そのキス自体が厄介で。唾液による催淫効果で、私の身体が媚薬を盛られるのと同じ状態になってしまうのだ。
(頬や額にキスするくらいじゃ、全然精気を食べられないらしいし)
インキュバスたちの食事となる精気とは、淫らな行為でなければならないらしい。
(そう考えると、ヒロインてすごい。体力もメンタルも底なしね。悪役令嬢ヴィクトリアにフィルとナハトをけしかけられて、えっちなことをされて、そこから更に他の攻略対象者たちともエロイベントをこなしていたなんて)
私は戦慄した。これがR18指定の世界か。恐るべしR18。私、早死にするかもしれない。
「早急に何か対策を考えないと……」
フィルとナハトは前世からの最推しキャラ。今世ではただのキャラクターではなく、リアルに存在する私の大事な従魔。ちょっと前世のゲームで見た時と性格が変わってしまっている気もするけど、基本的には良い子たちだし……
――コンコン。
ノックの音がして返事をすると、入室してきたのはまさに今考えていた張本人たち。フィルとナハトの二人だった。
「「おはようございます、ヴィクトリアお嬢様」」
「二人とも、おは……」
「昨日は昼も夜もお預けでしたので、朝食をいただいてもよろしいでしょうか?」
「……」
いやいやいや、良い子たちだよ。うん。フィルとナハトは良い子。ちょっとご飯が特殊なだけ。とりあえず、今日は学園でインキュバスについて調べてみよう。魔物図鑑以外の書物を探すとかね。
ギシッと私のベッドに上がってきた二人は、柔らかく微笑んでいる。けれど、今日の二人はいつもと違った。目が笑っていない。
「昨日、何があったのかは知っております。何らかの方法で媚薬らしきものを盛られたお嬢様は、学園で偶然お会いした王太子殿下に保護され、王宮にて解毒していただいたのですよね?」
フィルが言った通り、公爵家にはそのように通達されている。王太子であるエリック様が私の媚薬効果を緩和させる為に、何をしたのかは当然秘密で、伏せられている。
「え、ええ。そうだけど……」
私が肯定すると、フィルは困ったような顔をしながら、更に距離を縮めて、私の耳元で囁いた。
「『嘘』はいけませんね、お嬢様」
「……うそ?」
ナハトがペロリと舌舐めずりして、私のふかふかな掛け布団をベッドの下へと落とした。
「俺たちは隷属契約によってお嬢様と繋がっている。思っていること全部は分からないけど、単純な喜怒哀楽くらいの感情は感じ取れる」
「⁉」
「お嬢様は昨日、快楽を感じていた。それも、ちょっとやそっとの短い時間じゃなかった」
「それに、お嬢様から男の匂いがしますので、すぐに分かりました。……朝食はついでで構いません。まずはお嬢様を綺麗にしなければ」
「同感。……中には挿れられてないみたいだけど、ここから男の濃い魔力を感じる。擦り付けられて悦んじゃった? 気持ち良いって悦がって達しちゃったのか?」
「ふふ。許せませんね。……お嬢様は、私たちのただ一人の愛しい主であるのに」
「フィル、ナハト? お、怒っているの?」
二人が怒るだなんて、ゲームの中では一度も見たことがない。戸惑う私をよそに、二人は酷く優しく触れてきた。大事に大事に、まるで壊れやすい宝物にでも触れるかのように。
「まさか。私たちがお嬢様に怒るだなんて、あり得ません。……あまり時間もありませんし、今すぐ綺麗にしましょう。お嬢様に触れた男の匂いを完全に消さなければ」
「ひゃあっ! ま、待って! 私、今朝は疲れ――」
「大丈夫。疲れないように、優しくする。あまりイカせないようにするから」
「なっ! やっ……あっ、あっ、だめ! やぁあああんっ!」
昨日エリック様に熱くて硬い男根を何度も繰り返し擦り付けられた秘処を、二人が満遍なく丁寧に舌を使って舐め上げていく。レロレロ、ヌルヌル、ぴちゃぴちゃと耳に届く卑猥な水音。しかも二人の唾液にはインキュバス特有の催淫効果があるわけで。それだけでも十分耐えられないほど気持ち良過ぎて辛いのに、イクと体力を消耗するからと、散々焦らされて、朝からハード過ぎる快楽に沈められてしまったのだった。やっぱり、二人の食事事情改善は一番の急務よ!
遅刻しない時間ギリギリまで休んだ私は、いつも通りアルディエンヌ公爵家の馬車で学園へと向かった。学園へ到着すると、従者として同乗させたフィルのエスコートを受け、ゆっくりと馬車から降りる。
ちなみにナハトは私の夢空間で待機しているらしい。本人が起きていても、夢の空間はそのまま存在しているなんておかしな気がするけど、インキュバスの能力ありきのことなのだろう。
フィルとナハトは従魔だけど、その事実を学園側に伝えてしまうと、フィルとナハトは学園に入れなくなってしまう。隷属させている従魔とはいえ、二人は魔物だからだ。万に一つでも、間違いが起こってはならない。それ故に、従魔ということは秘密であり、学園へは私の従者として許可をもらっている。
公爵家には敵が多い。それに、昨日のこともある。昨日のように、知らぬ間に媚薬を盛られてしまうようなことがあってはならないのだ。フィルとナハトは、その為の護衛。
(……視線が痛い。特に女子生徒からの視線が)
インキュバスであるフィルの見た目は、人間離れした超絶美少年だ。美しく整った顔立ち、まるでルビーのような深紅の瞳に、紫色の紐で一つに束ね、左サイドに流している淡い桃色のサラリとした長い髪。背はそれほど高くないが、前世での日本人女性の平均身長より少し高い私の身長よりは高い。服装は執事の着る燕尾服のような制服を着用しており、胸元のポケットにはアルディエンヌ公爵家の紋章が刺繍されている。全体的にシックなその制服は、フィルにとてもよく似合っていた。待機中のナハトも当然フィルと同じ格好だ。
(フィルとナハトの従者の制服姿、格好良過ぎる! ついつい見惚れちゃう。うちの子たちは控えめに言って最高ですっ!!)
内心そんなことを考えながら、フィルを付き従えて校舎の中へ入っていくと、壁に掛けられた掲示板へと目が吸い寄せられた。クラブやサークルの人員を募集する張り紙が貼ってあったのだ。
(インキュバス同好会とかないかなぁ。ご飯事情について情報収集したい……)
インキュバスは人型で、普段はあまり姿を現さない稀少な魔物。知能も高く、能力や容姿も優れている為、彼らは魔物市場では滅多に出回らない高級品なのだ。しかも、彼らの主な用途は貴族の既に結婚している夫人たちの慰み者。学生が従魔にしていること自体がおかしいのだ。
「魔法研究会、馬術クラブ、乙女のお茶会、ダンスクラブ………魔物研究会?」
張り紙を見ていた私は、魔物研究会という名前を目にして、これだ! と心躍らせる。魔物研究会なら、魔物図鑑では分からないインキュバスの生態が分かるかもしれない。張り紙を食い入るように見入っていると、後ろから声を掛けられた。
「リア!」
私はギクリとして、一瞬肩を震わせる。私を『リア』と呼ぶのは、彼しかいないからだ。私の微妙な雰囲気を感じ取ったのか、フィルが後手で私を庇うように彼との間に入った。彼――エリック様との間に。
「失礼、お嬢様に何かご用でしょうか?」
「フィル⁉」
「朝の挨拶をしようと思っただけだが……君は? リアの従者か?」
エリック様が、フィルを見て鋭く瞳を細めた。私は顔色を青ざめさせながら暫し声を失う。
(――やばいっ。庇ってくれるのは嬉しいけど、相手は王族だから! いくらこの学園内では身分平等を謳っていたとしても、これはまずいわ!)
「君は従者だろう? 僕とリアの会話に割って入ってくるなんて、本来ならば許されないよ?」
エリック様が面白くなさそうな顔をして、フィルにそう注意をした。私はそれだけで危うく卒倒しそうになったけれど、注意を受けたフィルの方は全く危機感を抱いていないようで、にこりと笑みを浮かべている。
「そうですか。私にはお嬢様にたかる虫に見え……んむっ!」
「ストップストーーップ!!」
私は、あまりに失礼なことを口走ろうとしたフィルの口を後ろから両手で塞いだ。もっときちんとお勉強させておくべきだったと後悔する。このままでは不敬罪で処罰されてしまう。驚いてキョトンとしているフィルの口を塞いだまま、私はエリック様に謝罪した。
「も、申し訳ありません、エリック殿下! この者はまだ従者として日が浅く、王族との接し方を学んでいなかったのです。従者の失態は主である私の失態! どんな罰であっても私がお受けいたしますので、どうかご無礼をお許し下さい!」
「んん~~⁉(お嬢様⁉)」
フィルの動揺が伝わってくる。しかし、私はフィルの口を塞ぐ自身の両手を退けなかった。これ以上罪が増えたら困るので、とにかく今は黙っていて下さい。
――周囲から聞こえてくるざわめき。ずっと傍若無人で傲慢不遜な態度だったヴィクトリア・アルディエンヌが、ここ最近おとなしいと思ったら、まさか従者を庇うなんて。
たまたまこの場に居合わせた人たちは、正しく青天の霹靂と思ったのかもしれない。前世の記憶を思い出す前の私だったら、間違っても従者を庇ったりなんてしなかったし、むしろこの場で切り捨てていたかもしれない。
あの時の私は、正しくゲームの中の悪役令嬢ヴィクトリアそのものだった。それなのに、今のヴィクトリアは従者を庇い、罰まで受けると口にした。これが本当に、あのアルディエンヌ公爵家のヴィクトリアなのだろうか? と周囲の人たちが訝しむのも無理はない。
これは俗に言う『ゲインロス効果』を期待しよう。不良が捨て猫に優しくしているところを目撃した人が感じるアレである。周囲の人たちが抱く私への印象を大きく変えるチャンス! 私は誠心誠意、平に謝った。もう皆様に迷惑はかけません! 私はまともな令嬢に生まれ変わりました!
そんな私の想いが伝わりますようにと祈りながら、エリック様に頭を下げ続けたのだった。
教室に着いた私は、窓際の席に座りつつ、つい先ほどの出来事を反芻する。
『……リア、頭を上げて? 僕がリアに、こんなことくらいで罰を与えるわけがないだろう? リアの従者の無礼は全て許そう。それに、ここは身分なんて関係ない学園の中なのだから、余程のことでもない限り、僕は王族としての権限を使用しないと約束するよ』
エリック様は目元を赤く染め、キラキラした瞳でフィルの後ろにいる私に熱い視線を送っていた……ように見えた。私の祈りが通じたのかもしれない。しかも、エリック様の私に対する態度や話し方で、周囲の生徒たちは一様に瞠目し、言葉を失っていた。
まぁ、そうだよね。今まで全く興味を持たれてなかったのだし。私がお茶会などで、エリック様に纏わりつき迷惑をかけてしまっていたことは周知の事実。エリック様は表立って非難したりはなさらなかったけど、興味がないのはすぐに分かった。でも、今のエリック様の態度や言動を見る限り、以前のように全く興味がないようには見えないだろう。
『一体、あの二人の間に何があったんだ?』
ひそひそと聞こえてくる声を聞き流しながら、私は急ぎ足で教室へと向かった。あまり注目されるのは苦手なのだ。エリック様の声が聞こえたような気がしたけれど、気のせいだと思い、私は脇目も振らずに歩を進めたのだった。
この学園の教室は、教壇にいる教師が全ての生徒たちからよく見えるように設計されていて、段々と後ろの席の方が高くなっている。真ん中に通路があり、その両脇には一列ずつ教室の端まである長い机が設置されていて、座る席は自由となっていた。私が窓際後方の端にある席に腰を下ろすと、隣にエリック様がやってきた。ちなみに従者であるフィルは、授業中は教室に入れない為、隣の従者用の部屋で待機している。
「リア、隣に座ってもいいかな?」
「え、エリック殿下! 勿論です! どうぞお座りください!」
「ありがとう」
にこにこと笑顔で隣に座るエリック様を見て、私も微笑もうとしたのだけど、ついぎこちなくなってしまった。だって昨日の今日ですし。何でわざわざ私の隣に座るの? まさか、本当に私のことを知ろうと思って、有言実行?
やがて教師がやって来て、一限目開始のベルが鳴った。特に問題なく進んでいたのだけれど、授業が中盤まで進んだ頃、廊下から誰かがバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。嫌な予感。その足音は私たちがいる教室の前で止まり、勢いよく扉が開かれる。
「遅れましたぁ! クラリスです! よろしくお願いします!」
肩まであるフワフワのストロベリーブロンドの髪に、大きなマリンブルーの瞳をした、明るく活発そうな美少女。春らしいピンク色のドレスを身に纏っていて、とても可愛らしい印象を受ける。間違いない。ヒロインだ。教師が遅れた理由を問い質すと、彼女は悪びれた様子もなく、教室の場所が分からなくて迷子になっていたのだと告げた。クラス中の生徒たちに注目されているというのに、全く気にしていないようで、鋼のメンタルだなと素直に感心してしまう。
(あれ? 今、一瞬だけこっちを見た?)
睨まれたように見えたけれど、相手はヒロインだ。この乙女ゲームのヒロインは、王道美少女設定なので、正義感が強く、真面目でドジっ子。しかしR18指定なだけあって、スタイルはけしからん感じにボンキュッボンなのだ。
そんなヒロインに睨まれたように見えただなんて、きっと気のせいに違いない。そう考えていた時、私は不意にヒロインとエリック様の出会いイベントのことを思い出した。出会いイベントは入学式が終わったあとに起こるのだが、エリック様は昨日、ヒロインのクラリスと出会っていたのだろうか? 思わずエリック様をじっと見つめると、私の視線に気付いたエリック様が、柔らかく微笑みながら「どうかした?」と尋ねてきた。
「エリック様は、昨日彼女と……クラリス様とお会いしましたか?」
「クラリス嬢? ……今あそこで先生と話している彼女のことかい?」
「はい」
「いや? 僕は入学式に参加していないからね。だから、彼女とは会っていないな」
「……え?」
私の戸惑いが顔に出てしまっていたようで、エリック様が首を傾げながら「リア?」と私の名前を呼ぶ。私はハッとして、咄嗟に誤魔化してしまった。
「いえ、変なことを訊いてしまって申し訳ありません」
「……」
訝しんだようなエリック様の瞳。これは全く誤魔化せてない感じですな。前世の記憶を思い出してからというもの、私は嘘が下手くそになってしまったようだ。いや、思い出す前のヴィクトリアも嫌なものは嫌だと我慢しない性格だったので、嘘をつく必要がなかったとも言える? まぁ悪事に関しては「していませんわ! どこに証拠がありますの?」って感じで嘘ついていたけど、バレバレだったし。
……あれ? 実は本質的にはあんまり変わってなくない? いや、きっと大丈夫。この学園って授業は全部選択だから、毎回エリック様と授業が被る可能性は低いし、一限目が終わったあと、速やかにこの場を離れれば、きっとこのまま有耶無耶にできるはず……
そんな風に思っていた時もありました。私は今、教師に頼まれてエリック様と資材室に来ている。
「こら、適当なところに片づけちゃ駄目だろう? この資材はこっちの棚だよ。リアって、意外と大雑把な面があったんだね。可愛い。また知らなかったリアの一面が知れて嬉しいよ」
どうしてすぐに可愛いとか言うの? 以前の私たちの会話は、『エリック殿下! 今日の私の装いはいかがでしょうか? エリック様の瞳の色に合わせましたの!』『……うん。いいんじゃないかな?』って感じで明らかに社交辞令だったし、目も笑っていなかった。それなのに、それなのに……
――ドクンッ
(え?)
突然激しくなる鼓動。エリック様の発言にときめいてしまったのかと思ったけど、無理矢理身体が熱くなっていく感覚に覚えがあった。何せ、昨日体験したばかりなのだから。
「ところでリア。さっきのクラリス嬢のことだけれど……リア?」
エリック様が私の異変に気付く。一体どうして? 授業を受けている時は何ともなかったのに。資材室に入って、エリック様と二人きりになった途端に、こんな……
「リア! まさか、また……?」
エリック様に肩を抱かれた瞬間、お腹の奥が甘く疼いてしまう。
「……また、みたいです。申し訳ありませ……っ」
「謝らないでいい。リアは悪くないのだから。しかし、これは……」
昨日と同じ状態になってしまった私を見て、エリック様は困惑している様子だ。今日は学園に着いてから今の今まで、私の周囲には常に誰かがいた。当然、飲食もしていない。状況的に媚薬を盛るのは不可能だ。それなのに、昨日と同じ状態となってしまった。私自身、訳が分からなくて泣きそうよ。この涙は私の身体に起きている状態異常のせいかもしれないけど。
「状況的に考えて、恐らくこれは呪いの類だと思う」
「呪い……?」
エリック様が真剣な表情で、私にそう告げた。そんな。記憶を思い出す前の私は、そこまで誰かに恨まれていたと言うの? いや、確実に恨まれていた。ということは、この呪いは正しく私の身から出た錆ってことですか。なんてこった。
「とりあえず、話はあとにしよう。今は、リアの身体を楽にしてあげるのが先だ」
『楽にしてあげる』と言われて、私は勢いよく首を左右に振った。
「王太子であるエリック殿下に、一度ならず二度までも、このようなご迷惑を……っ、お掛けするわけにはいきません……」
私がそう言うと、エリック様は眉根を寄せてからフッと苦笑した。
「また、殿下と言ったね。無意識かな? 実は今朝も何度か僕のことを殿下と呼んだよ?」
「へ……」
「呼び方一つで、嬉しくなったり悲しくなったりするだなんて知らなかった。ゆっくりでいいから、殿下と呼ばないことに慣れてほしい。……身体、辛いだろう? 今から僕が楽にしてあげるよ」
エリック様が、資材室の隅に置かれていた一人掛けの椅子に、私を座らせた。そうして、ドレスのスカートを捲り、恥ずかしい染みのついたショーツを熱っぽい瞳で見つめてくる。
「僕がいっぱい気持ち良くしてあげるから。だから、僕の名前を沢山呼んで? リアにとっては不本意な状況だと思うけど、今だけは頭の中を僕でいっぱいにしてほしい」
「……っ」
エリック様はそう言って、昨日と同じように、私の秘処にその綺麗過ぎる端正な顔を埋めた
「あっ、あっ、だめぇ……えりっく、さまぁ……!」
気持ち良くて身体が震えてしまう。両足の間で、必死に私の花芽にしゃぶりつくエリック様に、いやいやと首を振るけれど、全く止めてくれなくて。
「これは恐らく呪いなのだから、甘く見てはいけないよ? 何度イケば呪いが落ち着くのか、それとも落ち着く条件が別にあるのか、期間や場所、何に左右されるのか、慎重に調べていかないと。だから、リアも協力して?」
「協力……?」
「そう。どこが気持ち良いのか、どこに触れてほしいのか。……どう触れられるのが好きなのか」
「……っ」
「全部教えて、リア。……どこに呪いを解くヒントがあるのか分からないし。ね?」
「そ、そんな……ひぅっ」
エリック様の形の良い口に、下着の上から花芽をすっぽり包み込まれ、舌先で何度も転がされてしまい、甘い声が溢れて止まらない。
「やぁ……! そこ、ばっかり……だめぇ……!」
「だめ? ……ああ、そうか。リアは直接舐めてほしいんだね? いいよ」
「そ、そうじゃなくて……やぁああああっ」
ショーツをズラされて、直接花芽を舌で舐めしゃぶられ、目の前がチカチカと明滅する。
「イキそう? イク時は昨日みたいにちゃんと言うんだよ?」
そう言うなり、エリック様が執拗に花芽を舐め回し、蜜壺の中へ指を挿入して、花芽の裏側にあるザラザラした部分を指で何度もトントン押して、擦り始めた。
「だめ……っ、両方はだめなのぉ……っ」
「駄目、駄目ってそればっかりだね。何がどう駄目なのか、教えてくれないと分からないよ」
エリック様は秘処から顔を上げて話している時も、ずっと指先で花芽をカリカリ弄ってくる。堪らない快楽に、思わず腰が揺れてしまう。微笑むエリック様からは壮絶な色気が駄々漏れていた。
「ほら、言って? 何が駄目なの?」
私は息も絶え絶えに、花芽を弄られてゾクゾクと気持ち良くなりながら、涙目でエリック様に伝える。何が駄目なのか、理解してほしくて。
「き、気持ち良く……なっちゃうの。一緒にされると、おかしくなっちゃ……」
「……そんなに気持ちが良いの? おかしくなっちゃうくらい?」
「う、ん……! 気持ち良い……」
「リア、誰に何をされるのが気持ち良いの?」
「ひぅっ! え、えりっくさまに……、お豆吸われたり、舐められ、たり……きゃうっ」
「うん。それで?」
……あれ? 何だか私、すごく恥ずかしいことを口走ってしまっているような? 会話していても、エリック様は止まってくれない。それどころか、恍惚としたような蕩けた顔をして、蜜を絡ませたヌルヌルの指で花芽を挟んで扱き、蜜壺の中に挿入されている指も、いつの間にか本数を増やされて、じゅぼじゅぼぐぷぐぷと卑猥な水音を奏で続けている。
「ゆび、指で中……擦られたり……、出たり入ったり……っ」
「お豆を弄られながら、ぐっしょり蕩けた蜜穴の中を指で突っ込まれるのが気持ち良いの?」
「そんな……っ、あぁんっ」
「リア? ちゃんと答えて?」
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