77 / 113
旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
蜜月の始まり
しおりを挟むヴィクトリアがアスモデウスに陥落してしまってから、月日が流れ――――
留学生だったレオンハルトは母国へ帰国し、ヴィクトリアやエリック達は無事にリリーナ魔法学園を卒業した。
そして、卒業と同時にエリックは自ら王太子の座を返上して弟へ託し、ヴィクトリアの生家であるアルディエンヌ公爵家に婿入りという形で結婚。
ジルベールは宰相補佐兼、アルディエンヌ公爵家お抱えの筆頭魔法師となり、アベルもまたアルディエンヌ公爵家お抱え騎士団へ入団を果たした。
「リア、大丈夫かい?ごめん。昨日の夜は、無理させ過ぎちゃったね」
こうして迎えた蜜月。
昨夜はまさしく初夜だった。
(ぜ、全然眠れなかった……ほぼ一睡も……)
ヴィクトリアが朝食の席で、姿勢は美しく保っているものの、疲労によりぐったりしていると、フィルとナハトが傍へと歩み寄り、心配そうに眉尻を寄せた。
「ヴィクトリア様。体調が優れないのであれば、すぐにお部屋で休まれた方が良いかと……」
「フィル。心配してくれてありがとう。だけど、私は大丈……っ?!」
そう微笑みながら話すヴィクトリアを、ナハトが問答無用でお姫様抱っこした。
あまりの出来事に呆然とし、室内の端に控えていた使用人達も驚いて「お嬢様!」と声を上げる。
しかし、それらは一瞬の事で、ナハトの魔力が室内に広がると、すぐにまた静かになった。使用人達は、まるで何事も無かったかのように、元の定位置でぼんやりとした虚ろな目をしながら控えている。
その様子を一部始終見ていたエリックが、「君達は相変わらずだね」と、やや溜め息混じりに声を漏らした。
「淫魔特有の幻惑魔法。以前にも見た事があるけれど、全く大したものだ」
「黙れ。この色ボケ王太子」
エリックの呆れたような声に、ナハトがすかさず言い返して、ギロリと殺気を込めた眼差しで睨み付ける。
「形式上、昨日は貴様に譲ったが、これからはそうはいかない。俺達のヴィクトリアに、こんなに無理をさせて……」
「僕はもう王太子じゃない。これからは僕がこの屋敷の主で、君達の御主人様の伴侶だ。君達の方こそ、今後は今まで通りにはさせないよ」
二人の間でバチバチと散る火花。
ヴィクトリアは眉尻を下げ、自分を抱き上げているナハトを見上げる。
「ナハト、私は自分で歩けるわ。心配してくれるのは嬉しいけど、お願いだから降ろして?いくら幻惑魔法で誤魔化しているとはいえ、人前では……」
しかし、ヴィクトリアが最後まで言い切る前にハッとする。
ナハトがまるで捨てられた子犬のような瞳で、寂しそうに見つめてきたからだ。
幻覚なのか、しょんぼりと垂れた耳も見える。
「……どうしても駄目か?俺が嫌なのか?」
駄目じゃない。
駄目ではない。
嫌だなんてとんでもない。
ヴィクトリアは顔を真っ赤にさせながら、すぐに顔を左右に振った。
「ち、違うの、ナハト。あの、ナハトが嫌とかじゃなくて」
「ヴィクトリアは俺達のヴィクトリアだったのに、アイツと結婚したから、もう俺達のヴィクトリアじゃないのか?」
ヴィクトリアの胸をナハトの言葉が射貫く。
どうやらナハトは、以前よりもヴィクトリアに対して甘え上手になってしまったようだ。
ヴィクトリアはナハトの服をきゅっと掴みながら、早々に観念してしまった。
「わ、分かりました。……ナハト。私をこのまま部屋に連れて行って」
「勿論!」
ぱぁっ!と無邪気な笑顔を見せるナハトに、エリックが青筋を立てながら笑みを浮かべた。
「ちょっと待ちなさい。それなら、リアは僕が部屋まで運ぶよ。妻を運ぶのは夫である僕の役目だからね」
そう言って席を立とうとするエリックの前に、フィルが立ち塞がる。
「色ボケ若旦那様は、朝食後、領地のお仕事が待っておりますので、早々にそちらに取り掛かるべきかと存じます」
従者の鏡のようなアルカイックスマイルを浮かべながら、言外に『お前はお呼びじゃないから、さっさと飯食って仕事してこい』と伝えるフィル。
「本当に君達は、出会った当初から僕に対して容赦がないな……!ずっとヴィクトリアの傍にいられた君達と違って、僕はやっと一緒に居られるようになったばかりなんだよ?蜜月なんだよ?」
「だから初夜は二人きりにさせてあげたでしょう?早く仕事に行け、当主様」
「いやいや、当主に対してどれだけ無礼なのかな?!リアの父君に対してはそんな態度じゃなかっただろう?!」
エリックから投げ掛けられた疑問に、フィルとナハトは心底呆れ果てたような冷めた瞳で見つめ返した。
「旦那様はヴィクトリア様の父君。貴方様と一緒にしないでいただきたい」
「旦那様と、今は亡き奥様がいなければ、ヴィクトリアはこの世に生まれていなかった。つまり」
「旦那様と亡き奥様は、ある意味では神に等しいわけで」
「「要するに、お前と一緒にするな」」
ハモるフィルとナハト。
エリックからは殺気が漂い始め、ヴィクトリアは顔を青くした。
このままでは屋敷内で戦争が始まってしまう。
そう危惧した矢先、誰かがダイニングの中へ、まるで我が家同然にズンズンと入ってきた。
人間の貴族が着るような軽装に身を包んだ、最上位悪魔――――アスモデウスだ。
「まぁ落ち着け、糧共よ。でないと、ヴィクトリアは私が攫っていくぞ?」
* * *
11
お気に入りに追加
2,985
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?


夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。