上 下
58 / 113
旧ver(※書籍化本編の続きではありません)

仕事に勤しむ三人

しおりを挟む


せない」

眉根を寄せ、そう不満げに漏らしたのはエリックだ。

王太子専用の執務室にて、エリックの手伝いをしていたジルベールが、顔さえ上げずに手元の書類に目を通しながら「何がですか?」と問い掛ける。

「僕は父上に叱られた上、まだこんなにも仕事が残っているというのに、どうしてジルはそんなに余裕があるんだ?」
「それは勿論、仕事が溜まらないようにしていたからでしょう」
「なんだって?……あの状況で、よく仕事をしようと思えるな。僕はリアから片時も離れたくなかったというのに。……まぁ、途中で休息は取っていたが……」
「ああ、レオンハルト殿下の時ですね」
「…………」
「あの場には、精気を与える人間が四人も居た。しかも全員、彼女に好意を持っている。であれば、彼女はすぐに回復し、危機的な状況からは脱するだろうと、容易に想像出来る。だから焦る必要も無いし、仕事にも手が回る」
「……僕は嫉妬で気が狂いそうだったけど?」
「僕にだって嫉妬の気持ちくらいありますよ。……ですが、まぁ、今更ですし。それに、僕は殿下と違って夢の中でばかり彼女を抱いていましたからね。彼女の命を救う為とはいえ、現実世界で堂々と抱けるだなんて願ってもない事でしたから」

ヴィクトリアとの情事を思い出したのか、僅かに口元に綻ばせるジルベールに、エリックは苛立ちながら仕事を再開する。

「……いつもあんな感じなのか?」
「あんな感じとは?」
「その……媚薬とか……」

エリックが言葉を濁ませつつ、ボソボソと口にすると、ジルベールは「ああ」と納得したように答えた。

「媚薬や玩具の事でしたら、そうですね。その方が興奮しますし、何より彼女が気持ち良さそうですから」
「いや、だが……」
「殿下も見たでしょう?あんなに気持ち良さそうに悦がって喘ぐ彼女を。殿下には申し訳ないですが、僕と彼女の身体の相性は抜群です。僕以外の男では、きっと満足出来ないでしょう」
「ジル、お前……」

幼い頃から共に過ごしてきたジルベールに対して、ここまで殺意が芽生えたのは初めてだ。
しかし、一時の感情を暴走させてジルベールを殺すわけにはいかない。
そうして、エリックの意識はこの場に居ないヴィクトリアへと向けられた。

腹立たしいことこの上ないが、確かにヴィクトリアはジルベールとの情事で激しく感じていたようだった。
もしかしたら、ジルベールが言う通り、本当に他の男では満足出来ない身体になってしまったかもしれない。

(いや、しかし……)

そこまで考えてから、エリックははたと気付く。

(リアは僕との情事でも、十分感じてくれていた筈だ)

エリックが王宮へ戻ってきてから既に数日経っているが、あの日の事は今でも昨日の事のように鮮明に思い出せる。


『好きっ……好きぃ♡♡エリックとするの、大しゅきぃぃ♡♡♡』
『嗚呼、リア!僕も好きだよ♡大好きだよ♡僕のリア♡♡………さぁ、出すよ?僕の子種を出すよ?全部、受け止めて……!』
『ひゃあああん♡♡♡イクの、止まらな……アアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー♡♡♡♡♡』

……………………
…………


「…………」
「殿下?……どうかしましたか?」
「いや、何でもない」

可愛すぎるヴィクトリアを思い出し、エリックは赤くなった顔を隠すように片手で覆う。

(馬鹿か、僕は。思い出したら勃ってしまうなんて……)

涙で潤んだ瞳、上気した頬、濡れた唇。どこもかしこも柔らかく、蜜を溢れさせてぐずぐずに蕩けた身体。張り詰めた男根を奥まで挿れれば、ヴィクトリアの中が嬉しそうにキツく絡み付いてくる。
まるで、もっともっとと強請るように。

(……リア……)

今すぐ、彼女に逢いたい。
彼女になら――――ヴィクトリアになら、精気を全て吸われても構わない。

それ程までに、エリックはヴィクトリアを愛していた。

「殿下?……少し休憩しましょうか」
「いや、いい。すまないな。早く片付けてしまおう」
「分かりました」

束の間、仕事とは何か別の事を考えていたらしいエリックにジルベールは首を傾げつつ、気を取り直して手にしていた書類へと再び視線を落とす。

窓の外に燦々と輝く太陽はまだ高い。
けれど、残りの書類はまだまだあり、今日中に終わらせるのは難しいだろう。

途中、無言で執務室から出て行ったジルベールが、騎士団で鍛錬を終えたばかりのアベルに拘束魔法を掛け、無理矢理引き摺って戻って来た。
魔物相手であれば決して隙を見せないアベルだが、相手がジルベールだった為に油断してしまったのだ。

「いや、あの……俺、書類仕事とかは苦手なんですけど……?」

そうして、月が夜空に輝き、星が瞬く頃、エリックの仕事は終わった。
明日にはきっと、学園でヴィクトリアに逢えるだろう。


* * *
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】乙女ゲームの主人公に転生してしまったけど、空気になれるように全力を注ごうと思います!!

はる乃
恋愛
孤児院で育ったアリスは、自分を引き取ってくれる事となったリトフォード侯爵に『アリス。君は今日から私の娘だ』と言われた瞬間、全てを思い出した。この世界が前世で友人に見せられた乙女ゲームの世界で、しかも自分がその乙女ゲームのヒロインだと言うことを。 しかし、アリスはその乙女ゲームのヒロインが魅了の魔法を使っていたのではないかと疑う。 かくして、アリスは恐らく自分に備わっているだろう魅了の魔法で周囲に迷惑をかけないよう、空気になる事を誓うのだった! ※一応R15 更新は遅めです。

傾国の聖女

恋愛
気がつくと、金髪碧眼の美形に押し倒されていた。 異世界トリップ、エロがメインの逆ハーレムです。直接的な性描写あるので苦手な方はご遠慮下さい(改題しました2023.08.15)

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
旧題:泣き寝入りして目覚めたらマッパでした~溺愛三公爵と氷の騎士~ 恋愛下手な「私」がやっと好きになった人に誤解され、手酷く抱かれて、泣きながら眠り、起きたら知らない部屋の寝台の上。知らない男、知らない世界。確かに私、リセットしたいと思いながら寝たんだっけ。この夢、いつ覚めるんだろう?と思いつつ、結局また元いた世界と同じ職業=軍人になって、イケメンだけれどちょっとへんな三人の公爵様と、氷の美貌の騎士様とで恋したり愛したり戦ったり、というお話。プロローグはシリアスですが、ご都合主義満載、コメディシリアス行ったり来り。R18は予告なく。(初っ端からヤってますので)

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

【R18】騎士たちの監視対象になりました

ぴぃ
恋愛
異世界トリップしたヒロインが騎士や執事や貴族に愛されるお話。 *R18は告知無しです。 *複数プレイ有り。 *逆ハー *倫理感緩めです。 *作者の都合の良いように作っています。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にノーチェの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、ノーチェのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。