悪役令嬢は双子の淫魔と攻略対象者に溺愛される

はる乃

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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)

飢餓状態のヴィクトリア*小休止*

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気持ち良すぎて、頭が全く働かない。

『……ヴィクトリア。すまない、無茶をさせ過ぎたな』

優しい労りの言葉を聞いた。
レオンハルトの声音は、エリックより低くて、だけど、とても甘くて。

しっとりと汗に濡れた褐色の肌も、熱を帯びた宵闇の瞳も、彼の呼吸ひとつひとつ、ヴィクトリアにしっかりと刻み込まれた。

『身体は大丈夫だろうか?どうか、ゆっくり休んでくれ。……貴方が誰のものであったとしても、愛している』

微睡みの中で聞いた声。
額に感じた甘く柔らかな熱。

彼は優しい人だ。

(だからこそ、私は……)

いくら精気が必要だからって、こんなの間違ってる。
そう思うのに、空腹が勝り、理性を失くした自分は、彼を欲しがってしまう。
与えられる精気を、全て喰らい尽くしてしまう。

人間の部分が残っている魂と、魔物となってしまった身体が鬩ぎ合う。
まるで、悪役令嬢ヴィクトリアの魂と融合する前のように。

レオンハルトがサロンから出ていくと、フィルとナハト、シュティがやって来て、アベルの時と同様に彼等が身体を清めてくれた。

「……んっ……」

声を出そうとしたけれど、掠れてしまって上手く出せない。
喘ぎ過ぎて喉を痛めたようだ。
気付いたフィルが、喉にそっとキスを落として癒してくれる。

「おいたわしい、ヴィクトリア様……人間の精気など要らないくらい、私とナハトの精気が豊富だったなら良かったのに……」
「フィル、ないものねだりしても仕方がないだろう?」
「なら、ナハトは平気なのですか?私達の大切なヴィクトリア様が、このような目に遭っても」
「平気なわけないだろ。だけど、ヴィクトリア様の命には代えられない。ヴィクトリア様がいなくなってしまったら、そんな世界、俺には耐えられない」

(…………そんなの、私も同じだ。ヴィクトリア様がいない世界なんて、生きていく価値が無い。ああ、私は本当に……)

フィルが、どこか自嘲じみた笑みを口元に浮かべ、そっと長い睫毛を伏せた。
会話の間も、彼等はヴィクトリアの身体を癒し、清めていく。
すぐにまた、ドロドロになると分かっているのに。

「最悪の状態は何とか免れたね。だが、それだけだ。まだまだ危険な状態なのに変わりはない」
「……分かっています」
「いちいち言わなくていい」

シュティの言葉に、フィルとナハトが眉根を寄せてそう答える。
すると、シュティは二人をフンと鼻で嗤い、二人を一瞥した。

「お前達は本当に自分勝手な双子だ。選択したのはヴィクトリアだけど、そうなるよう導いたのはお前達だ。全てはお前達の業とも言える。ヴィクトリアと永く共に在りたいのならば、耐え忍ぶ事を覚えろ」

あの日、あの時。
夢世界で、主である彼女の純潔を奪わなければ。
王太子を筆頭とした人間の男達に嫉妬し、ナハトが暴走しなければ。

二人は口を噤み、悔しげに俯いた。

自分達のちっぽけな独占欲と、短慮による愚かな行いのせいで、彼女を人間から魔物へと変えてしまった。
彼女がサキュバスへ転化した時には、後悔よりも、むしろ歓喜した。

これで彼女は自分達から離れられない。
ずっとずっと傍に居る事が出来ると。

しかし、現実はそんなに甘くなかった。
サキュバスと化した彼女の身体は未だ不安定で、自分達の精気だけでは全く足りなかったからだ。
そのせいで、足りない精気を補うべく、彼女は人間の男達と幾度も身体を重ねる事になってしまった。

彼女が身も心もサキュバスとなり、人間の男を狩るのが愉しいと嗤って精気を喰らい尽くし、相手の男の魂すら刈り取ってしまうような魔物に堕ちていれば、もっと割り切れたかもしれない。
しかし、彼女は魔物に堕ちても、彼女らしさを失くさなかった。本能が優れば、サキュバスらしい蠱惑的で妖艶な姿を覗かせる事もあるけれど、殆どが人間の時と変わらない。

嬉しい反面、彼女が他の男の精気を喰らうべく、彼等と身体を重ねる度に激しい嫉妬と独占欲に駆られてしまう。
本当に自分勝手だ。
彼女をそうさせてしまったのは、他ならぬ自分達のせいなのに。

「フィル……ナハト……?」

思考に浸っていた二人は、ヴィクトリアに名を呼ばれて、ハッと我に返り顔を上げた。

「ヴィクトリア様」
「身体は大丈夫か?どこか痛いところは……」

酷く心配そうに自分を見つめてくるフィルとナハト。
そんな二人を見て、ヴィクトリアは嬉しそうに瞳を細める。

「私は大丈夫よ。ありがとう、フィル、ナハト。」

声を詰まらせる二人の後ろから、シュティが顔を覗かせる。

「ヴィクトリア。我に対する労いは?」
「……シュティも、身体を浄化してくれてありがとう」
「ふふ。いいよ、大好きなヴィクトリアの為なら何でもしてあげる。全部終わって元気になったら、また蜜をお腹いっぱい飲ませてね」
「それは………えっと……」
「おい」
「この獣が。ヴィクトリア様を困らせるな!」

フィルとナハトがいつものようにシュティの言葉に噛みつくと、その様子を見ていたヴィクトリアがくすくす笑う。

それだけで、フィルとナハトも毒気を抜かれ、室内は久しぶりに和やかな空気に包まれた。

沢山の後悔があるけれど、大事なものは変わらない。

「さて、次は眼鏡の………ジルベールといったか。我が連れて来よう」
「……っ」
「“大丈夫”だなんて健気だな。本当はまだまだお腹が空いているくせに」
「それは……」

ヴィクトリアが眉根を寄せて口を噤むと、シュティはヴィクトリアの頭をポンポンと優しく撫でてから、真っ白い煙のようなものに包まれて消えてしまった。
最年長であっても、普段はどこか子供っぽいところがあるシュティだが、頭を撫でられた瞬間だけは、年相応に感じられた。

「ヴィクトリア様。シュティがジルベールを連れてくるまで、暫しお身体をお休め下さい」
「ヴィクトリア様の好きな紅茶を淹れてくるから」
「……フィル、ナハト。ありがとう」


……………………
…………

そうして、良い香りのする温かい紅茶を飲み終えた頃、シュティがジルベールを連れて戻ってきた。

沢山の玩具と共に。


* * *
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