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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
オレリア・ベルティエと謎の美女
しおりを挟む庭園でヴィクトリアが昼食を食べ終えた頃、エリックがジルベールやアベル、レオンハルトを連れて庭園までやって来た。彼等の目的は当然ヴィクトリアで、少しでも彼女の顔が見たかっただけで、他意は無かったのだが。
傍目には、ヴィクトリアがエリック達を侍らせているようにも見えた。
普段は死角となっていて誰も来ない庭園の隅。
しかし、今日は珍しく少し離れた位置の草むらに隠れて、彼等を見つめている少女が居た。
少しウェーブのかかった長い黒髪に、切れ長な黒い瞳。一見清楚な美人系だが、身体はとても肉感的で、たわわに実った豊かな双丘に、キュッと絞られたくびれ、長くスラリとした美脚が見事な少女だった。
彼女を一言で表すとすれば、正しく“美女”という言葉がピッタリとくるだろう。
そんな黒髪黒目の美女は、顔に似合わず、ヴィクトリアを憎々しげに見つめて歯噛みしている。
「……どうして一作目の悪役令嬢が攻略対象者達を侍らせているの?ヒロインのクラリスはどうしたのよ?」
彼女の名前はオレリア・ベルティエ。
R18指定の乙女ゲーム『白薔薇の乙女』の続編として発売された、『青薔薇の乙女』のヒロインである。
「しかも、愛称が“リア”って!思いっきり私と被ってるじゃない……!!」
オレリア・ベルティエは今年リリーナ魔法学園へ入学した16歳になる伯爵家の令嬢だ。前世の記憶がある彼女は、既に二作目の攻略対象者達を二人籠絡しており、後は二作目で一番身分の高い公爵家の嫡男と隠しキャラのみであった。
本来であればオレリアの恋の障害となる筈だった二作目の悪役令嬢さえ、彼女のトラウマを利用し、既に手懐けてある。
攻略は順調だった。
だが、しかし………
「隠しキャラのあの方と接触するには、一作目のヒロインであるクラリスと会話しなくちゃいけないのに……!」
ゲームに登場する本来のクラリスは、その可愛らしい美少女な見た目の他に、明るくて真面目で勤勉。正しく白薔薇と呼ばれるような、聖女のような性格をしていたのだ。それ故、二作目の隠しキャラに目をつけられてしまい、隠しキャラの力によってクラリスは毎晩のように淫らな夢を見るようになってしまう。
そうして、クラリスからその話を聞いた二作目ヒロインのオレリアは、何故そんな夢を見てしまうのか、原因を突き止める為に奔走する。
その結果、オレリアは隠しキャラの正体が誰なのか気付き、正体が知られた事により、隠しキャラの標的がクラリスからオレリアへと変わるのだ。
しかも、全ての攻略対象者達を籠絡した後では、そのままエンディングとなり、隠しキャラルートは閉ざされてしまう。その為、オレリアはクラリスに会って話を聞く為に、学園中を探し回っていたのだが……
「まさかクラリスは、ヴィクトリアに負けちゃったの?それとも、何かがバグッててまだ登場してないの?ううん、何にしても、悪役令嬢であるヴィクトリアがあんなにエリック達と仲良さそうにしているなんておかしいわ」
まさか、ヴィクトリアも自分と同じ転生者?
悪役令嬢が破滅フラグ回避の為に、逆に攻略対象者達を籠絡してしまった、なんて展開、ラノベでよくあったもの。
だけど、それならそれでクラリスは?
彼女がいなければ、隠しキャラルートへ進む事が出来ない。
(二作目の本命は隠しキャラなのに……!)
むしろ、ヴィクトリアがヒロインの位置に居るならば、ヴィクトリアと会話してみればいいのだろうか?
そう思って視線をヴィクトリアに向けるが、すぐに考えていた事よりも苛立ちが先に立つ。目に飛び込んできた光景は、どう見てもヴィクトリアが見目麗しい攻略対象者達を侍らせている逆ハーレムそのもののような光景で。
オレリアは二作目も当然好いてはいたが、実を言うと一作目の方が好きで、攻略対象者も一作目の方が断然好みだったのだ。ちなみに彼女の最推しも一作目に居る。
(嗚呼、私のアベル先輩っ……!!)
オレリアは騎士団長の息子であるアベル・ブリュノーが最推しであった。
アベルは、腹黒なエリックや鬼畜なジルベール、淫魔とのハーフで影を持つ特別講師のルカに、留学生のレオンハルト、聖獣シルクの中で一番気さくで爽やかで害の無いキャラだ。
しかし、好感度を上げてアベルルートに入ってしまえば、普段はややお節介で世話焼きの頼れる常識人なお兄さんだが、一度スイッチが入ってしまえば獣のようにヒロインを求めてくるのだ。
そのギャップがオレリアは堪らなく好きで、しかも魔法の授業で悪役令嬢ヴィクトリアが危険な罠を仕掛けてきた時も、颯爽と現れて、身を挺して庇ってくれたりするのだ。
オレリアは前世の記憶を思い出し、自分が二作目のヒロイン、オレリア・ベルティエに転生したのだと気付いた瞬間、何故一作目では無かったのかと、心底ショックを受けた。クラリスに転生していたなら、迷わずアベルを選ぶのに。
(やっと気を持ち直して、それなら二作目の攻略対象者達を全員攻略して、隠しキャラと幸せになろうと思ったのに……!)
二作目の隠しキャラはアベルとはタイプが違うけれど、ギャップ萌えするオレリアは、普段は自分勝手なくせに好感度が上がってくると戸惑いつつも不器用に大切にしてくれるところが好きで、二作目では隠しキャラ推しなのだ。
しかし、このままでは隠しキャラルートへ進む為の鍵すら掴めない。
それならばせめてアベルを譲れと言いたいところだが、あのアベルの表情を見る限りでは、既に彼のヴィクトリアに対する好感度はMAXだろう。
一度上がり切ってしまえば、そこから奪うのは難しい。
(悪役令嬢のくせに、逆ハーとか!せめて誰か一人に絞っていたら……)
自分も二作目の攻略対象者達を全員落とそうとしているわけだが、都合の悪い事はスルーする。
やがて予鈴が鳴り、ヴィクトリア達が庭園を後にすると、オレリアは隠れていた草むらから出て、苛々しながら親指の爪を噛んだ。
(どうにかならないかしら?隠しキャラが無理なら、アベル先輩と……)
オレリアがそう考えつつ俯いていると、カサッと背後から誰かの足音が聞こえた。身体をビクリと揺らし、オレリアが驚いて振り返ると、そこには見た事の無い妖艶な大人の美女が一人。
オレリアが訝しげに妖艶な美女を警戒しつつ後退ると、彼女はクスリと笑みを浮かべた。
「貴女、欲しいものがあるの?」
「……え?」
「私も欲しいものがあるの。だから、私と協力しましょう?」
「待って。貴女は誰なの?」
「私はディペ。ある高貴な御方にお仕えしているのだけど、最近良からぬ猫がついてしまって」
「……?」
ディペは艷やかな赤い唇で弧を描きながら、惑わすような赤い瞳で、オレリアを見つめる。
「邪魔な泥棒猫は排除しなくちゃね。私の手を取って、オレリア。私なら、きっと貴女の望みを叶えられるわ」
ディペの言葉を聞いて、オレリアはだんだんと頭がふわふわしてきた。
この感覚が一体何なのか分からない。けれど、オレリアはいつの間にか素直にコクリと頷いてしまっていたのだった。
「ふふ。良い子ね、オレリア」
* * *
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