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《分岐》アレク・ユードリヒ
夜の救護所で①
しおりを挟む目が覚めた時、私は救護所のベッドの上に居た。
傍にはアレクとロイが居て、ロイは制服の上着を脱いでシャツを捲り上げ、治癒師の人に回復魔法を施されているところだった。
シャツは一部が真っ赤に染まっている。
「おいコラ。ロイ、思ったより傷が深いじゃねーか。なんで黙ってたんだよ」
「別に大した傷じゃない。骨や内蔵は無傷だ」
「貧血のくせに何言ってやがる。それに、お前の身体強化は俺より完璧だろ?それなのにこんな……」
「まぁ、相手は悪魔だったからな。奴等は中位から上位の魔物だ。隙を見せてしまった俺に非がある」
「…………」
ロイが隙を見せるなんて珍しい事だ。
むしろ、怪我をしたのがアレクならば、そう言われて納得出来たけれど。常に慎重で自らの実力を驕ったりしないのが、二人の知るロイ・シャロッツだ。
ロイの話に、アレクとロゼリアはどこか釈然としない奇妙な違和感を覚えた。
「……アレク、ロイ」
ロゼリアが名を呼ぶと、二人はハッとした表情になって僅かに肩を揺らした。二人の視線が、すぐにロゼリアへと向けられる。
「セルジュ!目が覚めたのか?」
「身体の調子はどうだ?」
二人の表情からは私への心配が見て取れて、胸の内がほっこりしてしまう。思わず笑みを浮かべると、アレクもロイも何故だか顔を朱に染める。
「僕は大丈夫。怪我もしてないしね。アレクとロイこそ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「俺も、もう何ともない」
私は寝ていたベッドで上体を起こし、二人をじっと見つめた。確かに二人とも元気そう。ロイの意外と深かったらしい傷も消えている。
「ロイの傷も大丈夫そうだね」
「掠り傷だったからな」
「コラ、嘘をつくな。嘘を。意外と深かっただろーが。」
「深くなかった。ただの掠り傷だった」
「おいっ」
「ふふっ、あははははっ」
「「!」」
いつも通りの二人のやり取りに、ついつい笑ってしまった。
治癒師さんもにこにこしながら部屋を出ていく。やっぱり三人でいる、この雰囲気が好きだなぁ。
一頻り笑って、私はお腹をさすさすしながら窓の外を見てみると、外はすっかり暗くなってしまっていた。
「……ジェラルドの所へ行こうと思ったのだけれど、今行くのは迷惑かな?」
「はぁ?!」
「こんな時間に男の部屋へ一人で行くつもりか?!」
ちょ、ロイ?!
アレクにまでバレるかもしれないような言動は控えて下さいよ!!
私が慌てて「いや、何の問題も無いでしょ!僕は男なんだよ?!」と言うと、何故か二人とも微妙な顔をした。何なのさ。
「まぁ、さっきの治癒師からも今日は三人共、ここで休むようにって言われてるから」
え?
そうなの?
「ンンッ!!だからな、セルジュ。今夜は一緒に寝れる訳だ。今夜は一緒に、セルジュと一緒に……うっ!」
「ちょっ、ロイ!鼻血出てるけど?!」
「なっ?!お前ナニを想像したんだよ?!セルジュに近付くなっ!!」
「俺を変態みたいに言うのは止めろ!!これは悪魔にやられたからだ!!治癒師さあああああんん!!もう一度ヒールしてくださああああいいっ!!!」
「何が悪魔にやられただよ!!嘘つくなっ!!セルジュは奥のベッドを使え!!」
「アレク、ありがとう。ロイはここからこっちに入ってきたら絶交だから」
「そんなっ?!セルジュ?!」
久しぶりにロイの鼻血を見た。
ロイには私が女だって知られてしまっているから、本当にやましい事を想像したとしか思えない。
……でも、私はこの世界だとモブだよ?本編に一ミリも出てこないし、胸だってサラシで誤魔化せちゃうくらいだし。
ロイは男の娘好きとか?
とりあえず、ロイには近付かないようにしとこ。
私が奥のベッドへ腰を下ろすと、お腹がきゅるるっと鳴ってしまった。アレクとロイがピタリと言い争いを止めて、私の方を凝視する。
今すぐ死にたい。
「ご、ごめ……っ……お腹が空いちゃったみたいで……」
私がお腹を押さえながら顔を真っ赤にしてしどろもどろに空腹を告げると、ロイがシャキンと姿勢良く立ち上がった。
「セルジュ!俺が何か食事を貰ってくる!!」
「え?え?でも、ロイは怪我が治ったばっかり……」
「待っていてくれ!!」
「あっ」
変態扱いされた事が余程堪えたのだろうか?挽回のチャンスだと言わんばかりにロイが部屋から出ていった。鼻血出たままだったけど、ただでさえ怪我で出血していたのに大丈夫なのだろうか?
「あ、アレク。ロイは大丈夫かな?貧血で倒れたりしたら……」
「…………」
「アレク?」
無反応のアレクを不思議に思って、私が首を傾げると、アレクは真っ赤にした顔を両手で覆うように押さえていた。
え。どうしたの??
「アレク?」
「……っ!!可愛すぎかっ……!!耐えろ、俺!……セルジュは男、セルジュは男……」
「え?」
アレク、どうしたの??
小声でよく聞き取れなかったけど。
私はベッドから降りて、アレクの傍へ歩み寄り、キュッとアレクの制服の裾を握った。
「セルジュ?!」
「アレク、大丈夫?何だか顔が赤いみたいだけど、もしかして熱でもあるんじゃ……?」
「ち、違うから!熱なんて全く無いから!ゼロだよ、ゼロ!!」
「いや、ゼロって死んでるからね?!アレク、本当に大丈夫?」
「大丈……ぶ、じゃないっ!!」
「ひゃっ?!」
次の瞬間。
私の視界が反転した。
(あれ?あれれ?これは一体……??)
気が付くと、私はいつかのように、アレクにぎゅうっと抱き締められながら、ベッドに押し倒されていた。
* * *
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