上 下
237 / 245
《分岐》アレク・ユードリヒ

夜の救護所で①

しおりを挟む


目が覚めた時、私は救護所のベッドの上に居た。
傍にはアレクとロイが居て、ロイは制服の上着を脱いでシャツを捲り上げ、治癒師の人に回復魔法を施されているところだった。
シャツは一部が真っ赤に染まっている。

「おいコラ。ロイ、思ったより傷が深いじゃねーか。なんで黙ってたんだよ」
「別に大した傷じゃない。骨や内蔵は無傷だ」
「貧血のくせに何言ってやがる。それに、お前の身体強化は俺より完璧だろ?それなのにこんな……」
「まぁ、相手は悪魔デーモンだったからな。奴等は中位から上位の魔物だ。隙を見せてしまった俺に非がある」
「…………」

ロイが隙を見せるなんて珍しい事だ。
むしろ、怪我をしたのがアレクならば、そう言われて納得出来たけれど。常に慎重で自らの実力を驕ったりしないのが、二人の知るロイ・シャロッツだ。
ロイの話に、アレクとロゼリアはどこか釈然としない奇妙な違和感を覚えた。

「……アレク、ロイ」

ロゼリアが名を呼ぶと、二人はハッとした表情になって僅かに肩を揺らした。二人の視線が、すぐにロゼリアへと向けられる。

「セルジュ!目が覚めたのか?」
「身体の調子はどうだ?」

二人の表情からは私への心配が見て取れて、胸の内がほっこりしてしまう。思わず笑みを浮かべると、アレクもロイも何故だか顔を朱に染める。

「僕は大丈夫。怪我もしてないしね。アレクとロイこそ大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「俺も、もう何ともない」

私は寝ていたベッドで上体を起こし、二人をじっと見つめた。確かに二人とも元気そう。ロイの意外と深かったらしい傷も消えている。

「ロイの傷も大丈夫そうだね」
「掠り傷だったからな」
「コラ、嘘をつくな。嘘を。意外と深かっただろーが。」
「深くなかった。ただの掠り傷だった」
「おいっ」
「ふふっ、あははははっ」
「「!」」

いつも通りの二人のやり取りに、ついつい笑ってしまった。
治癒師さんもにこにこしながら部屋を出ていく。やっぱり三人でいる、この雰囲気が好きだなぁ。

一頻り笑って、私はお腹をさすさすしながら窓の外を見てみると、外はすっかり暗くなってしまっていた。

「……ジェラルドの所へ行こうと思ったのだけれど、今行くのは迷惑かな?」
「はぁ?!」
「こんな時間に男の部屋へ一人で行くつもりか?!」

ちょ、ロイ?!
アレクにまでバレるかもしれないような言動は控えて下さいよ!!

私が慌てて「いや、何の問題も無いでしょ!僕は男なんだよ?!」と言うと、何故か二人とも微妙な顔をした。何なのさ。

「まぁ、さっきの治癒師からも今日は三人共、ここで休むようにって言われてるから」

え?
そうなの?

「ンンッ!!だからな、セルジュ。今夜は一緒に寝れる訳だ。今夜は一緒に、セルジュと一緒に……うっ!」
「ちょっ、ロイ!鼻血出てるけど?!」
「なっ?!お前ナニを想像したんだよ?!セルジュに近付くなっ!!」
「俺を変態みたいに言うのは止めろ!!これは悪魔デーモンにやられたからだ!!治癒師さあああああんん!!もう一度ヒールしてくださああああいいっ!!!」
「何が悪魔にやられただよ!!嘘つくなっ!!セルジュは奥のベッドを使え!!」
「アレク、ありがとう。ロイはここからこっちに入ってきたら絶交だから」
「そんなっ?!セルジュ?!」

久しぶりにロイの鼻血を見た。
ロイには私が女だって知られてしまっているから、本当にやましい事を想像したとしか思えない。
……でも、私はこの世界だとモブだよ?本編に一ミリも出てこないし、胸だってサラシで誤魔化せちゃうくらいだし。
ロイは男の娘好きとか?

とりあえず、ロイには近付かないようにしとこ。
私が奥のベッドへ腰を下ろすと、お腹がきゅるるっと鳴ってしまった。アレクとロイがピタリと言い争いを止めて、私の方を凝視する。
今すぐ死にたい。

「ご、ごめ……っ……お腹が空いちゃったみたいで……」

私がお腹を押さえながら顔を真っ赤にしてしどろもどろに空腹を告げると、ロイがシャキンと姿勢良く立ち上がった。

「セルジュ!俺が何か食事を貰ってくる!!」
「え?え?でも、ロイは怪我が治ったばっかり……」
「待っていてくれ!!」
「あっ」

変態扱いされた事が余程堪えたのだろうか?挽回のチャンスだと言わんばかりにロイが部屋から出ていった。鼻血出たままだったけど、ただでさえ怪我で出血していたのに大丈夫なのだろうか?

「あ、アレク。ロイは大丈夫かな?貧血で倒れたりしたら……」
「…………」
「アレク?」

無反応のアレクを不思議に思って、私が首を傾げると、アレクは真っ赤にした顔を両手で覆うように押さえていた。
え。どうしたの??

「アレク?」
「……っ!!可愛すぎかっ……!!耐えろ、俺!……セルジュは男、セルジュは男……」
「え?」

アレク、どうしたの??
小声でよく聞き取れなかったけど。
私はベッドから降りて、アレクの傍へ歩み寄り、キュッとアレクの制服の裾を握った。

「セルジュ?!」
「アレク、大丈夫?何だか顔が赤いみたいだけど、もしかして熱でもあるんじゃ……?」
「ち、違うから!熱なんて全く無いから!ゼロだよ、ゼロ!!」
「いや、ゼロって死んでるからね?!アレク、本当に大丈夫?」
「大丈……ぶ、じゃないっ!!」
「ひゃっ?!」

次の瞬間。
私の視界が反転した。

(あれ?あれれ?これは一体……??)

気が付くと、私はいつかのように、アレクにぎゅうっと抱き締められながら、ベッドに押し倒されていた。


* * *
しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...