【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました!お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します!!

はる乃

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《分岐》グリード・ルフス

戦争の結末④

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ダイア公国、王城。
玉座に、背中を丸めて座り込んでいる国王のカエサル・ダラーヒム・ダイアは、ここ数日間で驚くほどに頬が痩せこけ、憔悴しきっていた。

「何故だ?何故、余がこんな目に遭わなければならない?」

数日前に伝令役の騎士から報告で聞いた、自国の敗戦。それにより、禁止されていた禁術を使用していた事が露見してしまった。当然、各国からは非難を浴び、自国では市民達が暴動を起こし、第三王子ブラッドの死によって貴族達さえもカエサルから遠ざかってしまった。
ブラッドはその容姿と巧みな話術によって、他の王子達を抑え、社交界の花として公国の貴族達から絶大な人気と人望を誇っていたのだ。そのブラッドを易々と戦場で死なせてしまったのは、前の事故・・により負った傷を国王であるカエサルがきちんと治療しなかったからだと貴族達は疑い、それが事実であると広まってしまったからだ。

実際には、全てが完治していた訳ではないが、ブラッドは自分の抱えている治癒師達に左目以外は完治させていたし、戦場へ赴いたのも戦を仕掛けようとカエサルを唆したのもブラッドの方なのだが、ブラッドは本当に外面が完璧だった。それに引き換え、カエサルは暴君として悪政を強いていたし、貴族達を普段から己の“駒”だと言って憚らなかった。故にカエサルがここまで追い詰められてしまった事は完全なる自業自得なのだが。

「くそ!!ブラッドめ、必ず勝利するなどと抜かして、ホラ吹きの役立たずめがっ!!勝利してから死ねば良かったものを……っ!!」

己が息子である、死したブラッドへ散々悪態をつくが、この場にそれを同意する者はいない。
常に自分の傍にいた魔法師達も、禁術の為に戦場へ送り出してしまった。今はスペード王国で捕虜となっている。

「何故あいつらは禁術の使用を認めてしまったのだ?例え拷問されても吐くなと、あれほど躾けてやっていたのに……!!」

全てがカエサルの思惑とは逆の方向へ進んでしまう。何故、何故と繰り返しても、答えなど出る筈もない。玉座の間の外に近衛騎士を置いているが、玉座の間にはただ一人、カエサルだけ。今は誰とも会いたくなかった。誰の顔も見たくなかった。全てが憎らしく、疎ましい。食事も喉を通らず、ただただ玉座にしがみつく、愚かな老人の姿がそこにあった。

やがて、玉座の間の外が騒がしくなり、カエサルが真っ赤に充血した落ち窪んだ目を怒りに任せてギョロリと扉の方へ向けると、勢いよく扉が開かれた。

「誰だ?!余は誰も通すなと命じていた筈だぞ?!」
「お久しぶりです、父上」

そこに現れたのは、燃えるような緋色の髪に、金色の瞳をした、ダイア公国第一王子であるレイナルドだった。レイナルドの後ろにはズラリと騎士達が控えており、カエサルの頭には更に血が上る。

「何の真似だ、レイナルド!!貴様、まさか王である余を裏切って謀反を起こすつもりか?!」
「まさか。裏切り者は貴方の方ではありませんか、父上」

レイナルドは金色の瞳を細め、にこりと笑みを浮かべた。カエサルは意味が分からずに、探るような目でレイナルドを睨み付ける。レイナルドはその視線を特に気にもせず、ゆっくりと玉座へ歩を進めた。

「余が裏切り者だと?貴様、何を言うておる?」
「貴方は民を裏切り、法を裏切り、各国からの信頼を裏切り、私の期待を裏切り続けました」
「何だと?」
「もう待てない」

そう口にした瞬間。
レイナルドは一歩踏み込んで、腰に下げていた剣を抜き放ち、玉座に座り続けていた愚王の首を撥ね飛ばした。

カエサルには、何も理解出来なかった。自身の死さえも理解出来ぬまま、その生に終わりを告げた。

ゴロリと転がる父親の首を見て、レイナルドは僅かに眉を下げたけれど、その口元には依然として笑みを浮かべたままだった。

「母上が生きていた頃は、今よりも少しだけマトモな時もあったのに。……さよなら、父上」


ダイア公国内は荒れに荒れた。それは国王が変わってからも続いたけれど、十数年がかりで何とか持ち直す事に成功する。諦めなかった第一王子の手によって。

しかし、それはまた別のお話。


* * *
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