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《分岐》グリード・ルフス

戦争の結末②

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「何処へ行くつもりだい?セルジュ。……いや、ロゼリア」
「貴方は……」

砦の外、国境門の手前でロゼリアの前に立ち塞がったのは、兄であるオリバーの親友で、ナンバーズNo.5のノア・ヴィルターだった。少しくすんだ金髪を靡かせながら、ロゼリアをじっと見据えて、その身に魔力を纏わせている。ロゼリアがノアに視線を向けたまま馬から降りると、ノアが軽く左手を振って何かを呟いた。音声遮断の魔法だ。

「おかしいな。君は城にいるって聞いていたのに」
「……」
「オリバーは知ってるの?それとも、オリバーが君を逃がしたの?」
「違います!お兄様は関係ありません!私の独断です!」
「……この先は戦場だ。民間人である君を行かせる事は出来ない。そして、残念ながら俺も君に構っている暇は無い。護衛を数人つけるから、城へ帰って欲しい」
「でも、私は……!」

ロゼリアがそこまで言い掛けて、ノアが声を張り上げた。

「少し前まで騎士団にいたなら分かるだろう?!どんな事情があったとしても、私情による介入は厳禁だって!!」
「―――っ!」
「……俺がしたような過ちを犯さないでくれ……!!」

――――ノアは想い人であるリーンを助けたい一心で、救出作戦の任務に無理矢理加わった。
作戦は成功したけれど、一歩間違えれば犠牲が出ていたかもしれないし、騎士として許されない行為だった。その行為を、今度は私が犯そうとしている。

「君を民間人だと言いながら、騎士だった時の事を引き合いに出すなんて狡いと思う。だけど、俺も君に危険な事はして欲しくないんだ。君に何かあれば、オリバーが…………悲しむ人がいるんだから。勿論、俺も悲しいよ。だから、お願いだ。大人しく城へ帰って欲しい」
「…………」
「頼むよ」

まるで乞い願うかのように、真っ直ぐにロゼリアを見つめながら、ノアが青い瞳を揺らした。

(ノアの言っている事は分かる。分かるけど…………)

グリードの実力なら、ちゃんと分かっている。あのリアムと肩を並べられる程に、グリードの実力は凄まじい。けれど、相手はあのダイア公国だ。ゲームの中でも非人道的な戦争をしようとしていたし、選ぶルートによっては禁忌までも犯す。禁術を使用されて、もしもグリードに何かあったら――――……

ぞわり。

想像してしまっただけで、肌が粟立った。会話は聞こえていないだろうが、少し離れた位置から他の騎士達が見守る中、ノアは一歩、また一歩とゆっくりロゼリアに近付いていく。

「ロゼリア」
「……ごめんなさい、ノア。それでも、それでも私は、後悔の無いようにしたい。全てが終わった後に、どんな罰でも受けます。だから……っ!」

ロゼリアの気持ちが、ノアには痛いほどよく分かった。だからこそ、ロゼリアには同じ過ちを犯して欲しくなかった。あの時の自分と、今のロゼリアには大事な事が欠けていた。

「……なら、せめてこの砦にいてくれないか」
「え?」
「全部ではないけれど、同じ過ちを犯してしまった俺だから、ロゼリアの気持ちは分かるよ。そして、何が足りないのかも」
「……足りない?」

意味が分からずに首を捻るロゼリアに、ノアはハッキリとした口調で告げた。

「信じる気持ちだ。……俺は気持ちばかりが先走り、必ず助け出せると、信じ切れていなかった。大事な親友が任務に就いていたのに」
「……ノア?」
「ロゼリアも騎士団を、俺達を信じて欲しい。必ず勝利して帰るから。信じて、待っててよ。確かに君は優秀だけど、今の君はもう騎士じゃない、普通の可愛い女の子なんだから。……ね?」

ずっとずっと、家族を、仲間を守るために頑張ってきた。
未来を知っていたから。

(でも)

もうこの世界は、私の知っているゲームの世界じゃない。私の関わってきた人達は、グリードは、とてもとても強くて、いつも私は守ると思いながら、結果的に助けられてきた。

(信じる、気持ち……)

ロゼリアはノアを見て、コクリと頷いた。

きっと、ノアだって死んだりしない。今のノアにはゲームの世界と違って、リーンがいるのだから。そしてグリードも……

「……砦で、待たせて下さい。全てが、終わるまで」
「ああ、分かった。……ありがとう、ロゼリア」
「どうしてノアがお礼を言うの?私の方こそ、我儘を聞いてもらって」

ズドォォンッ!!

話している途中。
突然周囲が光ったと思ったら、国境門からずっと先の方で、雷が落ちたような音が響き渡った。
ビクリと肩を揺らすロゼリアに、ノアは「早く砦の中へ!」と促して、すぐにロゼリアが来る前と同じ警戒体制を取った。ノアの指示により乗ってきた馬を預けて、ロゼリアは砦内の客室へと案内された。

騎士団を退団させられた時に、一目で騎士団員だと判る制服の上着は没収されてしまった。けれど、下のトラウザーズ等はそのままだ。城の中のあの部屋では魔法封じの効果で魔力は使えなかったけれど、脱出してからはいつものように使えている。

「……ポケットが、熱い?」

ポケットの中には、大事な大事な“証”が入っていた。今でもロゼリアとグリードを繋ぐ、大事なもの。

“魔通石”が、確かにそこにあった。


* * *
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