【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました!お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します!!

はる乃

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《分岐》グリード・ルフス

戦争の結末①

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灰色の雲に覆われて、降りだした雨がグリードやブラッド、戦場にいる者達を濡らしていく。
グリードはブラッドの話を聞いて、完全に動きが停止していた。そんなグリードの様子に、ブラッドはニヤニヤと薄ら笑いを浮かべ、話しを続けた。

「ロゼリアは我がダイア公国の貴族の娘。それなのに、たかが商人の分際で、ロゼリアの親である我が公国の貴族を唆し、先に奪っていったのはそちらだ。我が公国では、魔力持ちの貴族女性は全て王家へ召し上げよと法で決められている」
「……全て王家へ……?」
「つまり、ロゼリアは我が公国の、それも王族の花嫁・・・・・という事です。どちらが正しくて、どちらが間違っているのか、分かっていただけましたか?」

グリードは驚愕し、ほんの一瞬だけ呆けてしまったが、すぐに拳を握り締めてキツく眉根を寄せた。怒りを滲ませて、ギリッと歯を食い縛る。

「……ならば、ロゼリアは貴様の花嫁だとでも言うつもりか?」
「理解が早くて助かります。全くその通りです」
「貴様っ……!」

グリードにはすぐに察しがついた。
ロゼリアの母親が何故バルトフェルト家へロゼリアを預けたのか。魔力持ちの子を授かるには、両親ともに魔力持ちでなくてはならない。魔力持ちが片親だけの場合はかなり確率が低くくなってしまい、ほぼ魔力無しの子が生まれてくるのが通常だ。けれど、確率が低いだけで、ごく稀に魔力持ちの子が生まれてくる。

ロゼリアの本当の両親は、ダイア公国の貴族と、スペード王国のバルトフェルト家所縁の者。それならば、王家に気付かれる前に魔力持ちの娘を逃がそうと思った筈だ。……ロゼリアはスペード王国でさえも稀な多属性持ち。

(そんなロゼリアがダイア公国の王家へ召し上げられるなど……)

「私の花嫁を返して下さい。ロゼリアは決して部下達に下賜したりしない・・・・・・・・・・・・とお約束致しましょう。一生、私だけの花嫁に……妃にするので、どうかご安心を。毎夜毎夜、私の全てでロゼリアを愛で、愛すると誓いましょう」
「ふざけるなっ!!」

止まっていた時が再び動き始めた。
グリードは剣に風を纏わせ、地面を蹴って加速し、ブラッドへと斬りかかる。先程よりも速い動きに面食らったブラッドは、仕方なく自身の剣でグリードの剣を受けるものの、あまりの重さに目を瞠目し、腰を落として歯を食い縛った。

「ぐっ?!……な、んだ……?この重さは?!」
「ロゼリアが誰と一緒になるかは、ロゼリアが決める事だ!貴様ではないっ!!」
「詭弁だな……!どこの国でも似たようなものだと言うのに。……妻を何人も娶る王族など腐るほどいる!その妻を臣下に下賜するもおかしな事ではない!……綺麗事を並べ立て、己を正当化するのはやめろ!!この偽善者がっ!!」
「……っ!……それでも、俺は……っ!!」


ロゼリアが本当にダイア公国の貴族の娘であったとしても、ロゼリアはその事実を知っているのか?
セルジュの事を知っているなら、全く何も知らないという訳ではないのかもしれないが……

そこまで考えて、グリードの脳裏に過ったのは、いつかの泣いていたロゼリアだ。拐われて拘束され、第三王子であるブラッドに迫られて、怯えて泣いていたロゼリア。そして、救出作戦で捕まってしまった時も、ロゼリアは必死に抵抗し、涙を―――……

(そうだ。事実なんてどうでもいい)

ロゼリアが自ら進んでダイア公国へ戻りたいと願うならば、この男の花嫁になりたいと願うならば、自分にそれを止める権利など無い。
だが、ロゼリアは自ら騎士団に入り、スペード王国を守る事を選択した。第三王子を拒み、俺に“良かった”と言ったんだ。“グリードが来てくれて良かった”と。ならば、迷う必要など無い。

ロゼリアはダイア公国を、この男を選ばなかった。だから、ロゼリアを連れてなんて行かせない。例え己がロゼリアの騎士になれずとも、何も見返りなどいらない。
彼女を守れるなら、どれだけ己が間違っていようとも構わない。

「くっ!!馬鹿な……!ますます、剣が重く……っ?!」

グリードの魔力が限界まで高められ、それを超えた。

グリードの纏う魔力が虹色に輝き、刃さえも包み込んでいく。その瞬間、ズンッ!!と地面がクレーターのようにベコリと凹んだ。グリードの剣を受け止めていたブラッドの腕が悲鳴を上げ、ブシュッと腕の血管から血が噴き出す。ブラッドは歯を食い縛り、悟った。もう耐えきれないと。口端に血を滲ませながら、ブラッドは僅かに口角を上げた。

「…………化け物め……!!」
「これで終わりだ、ブラッド!!」

グリードの虹色に輝く剣からブワッと辺り一面に激しい衝撃が走り抜ける。そうして、更に大きく大地を抉り、クレーターを巨大化させながら、グリードの剣はブラッドの剣をバキッと割って、そのまま勢いを殺すことなく、ブラッドをぶった斬った。

……………………
…………


城から脱出したロゼリアは、そこから馬を駆って一番近い騎士団詰所にそのまま突っ込み、強引に国境の砦へ転移していた。
転移の間に控えていた騎士達に驚かれ、「止まれ!」と制止の声をかけられたが、ロゼリアは構わず砦の中を馬に乗ったまま突っ走った。幸いにも防御魔法を得意とするロゼリアは、馬で通る際に誰も怪我をしないよう騎士達に防御魔法を掛けながら突っ切った為、負傷者は一人もいなかった。
今回の件に偶々遭遇した騎士達は、味方か敵か分からない突然の侵入者が自分達に防御魔法を掛けていった事に戸惑い、ぽかんとした表情のまま侵入者であるロゼリアを見送ってしまっていた。通りすぎ様にロゼリアが「敵意はありません!!ここを通りたいだけなんです!!」と声高に宣言していた事と、どこか見た事のある容姿に、敵とは思えなかったのかもしれない。

しかし、流石に順調だったのは途中までだった。砦の入口付近でロゼリアはやむ無くその足を止める事となる。


* * *
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