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《分岐》グリード・ルフス

ブラッドとの再会

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ダイア公国からの宣戦布告により、いよいよ戦争が始まってしまった。
ダイア公国とスペード王国の境界では、数日に渡り、激しい戦闘が繰り広げられている。
前線で戦うグリードは、その凄まじい実力でダイア公国軍を圧倒しつつも、倒しても倒しても何故か絶えず突撃してくる敵兵達に辟易していた。精神的な疲労が蓄積し、技のキレが僅かに鈍くなっていく。

(おかしい。既に何度も高火力な広範囲魔法を使用しているのに、奴等は何故引かないんだ?)

グリードは敵兵達の戦意喪失を狙って雷属性の広範囲魔法を使用し、眼前の敵を一瞬にして黒焦げにしていた。しかし、その凄惨さと、明らかな実力差を目の当たりにしても、敵兵達は怯むこと無く、直ぐ様後続が突撃して来る。まるで自ら死にに来ているかのように。

ダイア公国側の兵力は情報に寄ると八万弱。スペード王国側はそれに対して四万と少なく、敵兵力の半分しかなかった。スペード王国側は騎士団員の総数が圧倒的に少ないからだ。四万の兵の殆どは戦士団と魔法師団のもので、騎士団はその僅か16分の1。三千にも満たない数なのだ。だが、それで均等が保たれてしまう程、スペード王国騎士団の実力は凄まじい。【ガーディアンナイト】と【ナンバーズ】達が居るからだ。
ただでさえ、彼等は次元の違った実力を持っている。そうしてその中で、特に化け物じみたグリードやリアムの実力は更に次元が違った。
自軍の者達さえ、グリードの桁違いな力に圧倒され、畏怖してしまう。けれど、彼等にとってグリードは頼もしい味方。何より、彼は自軍の者達を簡単に切り捨てたりしない。
この場には居ないが、同じガーディアンナイトでグリードと同等か、それ以上の実力を持つリアムとは、その点が決定的に違った。
悪人ではないが、もしこの場に居たのがグリードではなく、リアムだったなら、とんでもない事になっていただろう。

閑話休題。

グリードは今の状況に違和感を覚えていた。躊躇いなく突っ込んでくる敵兵達。彼等は本当に自らの意志で戦っているのだろうか?

(彼等は死を恐れていない。確かに俺も騎士団へ入団した時点で、命の危険は覚悟している。だが……)

近年。ダイア公国は暴君カエサルの悪政により、国は乱れていた。自らの命を賭してまで、そんな暴君の為に戦うだろうか?
前線の歩兵は殆どが徴集兵だと思われるのに、この捨て身とも思える突撃は何なんだ?

突撃してくる彼等の瞳は濁っていた。敵である自分さえ、その濁った瞳に映していない。なのに、躊躇いなく突撃してくる。

(……操られているのか?)

もしそうであるなら、それは禁術と呼ばれるもの。数百年前に交わされた四カ国間の戦時規定に反する行為。禁術を使用した時点で、ダイア公国は他の国全てを敵に回す事になる。

(それ程までに、スペード王国を潰したいのか)

だが、現時点では禁術を使用しているという確たる証拠が無い。このまま殲滅してしまっても構わないが……


――――思考を巡らせながら向かってくる敵兵を一掃していると、敵陣の後方から、グリード目掛けて一直線に炎の魔法が飛んできた。
まさかと思いながらも、攻撃を回避し、グリードは魔法が飛んできた方へ視線を走らせる。するとそこには、思わぬ人物が居た。周囲の敵兵達が、その人物の思考を読んだかのように素早く道を開けていく。

「貴様……」

グリードは驚きで一瞬目を見開いたが、すぐにいつも通りの表情に戻り、その思わぬ人物と対峙した。
そこに居たのは、公爵邸で倒した筈の、ダイア公国第三王子。ブラッドだった。

「生きていたのか」

グリードの言葉を聞いて、第三王子はにこりと笑みを浮かべた。白くなった左目や、頬や首、鎖骨へと走っている電紋が、彼の死地からの生還を物語っている。

「君から大事なものを奪いに来たよ」
「……俺から?」

グリードが訝しげにブラッドを見つめると、ブラッドは次の瞬間にはグリードの懐へ入っていた。

「?!」

あまりに驚異的なスピードで、グリードは僅かに反応するのが遅れてしまった。脇腹に走る熱。開戦して以来、無傷だったグリードが、初めて怪我を負わされた瞬間だった。

「流石に今のスピードなら、君もすぐには反応出来ませんか?」
「……貴様、一体どんな手品を使った?」
「君には感謝してますよ。死に物狂いで回復した後、気付いたら今のスピードや新たな属性・・を手に入れていたのですから」
「新たな属性?」
「私は火属性しか持っていなかったのですが、身体中の魔道管に雷が走ったからですかね?」
「?!」

ブラッドはグリード目掛けて魔法を放った。先程と違い、今度は素早く反応してグリードが放たれた魔法を避けると、グリードの居たところへ雷鳴が轟き、バリバリと稲妻が走った。

「新しい属性を得たとして、この短期間に使いこなしたと言うのか?」
「私はこう見えて努力家なんだ」
「……そのようだ」

グリードは脇腹の怪我を自身の回復魔法で治療し、剣を構え、ブラッドに向かって走り出した。


* * *
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