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《分岐》アレク・ユードリヒ

この日の為に②

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「【絶対防御パーフェクトシールド】!!!」

ロゼリアの放った最上位防御魔法の巨大な魔法陣が次々と組み上がり、スペード王国王都上空に高速で展開された。

その様を見ていたグリード達も、出陣の為に第二訓練場で待機していたアレクやロイ、中位から上位の騎士達も、ポカンと口を開けたまま唖然としてしまっていた。まさか、こんな広範囲な防御魔法を一人で放てる者が居るなど、ダイア公国が仕掛けてきた古代魔法同様に、誰一人として予想だにしていなかったからだ。

あまりに非現実的過ぎて、「……自分達は、夢でも見ているのだろうか?」と上位騎士の誰かが呟いた。
いち早く我に返ったのはロゼリアの隣にいたグリードだ。グリードは「魔力タンクを持ってくる」とロゼリアに答えて、傍に居たバルトロの首根っこを引っ掴み、その場から猛スピードでナンバーズの寮へと走っていく。

「グリード君?このタイミングで一体何処へ行くおつもりなのですか?」
「セルジュの部屋だ。貴様ならセルジュの部屋がすぐに分かるだろ。それに、魔力タンクの数がどれ程あるのか分からないからな」
「魔力タンク?……ああ、あの魔導具の事ですか。というか、いい加減離してくれませんか?僕、自分で走れます」
「俺だって好きで運んでやってる訳じゃない。今は時間がない。このまま行く」
「仕方ありませんね」

バルトロを連れていった、この時のグリードの判断は正しかった。
ロゼリアは学生時代から魔力タンクのストックを貯めていた為に、魔力タンクの数はそれなりに多い。しかも、魔力タンクを雑に扱って割ってしまったら、巨大な魔力が一気に爆発して大変な事になってしまう。

故に、運び手は一人ではない方がいいのだ。

「急がなければ……!」

グリードには分かっていた。
少しも余裕なんて無いのだと。ロゼリアの手持ちの魔力タンクは、恐らく直ぐに使い切ってしまう。
もしもロゼリアが魔力タンクではなく、自分の魔力を使ってしまったら、すぐに魔力が涸渇して倒れてしまうだろう。そうなっては、あの防御魔法を維持する事が出来なくなる。
グリードはその事を理解していた。そうして理解すると共に悔しさを感じながら、全速力で駆け抜けたのだった。

……………………
…………


(……何が起きているんだ?)

アレクは自分の親友を見つめた。
親友であり、想い人でもあるセルジュは、信じられないような防御魔法を使って、自分達を、この王都を丸ごと護ってくれている。その姿に目を見張った。

「セルジュ?」

思わず名を口走った瞬間。
再び上空にあるダイア公国側の古代魔法陣から轟くような爆音と共に、巨大な炎の塊が吐き出された。その炎の塊は、セルジュの展開している防御魔法結界にぶつかり、景色が揺れる地震のような振動を起こした後、炎の塊は防御魔法の効果によって消失した。
その場にいた騎士達が歓声を上げる。恐らく王都の街にいる民達も、消えた炎の塊を見て騎士団か魔法師団の者達が護ってくれたのだと安堵している事だろう。だが、アレクはセルジュの様子を見ていて顔面蒼白となった。
セルジュの魔力量が、決して多くないと知っていたからだ。

「セルジュ!!」

アレクは急いでセルジュの隣へ駆け寄り、傍でセルジュの姿を見てギクリとした。セルジュの腕は震えていて、酷い冷や汗を掻いていたからだ。左腕に装着している魔導具の魔力タンクを見てみると、先程の炎の塊が結界とぶつかった際に、一気に大量の魔力を消費したようだ。既に一本は空になっていて、もう一本の魔力タンクの方も半分を切っていた。

「くっ……!」
「セルジュ、大丈夫か?お前、この魔力タンク……」
「アレク?……あまり大丈夫とは言い切れないけど、何とか乗り切ってみせるよ」

そう話ながら、セルジュは腰に巻いている魔導具専用ベルトから、予備の魔力タンクを取り出して、空になっていた物と取り替えた。指先が震えているのに、思ったよりも素早く取り替えていて、この動作に慣れているのだと分かった。

「セル……」
「大丈夫。僕が絶対に、皆を守ってみせるから。沢山、練習してきた。だから……!」
「?!」

会話の途中で、アレクは剣を抜いた。すぐ近くで、こちらに向かって駆けてきていたロイも剣を抜いている。どうやら、ダイア公国側の間者が侵入していたようだ。剣を握り締めた数人の者達が、防御魔法を展開しているセルジュに向かって走ってくる。その事に、アレクとロイ。少し離れた位置に居たジェラルドが気付き、応戦を始めた。間を置いてから、他の騎士達も侵入達に剣を抜いて立ち向かっていく。

「どうやって侵入したのですか?是非とも侵入経路をお聞きしたいですね」

ジェラルドの攻撃魔法が侵入者に炸裂し、致命傷を与えた。侵入者達は大した力はなく、魔力保有量も低かった。騎士達は安堵した。この侵入者達は弱い。これならば、余裕で勝って拘束出来る。

しかし――――

「なんだ?!コイツら……!!」

侵入者達は致命傷を与えられると、ニヤリと笑って自ら剣で自決した。と同時に、彼等の頭上に黒い魔法陣が浮かび上がり、そこから魔物が召喚されていく。彼等は間者であると同時に、“贄”だったのだ。

防御魔法結界の中で新たに現れた敵に対しては、防御魔法の効果が適応されない。

アレクとロイが、セルジュ――――ロゼリアを護るように、間にロゼリアを挟んで互いに背中を向けた。

「安心しろ、セルジュ!」
「セルジュの事は、俺達が護る……!」

「「絶対に!!」」


* * *
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