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《分岐》リアム

動き出したリアム

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おかしい。
あれからリアムは、何故だか私の部屋で寝起きをするようになった。
けれど、私が仕事に出た後は、ふらりと何処かへ出掛けているようで、私が眠った後に帰ってきているようだ。

(鍵はちゃんと掛けてるのに、どうやって入ってきてるの?寮のセキュリティ、ザル過ぎない??)

というか。そもそも、どうしてリアムは私の部屋で寝起きしてるの?
自分の部屋に帰ればいいのに。
朝起きて、目の前に超絶美形の顔があるなんて心臓に悪すぎる。

私は一人、騎士団の食堂で昼食を摂りながら、今日何度目かの溜め息を吐いた。

(……心臓に悪いだけで、嫌ではない、けど)

リアムは一体、どういうつもりなのだろうか。リアムが何を考えているのか、私にはまるで分からない。
それに、昼間は何処に出掛けているの?

(……リアム……)

……………………
…………

ダイア公国。
王都、貴族街付近。

離れた所から貴族街の様子を窺う平民達が、貴族街の尋常ではない警備の数を見て、ヒソヒソと噂を話していた。

「聞いた?また貴族の偉い人が殺されたらしいわよ」
「警備は日に日に厳重になっていくのにねぇ」
「恐いわね。……戦争なんてしようとするから、罰が下ったのかもしれないね」

……………………
…………

ここ数日、ダイア公国では毎日のように貴族や有能な騎士達が暗殺されるという事件が起きていた。
外務大臣を始め、財務大臣、スート騎士団副団長、上位騎士五人、魔法師団団長、上位魔法師七人が殺されて、ダイア公国の宰相を務めているギレイズ侯爵は、あまりの恐ろしさに、警備を厳重にした貴族街の邸には戻らず、王城で寝泊まりするようになっていた。

王城にある宰相の執務室にて、ギレイズ侯爵はカタカタと身を震わせていた。

「何故だ?何故こんな事になったのだ?穏健派の仕業か?もうまもなく、贄を使って戦を仕掛けるという、この大事な時期に、暗殺等と……!」

一人二人殺したところで、あの国王陛下の事だ。すぐに替えを用意するだろう。しかし、この件はそれだけで終わらない。

「公表はされていないが、裏で我が国に魔導具や魔力のある奴隷を売っていた、あの国の外商も暗殺されてしまった。このままでは、遠からず私も暗殺されてしまうかもしれない……!」

宰相執務室、外側の扉の前には、数人の護衛騎士が何人も通しはしないと隙の無い警備をしている。
だが、そんなものは全く関係無かった。執務室の内側にある家具の影がゴポッと盛り上がり、漆黒の髪、漆黒の瞳をした長身の美青年が現れる。

「流石は聡明な宰相殿。そう、今夜は貴方の番だよ」
「なっ?!き、貴様何処から……ぐあっ?!」

ギレイズ侯爵が声を上げた瞬間、漆黒の男――リアムは、暗器である長い針のような武器を宰相に向けて正確に投げ放った。針は宰相の左胸へ吸い込まれるように深々と突き刺さり、その鼓動を停止させた。
立ったまま死したダイア公国宰相ギレイズ侯爵は、力無くドサリと床へ崩折れる。異変に気付いた扉の外側に居る騎士達が、「宰相様?!」「何かございましたか?!」と叫んでいるが、もはや後の祭りだ。

「王城で寝泊まりしてるなんて知らなかったから、わざわざ貴族街の邸に行っちゃったじゃないか。全く、時間を無駄にしたなぁ」

『早くロゼリアに会いたいのに』

リアムはそう呟いてから、しゅるりと胸に刺さった針を影に回収させて、自らも影の中へ沈んで消えていく。
証拠は残さない。
スペード王国騎士団に余計な火の粉を掛けさせる訳にはいかないからだ。今回の件は、全てリアムの独断行動。

影移動シャドウジャンプ】で騎士団本部へと移動する中。リアムはそろそろ大本に手を掛けようか考えていた。

(駒は結構消した。そろそろ、大本を消してしまいたいけど――――)

まだ、もう少し待つか。

リアムは戦争を起こす上で必要な連中を消していた。騎士団や魔法師団では、魔力が高く、騎士や魔法師として秀でた才ある者を選んで消した。全ては、戦争自体を起こさせない為に。

(次は辺境伯あたりを消そう。魔物討伐の要が消えれば、いい時間稼ぎになる。……【影移動】は使えるけど、目的の人物がいる場所は自力で探し出さないといけないからな)

コールリッジ公爵邸へ移動した時は、事前に場所を把握していた。ロゼリアに持たせていた魔通石の効果もあって、より正確に位置を捉える事が出来た。けれど、今回はそうはいかない。ダイア公国の王立図書館に忍び込み、貴族名鑑から重要な人物達の顔や領地、王都にある邸の場所等を覚え、一から動いているのだ。

故に、ここ数日、リアムは未だかつてない程に動き回っていた。

(早く動け、馬鹿王子共。でないと、国自体が再起不能になっちゃうよ?)

リアムは待っていた。
そうして、その望みは数日の内に叶う事となる。

ダイア公国国王が『崩御』するというカタチで。


* * *
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