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《分岐》グリード・ルフス
光を宿した者と狂気を宿した者
しおりを挟むナンバーズ専用鍛練場で、レイナルドに馬乗りされていたロゼリアは、属性特有身体強化や普通の身体強化を発動させずに、レイナルドを思い切り蹴り飛ばした。
「痛っ!!」
やっと自分の上からレイナルドを退かせる事が出来て、ロゼリアは清々したと言わんばかりの顔をしながら、その場でスクッと立ち上がった。
「ちょっと油断して転げたくらいで、僕の実力が貴方以下だとでも?それに、体力が無いくらいで女だと決めつけるのは些か横暴です。魔法師団には、僕と同じ様な男性が沢山居ると聞いていますし」
「いっ……たたたた。もう、痛いなぁ。だから、触れば分かる話で」
「セクハラで訴えますよ?」
「せくはら??」
「とにかく、レイナルドの言っている事は全て妄想です!貴方は、僕が女顔だから勘違いしているだけですよ」
「……この状況で、まだしらを切るとはね。どうしたら君は素直になるのかな?」
レイナルドは蹴られた脇腹を押さえながら、ゆっくりと上体を起こして、その場に座り直した。片眉を下げつつ、口角を上げたままロゼリアをじっと見据える。ロゼリアはそんなレイナルドを見て、苦々しげに顔をしかめた。
「僕は素直ですよ。素直に、貴方が苦手だ。だから、鍛練を見学したいなら、誰か別の人の所へ行って下さい。……僕はこれで失礼しますね」
ロゼリアは木刀を片付けてから、訓練場を出ていった。その場に残されたレイナルドは、脇腹を押さえたまま、ドサッと寝転がって「随分と嫌われてしまったな」と呟いた。
「まさか男として騎士団に入団しているとはね。せっかく安全な国へ逃がしたのに、わざわざ危険な騎士団に入るなんて。……君の姉さんは困った人だね、セルジュ」
静かな訓練場内で、レイナルドは暫く空を扇ぎ、大切な記憶を思い出していた。それはずっとずっと幼い頃の記憶。ほんの少しだけ、満ち足りていた瞬間の事。
「……今は、あそこにはもう何もない。全てを壊して、一から立て直さなければ。だが、壊しに行く時、君を連れていきたくない。スペード王国の騎士団はとても優秀だ。きっと沢山努力をしただろうに、ごめんね」
そう言って、レイナルドは立ち上がった。その足取りは力強く、金色の瞳には確かな光と冷酷さが宿っている。レイナルドの向かう先は団長であるレオンの執務室。そして、レオンの執務室には先客が居た。
――――アルフレッド・スユーフ・スペード。このスペード王国の王太子が。
……………………
…………
ダイア公国、王城。
玉座の間で、鮮やかな赤髪の男が床に片膝をつき、頭を垂れていた。
玉座に座っている初老の男は、その赤髪の男を見て、口角を上げた。
「死んだかと思ったが、この世に余程未練があったのか?ブラッド」
「その通りです、陛下」
「随分と醜くなったものだ。これではもう社交界に顔を出せまい」
ブラッドの頬から首筋、鎖骨にはグリードから受けた電紋がくっきりと浮かび上がっていた。左目は白く、失明してしまっている。しかし、ブラッドは生きていた。奇跡的に息を吹き返し、回復魔法と回復薬によって動けるまでに回復したのだ。
「どうやって右目を回復させた?両目とも失明しておっただろう」
「治癒師が死ぬまで回復魔法を使わせましたら、一度だけ上級回復魔法が成功しまして。しかし、魔力が足りずに左目は無理でした」
「そうか。死ぬ気でやれば何とかなるものなのだな。しかし、我が国には回復魔法を使用出来る者が少ない。余の専属治癒師には手を出すでないぞ?」
「はっ、承知しております」
「……して、何用で参った?」
ダイア公国国王、カエサル・ダラーヒム・ダイアは玉座から第三王子であるブラッドに本題を話すよう促した。すると、ブラッドはにこりと冷たい微笑を湛え、ゆらりと立ち上がる。
「騎士団を動かす許可をいただきたい」
「何……?」
「陛下。三ヶ国同盟を締結させぬように足掻いていらっしゃるようですが、各国の王達は陛下のお話に耳を貸して下さいましたか?」
「!!」
「貸して下さらなかったのでしょう?悔しくはありませんか?全てはスペード王国の王族と騎士団のせいです。最も尊ばれるべき陛下が蔑ろにされるなど、あってはならない事。陛下がどれだけそのお心を痛めていらっしゃるかと思うと、私は胸が張り裂けそうです!」
ブラッドが悲壮な表情を浮かべ、やたらと芝居がかった動作で言葉を重ねていく。カエサル国王はそんなブラッドの行動にやや苛立ちを覚えながらも、ブラッドの次の言葉を待った。
「……ですから、私が国王陛下の愁いを晴らして差し上げましょう」
「勝算はあるのか?」
「私は負け戦は嫌いです。最強と謳われているスペード王国騎士団さえ潰してしまえば、ハート王国もクラブ帝国も、同盟への考えを改めるでしょう。最強なのはスペード王国騎士団ではなく、我がダイア公国スート騎士団だと知れ渡れば――――」
カエサル国王が、ブラッドの言い分を聞いて、ニヤリと意地の悪い歪んだ笑みを浮かべた。
「いいだろう。好きなだけ連れていけ。だが、絶対に敗けは許さんぞ!必ず勝て。必ず勝利し、余を馬鹿にし、蔑ろにした各国の醜い豚共に目に物を見せてやるのだ……!」
「はっ!必ずや、我がダイア公国に勝利を!!」
ブラッドはカエサル国王に対して臣下の礼を取り、玉座の間を後にした。今にも笑い出しそうな己を必死に抑え込みながら。絢爛豪華な城内を進み、周囲に人気が無くなった所で、ブラッドは酷く顔を歪ませた。その瞳には、明らかに狂気が宿っている。
「……無能な王よ。この国にはもはや未来など無い。だからせめて、最期は私の役に立ってくれ。私の愛しい花嫁を、取り戻す為に……!!」
* * *
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