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《分岐》グリード・ルフス
レイナルドとの鍛練
しおりを挟む騎士団本部、ナンバーズ専用鍛練場。
私はいつも通り、一人でここまでやって来て、一人で鍛練を始めた筈なのだが……
何故だか、鍛練場の入口にはレイナルドが居て、私の鍛練をここ数日間ずっと見学している。
(なんで?)
レイナルドはにっこりと微笑みながら、実に楽しそうに此方を見ているが、私は集中出来なくて全く楽しくない。大体、どうやって中に入って来ているの?
仕方なく、私は鍛練を中断して、レイナルドの元へ向かった。
「お疲れ様、セルジュ」
「……どうも。あの、どうして毎日僕の鍛練を見に来るんですか?」
「その問いには初日に答えたと思うけど?団長であるレオンに、鍛練の見学がしたいと申し出て、許可を貰ったからだって」
「僕以外の人の鍛練を見に行けばいいでしょう?」
「セルジュの方が見ていて楽しいからね」
「いや、楽しいって……」
私はちっとも楽しくない。
というか、見てるだけってつまんなくないのかな??
「……一緒にやります?」
「え?」
「鍛練」
「い、いいのかい?」
「いいですよ。むしろ、ずっと見られてる方が嫌です」
「…………そうなのか。なら、少しだけ宜しく頼むよ」
そうして、私とレイナルドは鍛練する事になった。一緒に素振りを、とかではなく、アレク達としていたような、手合わせ系。私は訓練場に入口近くに備え付けてある木刀を一本取り、レイナルドへと放った。カランと足下に落ちた木刀を、レイナルドが拾い上げ、先程とはまた違った笑みを浮かべている。
「使うのは身体強化のみでいいですか?」
「身体強化?……ああ、成程。すみません、セルジュ。身体強化は無しでお願いします」
「……は?」
「それでは、宜しくお願いしますね」
「よ、宜しくお願いします」
レイナルドが木刀を構えたので、反射的に私も木刀を構えた。しかし、私は内心動揺していた。何故、身体強化無しなのだろうか?
(私は身体強化が無いと、素早く動けない。火力も持久力も無い)
身体強化は、私にとっての生命線だ。それなのに、身体強化無し??レイナルドが身体強化を使うつもりが無いのなら、私だけ使うのは卑怯だ。これでもスペード王国騎士団、ナンバーズの一員なのだから、卑怯な事なんて出来ない。
私は至極真面目に、そう考えていた。けれど――――
レイナルドの目的は違ったのだ。
……………………
…………
ナンバーズ専用鍛練場で、ロゼリアは数分間レイナルドと手合わせをしていた。途中、不意を突かれ足払いをされて、ロゼリアが体勢を崩して床に倒れそうになった瞬間。レイナルドがそのままロゼリアに覆い被さり、気付いた時にはレイナルドがロゼリアの上で馬乗りになっていた。
「なっ……どいて下さい!」
「ふふ、良い眺めだね。それに……」
「何……?」
「セルジュ。君の身体は柔らか過ぎる。……君はやっぱり、女の子なんだろう?」
「……っ!違います!僕は女なんかじゃ……」
「なら、この後一緒にシャワー室で汗を流してみるかい?」
レイナルドの言葉に、私はつい顔を赤くしてしまった。しまったと思い、レイナルドを睨み付けながら「ふざけないで下さい」と怒気を強くする。
「私はふざけてなんかいないよ?」
「尚更性質が悪いです。汗をかいたなら浄化魔法を使えばいいし、わざわざ男同士で連れ立ってシャワーを浴びる趣味なんて僕には無い」
「男同士、ね」
「いい加減にしないと、身体強化を使って捩じ伏せますよ?」
ロゼリアが身体強化を発動させようとすると、レイナルドが顔を近付けて「分かっていないね」と囁いた。ロゼリアが目を見開いて硬直する。
「多少の体格差はあれど、君は騎士で、私は騎士じゃない。という事は、例え身体強化をしていない生身であっても、君は私に勝てないとおかしいんだ」
「ぼ、僕はまだ身体が小さいし、もともと筋力のつき難い体質だから!」
「ねぇ、セルジュ。私は紳士だから妙な事はしないけれど、君のある部分に触れてしまえば、性別は分かってしまうんだよ。……この王国の者達は、どうして君を男だと信じているのか不思議でしょうがないよ」
「…………」
「だって君は、こんなにも可愛らしい女の子なのに」
――――次の瞬間。
私は、馬乗りになったまま私の頬を優しく撫でるレイナルドを、思い切り蹴り飛ばしていた。
* * *
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