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《分岐》オリバー・バルトフェルト
袋小路での壁ドン
しおりを挟む第二会議室での会議が終了し、数日経った。その間、私はフェリクスから再三時間を作って欲しいと頼まれているのだが、毎回何かと理由をつけて悉く逃げ回ってしまっている。
(逃げ回るよりも、誘いに応じて何とか誤魔化した方がいいのかな?)
しかし、他人の空似以外に良い誤魔化し方など思い浮かばない。結局、私はやはり逃げるしかなく、そのうちフェリクスの方から諦めてくれるのを待っていた訳なのだが……
「捕まえたぞ、セルジュ・プランドル!!」
「ひっ!!」
今日も今日とて、私はバルトロから処理済みの書類を預かり、ジェラルドの元へ運んでいた。その途中で、いよいよフェリクスに捕まってしまったのだ。騎士団本部内、逃げ場の無い袋小路で、攻略対象者でもあるイケメンに壁ドンされるという、まるでヒロインのような状況。なんで君達攻略対象者はいちいち『乙女ゲームだったらオイシイ』、みたいな状況を作り出すの?そういう特技持ちなの??
「なんで逃げるんだ?やっぱり、あの時の子なのか?」
「ち、違います。それに僕は逃げてなんか……」
「逃げてるだろ。……でも、やっぱり髪や瞳の色が違うんだよな」
「たたた他人の空似ですって!」
「…………本当に、違うのか?」
「違います。……他の人達にも、既に確認は取ったのでしょう?僕が任務まで、ずっと騎士団に居たって」
「それは、そうなんだが……」
「なら、やっぱり他人の空似ですよ。僕は、この件には無関係……」
そこまで言って、私はその先を口に出来なかった。フェリクスが、あまりに辛そうな顔をしている事に気が付いたからだ。私がフェリクスから目を離せずにいると、フェリクスはまるで血を吐くような、低く、後悔の入り交じったような声を絞り出した。
「……あの子は、やつれて、傷だらけだった。酷い状態だった。救出任務実行日に、絶対助けると決めていたのに……!」
「!」
そうだ。
私はグレンがセルジュを救い出してくれたと知っている。けれど、フェリクスはそれをまだ知らないんだ。私は、自分の正体に繋がっているセルジュの事を、リアムにしか報告しなかった。最初は団長へ直接報告しようと思ったのだけれど、不安になって、それをリアムに相談したら、リアムの方から団長へ話すと言ってくれたから。私の正体の事は伏せてくれているようだけど、クラブ帝国からスペード王国へセルジュ救出の話が来てしまったら、いずれはバレてしまうと思っている。その時は、せめて戦争が終わるまでは騎士団に居させて欲しいと頼むつもりでいるけれど。
(フェリクスは、セルジュを心配してくれていたんだ。そして今、私は彼に『救えなかった』という事実を突き付けてしまっている……)
せめて、クラブ帝国から来ていたグレンがセルジュを助けた事を伝えようか。こんなにも、セルジュの事を想ってくれているのだから。
「フェリクス――」
「あの時、あの子は言っていた。『姉さんを奴等に渡さないで』と。だが、保護した少女達の中には、あの子の姉なんていなかった。……何も分からない。もし、あの子や、あの子の姉さんが既に売られたり、殺されでもしていたら、オレは――――」
突然、フェリクスが驚いたように目を見開いた。そして、私の頬にそっと触れる。
「セルジュ……?」
「……なんですか?」
「なんですかって。……それはオレの台詞だろ。なんでお前、泣いてるんだ?」
「え?」
いつの間にか、私の瞳から涙が溢れ落ちていた。
(なんで泣いてるの?)
ずっと、不安だった。
セルジュは、私の代わりに連れ去られてしまったようなものだったから。私は、セルジュに恨まれているのではないかと、ずっとずっと不安に思っていたのに。それなのに、セルジュは――――
『姉さんを奴等に渡さないで』
ダルトン卿に捕まって、やつれて、傷だらけになりながらも、私の事を心配してくれていたの?一度も会った事のない、私なんかの事を。
ああ、駄目だ。涙が止まらない。セルジュが、私の事を心配してくれていたなんて知ってしまったから。
「お、オレが泣かせてしまったのか?す、すまん。悪かった!あまりにしつこくし過ぎたからか?」
「ちが……!違いますっ。別に、フェリクスのせいじゃ……」
「待て待て待て!泣くな!ハンカチハンカチ……あっ!こら、あんまり目を擦るな!腫れちゃうだろーが!」
「は、ハンカチくらい自分のが」
「ちょ、動くなって!ほら、なんか引っ掛か……」
――――カシャン。
フェリクスの手をパタパタと振り払ったら、何かが床に落ちてしまった。それは私の魔導具で、フェリクスが拾ってくれたのだが、フェリクスが私を見て、ピタリと動きを止める。
これはまずい。
これはヤバイ。
フェリクスは私の灰色の瞳を見て、その端正な顔をくしゃりと歪めた。
「ああ、やっぱり……お前は……!」
* * *
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