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《分岐》アレク・ユードリヒ
合流*後半ロイside*
しおりを挟むロゼリアとアレク達が合流出来たのは、それから五日後の事だった。
オリバーに助けられたロゼリアは、すぐに騎士団本部へと帰還する為、オリバーと共にダイア公国側の国境付近まで来ていた。オリバーが度々水鏡通信にて居所を報告していた為に、思いの外、合流はスムーズだった。元気そうなロゼリアを見て、アレクもロイも、ホッと胸を撫で下ろしたのだが――――
「オリバー先輩」
「なんだ?」
「セルジュを離して下さい。そして俺に感動の再会の許可を。セルジュを抱き締めたいのです」
「ロイ、そこは俺達だろ。つーか、抱き締めたいとか思っても言うな。逆効果だから。絶対に許してくれないから」
「ああ、そうだ。勿論却下だとも。アレク、分かってるじゃないか。セルジュを抱き締める事は許さない。断固拒否する」
「ちょ、オリバー?!」
任務先の公爵邸で何があったのかは分からないが、オリバーはロゼリアの傍から離れようとしない。アレクとロイの存在を認識した後は、尚更ロゼリアを手放そうとしないのだ。間に挟まれる形となってしまった当の本人であるロゼリアは、やや疲れた顔をしている。
「感動の再会は互いに顔が見れただけで十分だろう。そんな事より、治癒師はいるのか?」
オリバーがそう訊くと、ロイがズイッと前に出て、「勿論連れて来ています」と無表情ながら当然だと言わんばかりの不遜な態度で答えた。
「オリバー先輩はともかく、セルジュに何かあっては大変ですからね」
「ほう。いい度胸だな、ロイ・シャロッツ」
「おい!ロイ、止めろ!学生の時と違うから!お前、セルジュ絡みだと本当に態度がおかしいから!!」
アレクが慌ててロイを窘める。その光景が本当に学生の頃のようで、ロゼリアは思わず嬉しそうに顔を綻ばせた。花のように笑うロゼリアを見て、その場にいる者達が一瞬固まった。
(――なんだ?前よりも、セルジュが女っぽく見えるような……)
アレクは惚けながら、またしてもセルジュを女だと考えそうになっている自分に気付いて、ぶんぶんと勢いよく頭を振った。男のセルジュを否定するつもりはないし、努力家で仲間想いの、いい漢だとも思っているのに。自分の邪な想いでセルジュを否定している気がして、アレクはそんな自分を許せずにいたのだが……
セルジュを女みたいだと思ったのは、アレクだけではなく、この場に居る全員がそう思っていた。アレクのせいではなく、実は女であるロゼリアの成長のせいなのだが、アレクには知る由もない。毎日顔を合わせていれば然程気付き難いかもしれないが、暫く離れてしまえばその変化がよく分かるのだ。それでも、普段言葉を交わさない騎士や治癒師は、『女人禁制な騎士団に女が入団出来る筈がない』という先入観を持っているので、すぐに女だとは思わないだろう。しかしこの時、アレクの他にも明らかに動揺している人物が居た。アレクやロゼリアの親友である、ロイ・シャロッツだ。ロイは目を見開いて、信じられないものを見たような顔をしている。
この時、この瞬間に、ロイは気付いてしまったのだ。アレクよりも先に、セルジュが本当は“女“であると。
……………………
…………
*ロイside*
花のように笑うセルジュを見て、俺がずっと昔から半信半疑に思っていた事が、確信へと変わった。
やはり、セルジュは女だったのだ。どう見ても女にしか見えない。それに、そうであるなら、今までの疑問も解消出来る。学生時代、着替えやシャワーの時には何故かいつも消えてしまう事や、従兄弟であるという、オリバー先輩の態度。男であるセルジュに対してあそこまで過保護になるのは、どう考えてもおかしいだろう。それに――――
つい最近、アレクが訊いてきた『もしもセルジュが女だったら』という話。きっとアレクも何かを感じ取ったに違いない。だからこそ、あんな質問をしてきたのだろう。しかし、一体何故だ?何故、わざわざ男の格好を?オリバー先輩が協力しているのも腑に落ちない。セルジュに、直接訊いてみるしか……
(……というか、訊いていいのか?セルジュが自分から話してくれるのを、待った方がいいのではないだろうか)
どのみち、騎士団本部へ戻るまではセルジュと二人きりになる事さえ不可能だろう。オリバー先輩が番犬の如く引っ付いているからな。……そういえば、最近のアレクはやたらとセルジュの事ばかり気にしているな。実力試験の時もそうだったが、一体どうしたんだ?
(……アレクは親友として、セルジュを気にしているのか?それとも……)
そこで俺は思考を中断させた。
あまり考えたくない案件だったからだ。
今は早く騎士団本部へ帰ろう。俺は気持ちを切り換えるべく、セルジュ達から目を逸らし、先程まで考えていた事に蓋をした。
考えない。考えてはいけない。
考えたら、失ってしまう気がしたから。
* * *
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