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《分岐》オリバー・バルトフェルト
帰還後、魔力回復の練習*後半少しオリバーside*
しおりを挟むロゼリアとオリバーが無事にダイア公国の国境を突破し、スペード王国内に入って騎士団本部へと帰還してから一月経った。
ロゼリアはセルジュとして、未だ騎士団に在籍しており、今日は書類仕事を終えた後、ナンバーズ専用寮オリバーの部屋にて、オリバーの魔力回復の練習に付き合っていた。
ぎゅっと抱き締め合い、首筋と膝裏の太い魔道管からオリバーの魔力を流されて、ロゼリアはビクリと身体を震わせる。
(属性数が違うのに、何でこんなに心地良いの?小さな頃からずっと触れてきた魔力だからかな……?)
グリードのような強烈なものではないが、オリバーの魔力はロゼリアの魔力と相性が良かったようだ。意識を失ったり、変に気持ち良すぎるといった感じではなく、とても安心出来て心地良い。ロゼリアはオリバーの腕の中で、きゅっとオリバーの制服を掴みながら、コテンと凭れて身を任せていた。
「ロゼ、大丈夫かい?私の魔力は苦しくないかい?拒否反応は出ていないようだが……」
魔道管を傷付けないように、細心の注意を払って魔力を流しているオリバーは真剣だ。かなりの集中力を要する為、ロゼリアの状態には気付いていない。
「大丈夫です、お兄様。とても……」
「ん?」
「とても心地良い、です」
「そうか。魔力が馴染んできた、というやつかな?もう少し、流させてくれ」
「はい、お兄様」
ロゼリアの声が、酷く甘く感じられる。少し気になったが、集中力を欠く訳にもいかない。オリバーは暫し雑念を捨て、魔力を流す事に集中した。そうして、魔力回復の練習をし始めてから一時間近く経った頃。
流石に疲れてきたオリバーは、魔力を流すのを止めた。
「ふぅ。ありがとう、ロゼ。今日の練習はこのくらいにしておこう」
「…………」
「ロゼ?」
返事のないロゼリアを心配して、オリバーがロゼリアの顔を覗いて見る。すると、ロゼリアは顔を赤くして、お風呂でのぼせた時のようになっていた。焦ったオリバーが「ロゼ?!」と声をかけると、ロゼリアの潤んだ瞳が薄っすらと開かれた。オリバーの心臓がドキリと高鳴る。
「……っ。ロゼ、大丈夫か?」
「お兄、さま。だ、大丈夫、です。気持ち良くて、頭がクラクラ…………します、けど。気持ち悪いとかは、無いですから……」
「魔力酔いか?いや、魔力にのぼせてしまったのか。すまない、ロゼ。練習が長過ぎたね」
「謝らないで、お兄様。別に、私は…………苦しくも何とも無いですし。むしろ、もっと……」
「駄目だ、ロゼ。……やっぱり魔力酔いの一種かもしれないな」
「お兄様……?」
「…………」
ロゼリアの少し潤んだ瞳に、赤く色付いた頬が、オリバーの胸を掻き立てる。騎士団本部では、ロゼリアが女だと知られてはいけないし、当然自分達の関係は秘密だ。けれど、こうして二人だけで会う機会は作れるし、好きなのだから少しはイチャイチャしたいと思うのは普通の事だろう。
オリバーは愛しいロゼリアをじっと見つめて、今し方ロゼリアが口走りそうになっていた事を促した。
「むしろ、もっと…………なんだい?ロゼ、私のロゼリア。何が欲しい?」
「お兄様の魔力が……」
「そんなに、私の魔力は心地良かった?」
「はい。とても、気持ち良くて……」
「ロゼ。少し魔力酔いしているようだから、もう魔力はあげられない。けれど、他のものならあげられるよ」
「他の、もの……?」
とろんとしたロゼリアの瞳に、堪らなく疼いてしまう。オリバーはロゼリアの目元や頬に軽くキスを落としてから、ロゼリアの唇を親指で優しく撫でた。
「欲しいなら、その可愛い唇で上手に言ってごらん?何が欲しい?」
「お兄様の…………」
「ロゼ」
「オリバー、の。……キスが、欲しいです」
「良い子だね、ロゼ。上手に言えたから、いっぱいキスをしてあげるよ」
「んっ……んぅ!……ふ、ぁ」
静かな室内に、二人の吐息と僅かな水音が響き渡る。まるで世界に二人しかいないような、錯覚を起こしそうになる程に。二人のキスはどんどん深く濃厚になっていく。既にロゼリアの口内を知り尽くしているオリバーは、ロゼリアの気持ち良い所を舌で何度も刺激しながら、ロゼリアを甘く蕩けさせる。ロゼリアの吐息も、声も、瞳も、全てがオリバーの本能を駆り立てて、胸の奥を熱くした。
「はぁ……っ……オリバー」
「可愛い。ロゼが可愛すぎて、おかしくなりそうだ」
「そんな……」
「ロゼ、照れているのかい?それとも、恥ずかしい?私のロゼリア。……少しずつ、慣れていこう。まずは私からのキスを覚えて、ロゼ」
「もう、流石に覚えました。……騎士団本部へ帰還するまでにも、沢山、しましたし……」
「そうかい?……でも、その割りには毎回恥ずかしがっている気がするけど」
「だって、慣れないですよ。お兄……オリバーとのキスなんですよ?」
「よく分からないけど、要するに、やっぱりまだ慣れていないって事だろう?慣れるまで、私と練習していこう。ロゼ」
「おり……っ……ん、ん……!」
オリバーは再びロゼリアの唇を塞ぎ、ロゼリアは甘えるようにオリバーの首に両腕を回して、二人は甘美な口付けに夢中になった。ロゼリアは、『オリバーとのキスに慣れる』未来が微塵にも想像出来なかったが、今はただただ、大好きなオリバーとのキスに溺れていた。ロゼリアにとって、オリバーは前世での一番の推し以上に、今世では最愛の人となったのだから。
束の間の幸福を味わったとしても、バチは当たらないだろう。ロゼリアはゆっくりと瞳を閉じて、甘い口付けを与えられるままに甘受し続けたのだった。
……………………
…………
オリバーとの甘い練習により、すやすや眠ってしまったロゼリアを見て、オリバーは更に欲張りになっていく己を戒めねばと思いつつも、口元を綻ばせていた。
(ロゼが可愛すぎて完全に理性が飛ぶかと思った。どうしても、一歩先に進みたくなってしまう。……堪えろ)
まだ駄目だ。
眠っているロゼリアも十分に可愛いが、眠る前のロゼリアを思い出すと、胸が締め付けられる程に苦しくなってくる。狂おしい程に、ロゼリアが愛しくて、欲しくて堪らない。
「……シャワーでも浴びて、頭を冷やしてこよう」
明日になったら、またガーディアンナイトとナンバーズでの会議がある。確か、ずっとダイア公国に居たままだったルークとフェリクスも昨日帰還して、明日から騎士団に復帰する筈だ。明日の会議にも出てくるだろう。
―――オリバーは知らなかった。
フェリクスが“本物のセルジュ”と出会っていた事を。
仕方の無い事だ。フェリクスが公爵邸で見た少年の事を直接話したのは、共に任務で潜入していたルークだけなのだから。一応団長であるレオンにも報告書に書いて提出しているが、誰も予想出来る筈がない。明日の会議以降、ロゼリアは暫くの間、フェリクスに付き纏われる事となるのだった――――
* * *
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