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《分岐》アレク・ユードリヒ
迎えに行こう*アレクside*
しおりを挟む(――――どうしてセルジュは戻って来ないんだ?)
第二訓練場の中央付近で、ノア先輩が団長に事の経緯を話しながら頭を下げているのが見えた。俺とロイは訓練場の隅の方に座っていた為、全部は聞こえなかったが、『セルジュは追手を食い止める為に現地に残った』と言ったのが辛うじて聞き取れた。
ロアンは、少女達を救出して連れ帰ってくるのは、ナンバーズのNo.2とNo.9だって言っていたのに、オリバー先輩の姿も無い。セルジュの為に、オリバー先輩も現地に残ったのだろうか?
(何にせよ、もう簡易転移魔法陣は使えない)
セルジュに何が起こったのか、騎士団本部にはどう帰還するのか。俺が考えあぐねていると、ロイが青い顔でふらりと立ち上がった。
「ロイ?」
「俺は仕事に戻る」
「……なんだって?」
俺は自分の耳を疑った。
セルジュが居ないのに、仕事に戻る?そもそも今日の仕事は終わらせてから来たのに、何を言っているのだろうか?
「待てよ。まだセルジュは戻って来てないんだぞ?」
「分かっている。だが、俺達に出来る事なんて何も無いだろう?」
「どうして何も無いと言い切れる?いつものお前らしくもない」
「俺らしくない……?」
ロイは眉間にシワを寄せ、珍しく本気で苛立ったような顔をしている。ロイとは幼い頃からずっと一緒だったが、こんなに余裕の無いロイを見るのは何年ぶりだろうか。
「アレク。俺達は今現在、役職はあるが、ただの上位騎士だ。ナンバーズにさえなれていない。セルジュに何かあったとして、力不足な俺達に一体何が出来る?下手に救出しに行けば、足手まといになるだけだ」
「それは……」
「俺達に出来る事は、セルジュの無事を信じて待つ事だけだ。そこに俺らしいとか、らしくないとか、関係無いんだよ……!!」
「――っ」
ああ。やっぱり、ロイも自分と同じだ。本当はすぐにでもセルジュを助けに行きたい筈なのに。『待つ』と言い切ったロイの覚悟。それは弱さではなく、強さだ。信じて待つのにも、大きな覚悟が要るのだから。
(ロイには敵わないな。……セルジュを助けたいのに、それで足手まといになるなんて本末転倒だ。だけど)
俺は馬鹿だから、最後まで足掻いて見せる。
さっさと第二訓練場から立ち去ろうとするロイを引き止めて、俺も俺の覚悟を決める。例え徒労に終わったとしても構わない。少しでも早く、セルジュを騎士団本部へ。
「ロイ。無事を信じたとして、セルジュもオリバー先輩も帰ってくる為の手段が無い。ダイア公国にある固定転移魔法陣を何とか使用出来たとしても、ダイア公国側の国境までだろ?」
「……そうだろうな」
「なら、少しでも早くセルジュが帰って来れるように迎えに行こう」
俺がそう言った瞬間、ロイの目が見開かれた。セルジュの救出はオリバー先輩に任せて、俺達は俺達に出来る事をしよう。騎士団本部にはスペード王国の国境の砦まで一気に行ける固定転移魔法陣がある。そこから馬を使って、ダイア公国まで迎えに行く。
「……成程な。それなら、スペード王国の騎士だとバレないように、商団にでも変装した方がいい。団長に話してみよう」
「ああ。……本当なら、格好よく助けに行きたいけどな」
俺がそうボソリと小さく呟くと、ロイも小さく「同感だ」と言った。そうして俺達は団長に進言した。団長は少し考えてから、国境まで迎えに行く事を許可してくれた。他にも迎えに行く方法が無い訳ではないのだが、今回の任務はあくまで極秘任務。例の公爵家別邸以外では、目立った行動は控えた方がいいと判断し、商団に化けて迎えに行く方法を通してくれたのだ。
――こうして俺とロイは他に数人の騎士と治癒師を連れて、すぐに騎士団本部を出発した。
* * *
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