【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました!お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します!!

はる乃

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《分岐》オリバー・バルトフェルト

燃えるような緋色

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トラプラの町。
中心部にある魔導塔に辿り着いた私とお兄様は、塔の入口にある受付へと向かった。
塔の入口両側には兵士が一人ずつ立っていたが、いかにもお忍び貴族風な見た目の私とお兄様は、全く怪しまれる事なく受付へと通され、転移魔法陣使用の許可を貰った。

「確かに、使用料10銀貨いただきました。転移魔法陣のあるお部屋までご案内致します」
「宜しく頼む」
「はい。ではこちらへ」

案内係と思われる女性の後をついて行きながら、私はザル過ぎる警備に呆れてしまっていた。

(ダイア公国、大丈夫?いや、私とお兄様は助かるけども、こんななんちゃって貴族を通しちゃっていいの?身分証の提示も必要無いだなんて……)

順調過ぎて、逆に恐い。
何か罠でもあるんじゃないだろうか?
表情には出さずとも、内心戦々恐々としていたら、すぐに転移魔法陣の部屋へと着いてしまった。しかし、案内係の女性は隣の部屋の扉を開け、私とお兄様に恭しく頭を垂れて、その部屋で今暫くお待ち下さいと謝罪した。

「申し訳ございません。つい先程、もう一組お通ししたばかりでして、今現在使用中となっております。終わるまで、こちらのお部屋でお待ち下さいませ」
「使用中……?」

転移魔法陣って、そんなに時間が掛かる魔法だったっけ?
任務で騎士団からこっちに転移してきた時は、シュンッ!だったよ?一瞬だったよ?それこそ、七つのボールを集める某人気漫画の瞬間移動並みだった筈だけど。
私の疑問が顔に出ていたようで、代わりにお兄様が女性へ質問してくれた。

「分かりました。それと一つ確認したいのですが、宜しいですか?」
「はい、何でございましょう?」
「こちらの転移魔法陣はレドガン式でしょうか?」
「は?……っ、申し訳ありません!はい、勿論最新のレドガン式でございます!」
「そうですか。すみません、少し確認したかっただけです。ありがとうございます」
「い、いえ!あのっ!後でお茶をお持ち致します!!」

お兄様の笑顔にハートを撃ち抜かれた案内係の女性は、顔を真っ赤にしながら足早に去っていった。
なんだろう、少し複雑である。
私とお兄様は転移魔法陣がある部屋の隣室へと入り、扉を閉めてから音声遮断の魔法を掛けた。

「お兄様、レドガン式とは何なのですか?」

私がそう疑問を口にすると、お兄様は深く溜め息をつきながら片手を自身の額に当てた。一体どうしたのだろうか?

(……まさか、私が知らないだけで、新しい転移魔法陣でも出来たのかな?!)

自分では沢山勉強したつもりだったけれど、まだまだ勉強不足だったのかもしれない。優しいお兄様は、私の無知さに呆れてしまいつつも、優しいが故にそれを言えずにいるのでは?

そう思って私がショックを受けていると、お兄様がレドガン式について話してくれた。

「レドガン式とは、旧式の転移魔法陣の事だよ。彼女の前で旧式と言う訳にはいかなかったからね」
「旧式のって……確か、無駄に沢山魔力を使う魔法陣ですよね?」
「そうだ。ダイア公国は魔力量の少ない者が多いからな。大方、持ってきた魔石が足りずに買い足しにでも行ってるんだろう。……まさか半世紀以上前の旧式を使用している町があるとはな」
「で、でも、公爵邸の転移魔法陣は……」

第三王子だったブラッドは、ダルトン卿が連絡してからすぐに公爵家別邸へとやって来た。確かにブラッドは魔力量が多かったけれど、元々本邸にいた少女達を別邸へと移す際、旧式だと色々と弊害がある筈だ。

「……恐らく王城や公爵邸、王都では新しい転移魔法陣を使用しているのだろう。だが、そうではない町は、ここのように未だ旧式の転移魔法陣を使用している、という事か」
「どうして全部を新しいものに変えないんでしょうね?町に視察に来る時とか、困ったりしないんですかね?」

私がそう言って首を捻っていると、お兄様が優しく私の頭を撫でてくれた。撫でられるの好き。

「ロゼは良い子だね。きっとこの町には視察なんて来ないのだろう。この町の現状をきちんと把握しているなら、こんなに町民達が困窮しているのはおかしいだろう?まぁ、一部の商売人達は商魂逞しく頑張っていたが……」
「そんな……」

この町で初めて食べたフリーバは美味しかったし、ガラス玉のネックレスだって凄く綺麗で、お兄様にプレゼントしてもらえて、私はとても嬉しかった。なのに、あの人達は国から見放されているの?
ダイア公国は自国の民さえも切り捨ててしまうの?
スペード王国は、年内にはダイア公国と戦争する。なのに、ダイア公国の民達を憎む気にはなれない。私は、知らなくて良い事を知ってしまったのかもしれない。

――――コンコン。

音声遮断の魔法は掛けてある。
けれど、私もお兄様も、誰かが部屋の前に来て扉をノックしている事に気が付いた。先程の案内係の女性だろうか?

お兄様が私にチラリと目配せをした後で、音声遮断の魔法を解き、扉を開けた。するとそこには――――

「突然すみません。私は貴方達より先に魔導塔ここへ来ていた者なのですが、魔石が集まらず、まだ暫く時間が掛かりそうなのです。あまりお待たせするのも悪いですし、良ければ貴方達が先に転移魔法陣を使って下さい」

私の胸の内がざわついた。
何故なら、扉の向こうにいた青年の髪色が、燃えるような緋色だったから。

まるであのブラッドのような――――


* * *
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