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《分岐》アレク・ユードリヒ

嫌な予感

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「今日はやけに治癒師が少ないな」

騎士団、診療所にて。
アレクが何気無くそう呟くと、近くにいた年若い治癒師がアレクの顔を見て 「おや?」という顔をして口を開いた。ちなみにこの治癒師は、先日バルトロにボコボコにされたアレクを治療してくれた治癒師である。

「あは。また貴方ですかぁ。血の気が多い方ですね」
「あ!この間の…………えーと?」
「治癒師のロアンです。今日明日は殆どの治癒師達が第二訓練場で待機なんですよ」
「第二訓練場?……何かあったっけ?」

ロアンの答えを聞いて、アレクが首を捻る。
すると、ロイが溜め息をつきながら、診療室のベッドに腰を下ろしつつ治癒師達が何の為に待機しているのかを説明した。

「アレク。知らないのか?今日明日はダイア公国に拉致されてしまった少女達の救出作戦が実行されている筈だ。治癒師達は救出されてくる少女達の為に待機しているのだろう」
「そうなのか?!俺、何も聞いてないんだけど……」
「まぁ、極秘任務だからな」
「は?!」
「落ち着け、アレク。ちゃんと音声遮断の魔法を発動させている。それからそこの治癒師。ロアンといったか?極秘任務を軽々しく口にするな」
「も、申し訳ありません!!」

ロイが治癒師のロアンを窘める様子を見ながら、ふとアレクは「実行部隊は何処だ?」と口にした。
何故だか、嫌な予感がする。胸の内がザワザワと気持ち悪い。
ロイも何かを感じ取ったようで、無表情な顔を僅かにしかめた。

「確かナンバーズが救出作戦の任に就いていた筈だ。……流石にナンバーズ入りしたばかりのセルジュは外されているだろうと思って気にしていなかったが……」

ロイがそう答えると、二人の治療を終えたロアンが二人にとって信じられない事実を口にした。

「セルジュって確かNo.2の方ですよね?確かその方も任務に就いていた筈ですよ。少女達を救出して連れ帰ってくるのが、ナンバーズのNo.2とNo.9の方だって聞きましたから」
「「?!」」

……まだ学生で四年生だった頃。次の実力試験の結果で、騎士団への内定が決まるかどうかという時に、三人で話をした。その時の、セルジュの言っていた言葉が二人の脳裏を過る。

『僕は騎士団に入らなくちゃいけないんだ。やらなきゃいけない事があるから』

まさか、セルジュのやらなきゃいけない事とは、この事ではないのか?

(どう考えても、この采配はおかしいだろ……)

まだ入団したばかりで、ナンバーズ入りしたばかりのセルジュを、こんな危険な任務に就かせるだなんて。
アレクとロイは、口には出さずとも同じ事を考えていた。そして、どうにも嫌な予感がする。

二人はその後、直接騎士団団長であるレオンの元へ行った。当然ながら、私情で重要な任務を掻き乱す訳にはいかない。自分達の仕事が終わり次第、第二訓練場でセルジュの帰りを待たせて欲しいと願い出たのだ。
レオンは極秘任務が各部隊の隊長補佐官や副隊長補佐官にまで知られている事に眉をひそめたが、きちんと立場を弁えている二人の様子に、第二訓練場にてセルジュを待つ事を許可したのだった。


……………………
…………


――そうして、その日の夜。

作戦は成功した。
オリバーとセルジュ、先に潜入していたルークとフェリクスのお陰で、拉致されていた少女達は帰って来た。けれど……

日付を跨いでも、第二訓練場の隅でセルジュの帰りを待つ二人の元に、セルジュは帰って来なかった。



* * *
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