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《分岐》グリード・ルフス
公爵邸からの脱出と再会
しおりを挟むお仕着せに着替えた私は、グリードと共に執務室へと向かい、無事に魔力タンクを回収する事が出来た。
エプロンは、グリードに『似合う』とは言われたけれど、やはり動き難いという事でつけなかった。確かに、少しでも身軽な方が良いよね。ただでさえお仕着せのスカート長いし。
魔力タンクを回収した後、私とグリードは公爵家別邸を脱出するべく、転移魔法陣を使用して本邸へと移動した。
転移して、まず最初に視界に入ったのは雑然と積み上げられた本の山達だ。どうやら此処は書庫らしい。
「ここは本邸の書庫にある隠し部屋だ。邸内の警備はザルと言っていい。だが、公国出身の魔法師が数人確認されている。油断するな」
「了解です、グリード」
グリードが本棚の仕掛けを動かして、隠し部屋から書庫へと僅かに進み出る。周囲を警戒し、誰もいない事を確認してから、無言で私に『来い』と手招きし、書庫の中を駆け抜けた。公爵家の書庫とあって、書物の数は膨大だ。本棚や机、椅子等の調度品もやたらと豪華で、ゆっくりと本を読むには逆に落ち着かないなと思った。
書庫を出て、なるべく音を立てずにグリードの後をついて行くと、人気のない廊下の突き当たりで足を止めた。私は訳が分からずに首を捻る。
グリードはどうしてここで足を止めたのだろうか?
廊下の突き当たりには、天井近くに丸い窓があるだけで、部屋等の扉は見当たらない。
「グリード?」
「ここの窓から外に出る。俺に掴まれ、セルジュ」
「あの窓から?……身体強化を使っていいなら、自分でいけます」
「ああ、確かにそうだな。あまり床を壊すなよ?」
「はい!」
グリードが軽やかに高く跳んで、天井近くの窓枠に手をかけた。そして、いとも簡単に丸窓を押して開けてしまう。どうやら初めから鍵は掛かって無かったようだ。グリードは腕の力だけでひょいっと自身の身体を持ち上げて、窓枠に足をかけ、丸窓から外へと出ていく。
(マジですか。グリード、忍者みたい……)
私は通常の身体強化を発動させてから、膝を折ってその場にしゃがみ、次の瞬間思いきり床を蹴った。床からピシッと音が聞こえたけれど、このくらいなら大丈夫だろう。多分。
グリードのように軽々にとはいかないけれど、何とか窓枠に“はしっ!“と手をかけてよじ登れた私は、丸窓の外へ出ると、すぐに落ちそうになってしまう。
「うひゃっ?!」
しかし、グリードが私の首根っこを掴んでくれたので落下せずに済んだ。というか、首根っこって私は猫ですか?
「すまない。窓の外に出たら、すぐに上の屋根に掴まらないと落ちてしまうんだ。説明不足だったな」
「……………………そうですね」
説明不足どころじゃないよ。この窓から出るって事以外、何一つ教えてもらってませんから!
そう内心でグリードに対して文句を言っていたら、グリードが突然私の腰に腕を回し「跳ぶぞ」と言って来た。
はて。人間は飛べませんよ??
「う……~~~~?!」
言葉の通り、グリードは私を小脇に抱えて飛んだ。
正確には跳んだ。
公爵家本邸の二階から、本邸の外へと一気に跳躍したのだ。どんな脚力してるの??
そうして本邸から無事に脱出し、本邸の裏手にある林の中へ飛び込むと、グリードは私の腰から手を離して降ろしてくれた。
「大丈夫か?」
「は、はい。だだ大丈夫です。びっくりはしましたけど……」
「ロゼリア!」
「?!」
その時、突然グレンの声が聞こえた。
私が驚いて声がした方へ視線を向けると、林の中、少し離れた位置にグレンが居た。そして、グレンの傍にもう一人―――
私の心臓が早鐘のように速く速く脈打って、痛いくらいに感じた。グレンの傍には、青紫色の髪色に灰色の瞳をした、痩せこけている少年が居たのだ。
傷だらけの身体が痛々しい。
私の隣に居るグリードの、息を呑む音が聞こえる。
見た目は私そのものだ。
一卵性だったのだろうか。
その少年の灰色の瞳は、真っ直ぐに私を捉えていた。そうして、とても小さな小さな声で、彼が私を呼んだ。
「…………姉さん?」
* * *
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