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《分岐》グリード・ルフス
甘い痛み
しおりを挟む「……とても、愛らしいと思う」
「え?」
「いつも可愛いが、ロゼリアはそういった服も似合うのだな。少しだけ、抱き締めてもいいだろうか?愛らしいお前も、感じてみたい」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
けれど、何故だか身体がジワジワと熱くなっていく。待って。理解するまで待って欲しい。というか、そもそも私は似合うか似合わないかを訊いた訳じゃなくて、敵地での行動に適した方はどちらかと訊いたつもりだったのに。
「ロゼ。……沈黙は肯定か?」
「っ!」
昇格試験後の、グリードとの事を思い出してしまった。
(……あの時と、同じ)
口からの魔力回復を試してみるかと言われて、私は何故か沈黙してしまった。否定も肯定も口にしなかった。私は、グリードを拒否しなかった。
私を見つめるグリードが、何かに気付いて、私の首に手を添える。私自身もすっかり忘れていたのだが、首にはブラッドがつけた魔法封じの首輪がつけられたままだった。
グリードはその首輪をパキッと壊して外してくれた。
「あ、ありがとうございます……」
「……いや。魔法封じの首輪で縛り付けて、愚かな男だ」
「うん。……あの人は、なんで……」
「ロゼリア、少しじっとしていろ。嫌なら振り払え」
「え?何を―――……」
グリードの匂いが、温もりが、また私に直接伝わってくる。
グリードは私をぎゅっと力強く抱き締めた後、私の首筋に顔を埋めて、薄っすらと残る首輪の痕にキスをした。
私は動けなかった。
グリードが私の首筋に何度も優しくキスをする度に、私の身体が小さく揺れる。キスをされた所が、とても熱く感じられて、頭がクラクラしてしまう。
「ぐ、グリード……!」
「……嫌か?」
「っ!……待っ……」
「嫌なら殴ってくれていい」
「そん、な……あっ……!」
ピリピリとした甘い痛みが走った。
私は思わず、グリードの服を強く掴んで、変な声が出ないように唇を噛む。グリードは、私が拒絶しなかったからか、私の首筋を強く吸った。視線を上げたグリードと目が合って、私の心臓は大きく高鳴る。
グリードのエメラルドグリーンの瞳が、とても愛おしそうに、私を見ていたから。それと同時に、狩られる獲物の気分になった。
ちゅっと音を立てて、グリードの唇が私の首筋から離れていく。それがどうしてか名残惜しく感じてしまって、私はいよいよ自分の気持ちが分からなくなってしまった。
グリードの低く心地好い声音が、耳に響く。
「……薄く色付いて、更に愛らしく見える」
「~~~っ」
「俺を振り払わず、殴りもしない。……俺を、拒絶しない。ロゼリアは、俺を、俺の気持ちを受け入れてくれるのか?」
グリードの疑問は尤もだ。
私は、グリードを拒否していない。彼の行動を許してしまっている。だけど、まだ私には明確な答えが出ていない。こんなの、許されない事だ。迷っているくせに、分からないくせに、拒むこともしないだなんて。
私はコクリと唾を飲み込んでから、今の自分の気持ちを正直に話した。全て、包み隠さずに。
「ごめんなさい、グリード。……私、分からないんです。自分の気持ちが、分からない。なのに、グリードの事を拒絶出来ない。嫌だって、思えない。こんな中途半端なの、駄目だって分かってるのに……!」
私が俯いてそう言うと、グリードは熱の籠った瞳を細め、私の頬に優しく触れる。
「そうか。……俺は嬉しいな」
「……え?……」
「嫌じゃないなら、俺には可能性があるという事だろう?……なら、振り向かせて見せる」
「グリード……」
「お前の瞳が、俺だけを見つめるように。お前が、俺の全てを許してくれるように」
身体の奥が、とても熱い。
グリードの想いが、私の中に流れてきているようで、胸の高鳴りが治まらない。
グリードの逞しい腕に抱かれて、私は力を抜いた。……抗えない。
どうしても安心してしまう。グリードの腕の中が、心地良い。
「……好きだ、ロゼ。お前が好きだ」
「う、ん……」
「どうしようもなく、お前が好きだ」
グリードの気持ちを、嬉しく思ってしまう自分がいる。
私、私は…………
(グリードが、好きなの?)
* * *
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