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《分岐》リアム

私だけのお気に入り*後半リアムside*(※修正済02/02/19)

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「ん~~っ!」
「最初からこうしておけばいい。これならば、殿下に対して失礼な事を口走る事も無かろうよ」

地下室から一階の広いサロンへと移動させられたロゼリアは、わざわざサロンまで運ばせたと思われるベッドの上に寝かされていた。端々にある支柱と鎖で繋げられて拘束され、口には布を噛まされている。

(これじゃ、声が出せない。だけど、グレンはさっき退室したばかりだもの。まだ、我慢しないと……)

グレンは今、公爵家本邸で捕まっているセルジュを救出しに向かっている。魔法封じの腕輪を外してもらったロゼリアは、グレンから可能な範囲での時間稼ぎを頼まれていた。それ故に、ダルトン卿によって、喋れないように口に布を噛まされていても、大人しく耐えていた。
ダルトン卿が、そんなロゼリアを見て、ニヤリと気色の悪い笑みを浮かべる。

「流石に観念したのか?だが、今更大人しくしても遅い。殿下にたっぷりと可愛がってもらいなさい」
「……っ」

ロゼリアがダルトン卿を睨み付けると、ダルトン卿はそんなロゼリアを見て苛立ちを募らせた。そうして何を思ったのか、ベッドの横にあるサイドテーブルへ視線を向けて、その上にあった香に火を着ける。

「……良い香りだろう?お前のようなものには分からんだろうがな」
「…………」
「殿下が来るまで、まだ暫く時間が掛かる。その間、お前はここでじっと待っていろ。……どの道、自力では動けないだろうがな」

それだけ言って、ダルトン卿はサロンから出ていった。ロゼリアはダルトン卿が焚いた香を気にしつつ、少しだけ身体の力を抜いた。

(すぐに逃げ出せるように準備をしておかなくちゃ。まずは身体強化で拘束を解いて、庭へ出る為の扉から外へ出よう)

サロンは美しい庭がよく見えるように、ガラス張りとなっていた。ご丁寧にも、庭へ出る為の扉まで設置されており、ロゼリアはつい気を抜いてしまった。

(これならすぐに逃げられる。時間稼ぎはどのくらい必要だろう?もう少し居た方がいいかな?)

そう考えを巡らせていると、突然視界が揺れた。

(あれ……?)

魔力が涸渇した訳でもないのに、視界が揺れて、何故か身体がジンジンと痺れてくる。ロゼリアはすぐに身体強化を発動させ、拘束を解いた。早く動かないとマズイと思ったのだ。

(もしかして、あのお香?怪しいとは思ってたけど……)

ロゼリアは身体を起こし、ベッドから降りてガラス張りの扉の方へ向かうけれど、足元がフラフラと覚束無い。何とか扉の前まで辿り着き、扉を開けようとするが、既に力が入らなくなっていた。

(まさか、即効性の高い毒?自力で開けられないなら、魔法で…………)

しかし、ロゼリアはその場でずるずると膝から崩折れてしまった。痺れて身体に力が入らないと共に、身体の奥がじんわり熱い。得たいの知れない毒に侵されて、このまま死んでしまうのではないかと、ロゼリアは浅く呼吸を繰り返しながら、恐怖に身を震わせた。

(ダルトン卿は私を殺すつもりだったの?でも、それだと…………)

駄目だ、頭が働かない。
―――熱い。

ロゼリアがジワジワと熱に侵されて、冷たい床に座り込み、ガラス扉にぐったりと凭れ掛かってしまっていた、ちょうどその時。美しい花々が咲き誇る庭の影から、二人の男がゆっくりと姿を現した。

……………………
…………


*リアムside*

私とバルトロは複合魔法の【影移動シャドウジャンプ】を使用して、影伝いに移動を繰り返し、目的地であるダイア公国のコールリッジ公爵家が所有する、王都郊外の別邸へと到着した。
美しい花々が咲き誇る庭の、大きな木の影から身体を浮上させる。そうしてすぐに、ロゼリアの気配を感じ取った。すぐ近くに居る。
私の後に、影から出てきたバルトロが、辺りを見回して「あ!」と普段通りの音量で声を上げた。少し黙れ。

「バカトロ」
「リアム様、セルジュ君が居ましたよ。ほら、あそこです」
「何?」

バルトロが指差した方へ目を向けると、確かにガラス扉に凭れて、ぐったりと座り込んでいるロゼリアを見つけた。私はバルトロに対して若干の苛立ちを感じつつも、急いでロゼリアの元へと走り寄る。ガラス扉には、鍵が掛かっていない。引いて扉を開けると、凭れていたロゼリアがドサリと上体を地につけた。どうやら意識が無いようだ。

「……これは毒、ですかね?」
「黙れ」

バルトロが首を捻って軽くそう言うのを黙らせた私は、ロゼリアを抱き起こし、直ぐ様容態を確認しようとした。すると、ロゼリアが薄っすらと瞳を開いて、熱っぽく私を見上げてきた。

「セ」
「……り、あむ……?」

セルジュと呼ぼうとして、私の心臓が大きく跳ねた。私を呼ぶロゼリアの声が、あまりに甘ったるくて。
すぐに理解した。
ロゼリアが今、どんな状態なのか。これからロゼリアを捕まえた奴等が、ロゼリアにナニ・・をするつもりだったのか。

「……バルトロ」
「なんでしょうか、リアム様」

にこにこと上機嫌なバルトロに、私は独断で命令を下す。

「この邸に居る連中と好きなだけ・・・・・遊んできていいよ」
「……宜しいのですか?」
「いいよ。でも、この邸の主は生かしておいてね。……私がるから」
「承知致しました」

バルトロの口元に、歪んだ笑みが浮かぶ。バルトロは私とロゼリアの横をすり抜け、両手の指をパキパキと鳴らし、ブーツの音を響かせながら、室内へと消えていった。
バルトロが行ったのを確認してから、ロゼリアへ視線を戻すと、ロゼリアはまだ意識が朦朧としているようで、ただ私をボーッと見つめている。私はロゼリアをそっと抱き上げて、庭にあるガゼボへと連れていった。
ガゼボに入り、ロゼリアを抱えたまま腰を下ろす。

「……ロゼリア。どうして魔通石で私を呼ばなかった?」
「…………」
「回復しないと答えられないか」
「……り……む……」
「ロゼリア?」
「……っ…………リアム……」

―――なんだ?

この甘ったるい声で名前を呼ばれると、妙な気分になる。この熱っぽい瞳も、何故だかずっと見ていたくなる。私の胸の奥が、酷く熱くて、締め付けられる。

「……リアム…………」

ロゼリアの手が、必死に私のローブを掴もうとするから、私はロゼリアをぎゅっと抱き締めた。
誰かの温もりに触れたのは、いつ以来だろうか?

(温かい。それに、良い匂いがする)

私は抱き締めながらロゼリアの手を取って、指先にキスをした。

「今、楽にしてあげるよ。……【状態異常回復 キュア 】【ヒール】」

私が回復魔法を唱えると、ロゼリアの身体が光輝いて、直ぐ様通常の状態へと戻った。見開かれたロゼリアの瞳。意識が覚醒し、私をハッキリと認識したようで、ぽかんと口を開けて私を見ている。

「え?あれ?…………夢にリアムが出てきたと思ってたけど……」
「夢じゃない。現実だよ」
「どうして……?私、魔通石、使ってないの、に?」

私はロゼリアの後頭部に手を添えて、そのままぐっと私の胸に引き寄せた。ロゼリアはただただ驚いた顔をしていて、何故だか私は、それが無性に腹立たしく感じた。

「……ちゃんと魔通石を使ってよ」
「リアム……?」
「私は、今少しだけ、怒ってる」
「?!」
「だから、ちゃんと反省して」
「……リアム……?」

私が怒ってると言うと、ロゼリアは少しだけ怯えたような顔をしたけれど、反省するように言ったら、今度は不思議そうな顔をして、私を見上げた。
どんな顔でも可愛く見えてしまって、私はロゼリアの頭を自分の胸に押し付けた。

「わぷっ!」
「ロゼリア、返事は?」
「ちょ、押さえすぎ……」
「返事は?」
「………………はい。反省、します」

呼べば、ちゃんと駆け付ける。
ちゃんと守ってあげるよ。

君を、君だけを守ってあげる。
君は私の……………………

私だけのお気に入り、だから。


* * *
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