151 / 245
《分岐》オリバー・バルトフェルト
暫しの甘い休息
しおりを挟む『ロゼに人を殺める瞬間を見せてしまった。ロゼの瞳に、血生臭いものを映してしまった。……私は、それだけを悔いている』
お兄様が、それだけを、と言った意味。
騎士団の任務の為なら、私の為なら、人を殺める事さえ厭わないのだと。そういった意味が含まれている事を、私は直ぐ様理解した。人を殺めた事よりも、私にその瞬間を見せてしまった事を悔いているのだと。
『酷い男だろう?……私に、失望したかい?』
する筈がない。
今は、私だって騎士団の一員なのだから。それに、私は聖者じゃない。お兄様と、家族と、大切な友人と…………
私は、私の手の届く範囲の人達の事しか考えていない。勿論、助けられるなら皆助けたいし、救える命は全部救いたいけど。
敵だと認識した相手なら、倒さなければいけない。その結果をお兄様が背負っているのなら、私も一緒に背負いたい。
お兄様は私の頬の腫れを魔法で冷やした後、水鏡通信を使用し、騎士団本部と連絡を取った。そうして、このままダイア公国王都郊外の森を抜けて、トラプラの町に行けと言われた。トラプラの町には国境まで行ける転移魔法陣があるらしく、それを使って国境まで移動し、スペード王国へ帰還して欲しいとの事だった。
(帰還するまで、お兄様と二人っきり、ですか)
私とお兄様は、キスしかしていません。本当の本当に、キスしか、していません。
違うの、初心とかそーゆー事じゃないの。そーゆー次元じゃないんですよ。
……お兄様は絶対に女遊びをしていない。故に、そういった行為には慣れていない筈なのよ。いない筈、なのに―――
乙女ゲーム補正なのか。
キスが、めちゃくちゃ上手すぎる。キスしかしていないのに、腰が砕けてしまうとか、どういう事なんですか?私はお兄様と沢山キスをした後、暫くの間、全く動く事が出来なかったのだ。なので、結局またお兄様に抱えてもらっての移動ですよ。
もう止めて、本当に止めて。自分が情けなさすぎて涙が出そうだよ。
「町に着くまではこの服でもいいが、転移魔法陣を使うならダイア公国の服を調達してきた方がいいな」
「そ、そうですね」
「ロゼ?……どうしてそんな隅っこに座っているんだい?」
「いえ、その、お気になさらず……」
恥ずかしくて顔が見れないだけです。あんなにキ、キ、キスしまくっておいて、お兄様はどうして平然としていられるの??
ぐあ!思い出してしまった……!!ダメダメ!今は浮かれている場合じゃないんだから!!戦争が回避出来た訳でもないし、色々これからなんだから!!
私が必死に昂る気持ちを抑えようとしていると、突然お兄様に後ろから抱き締められてしまった。
「お、お兄様?!」
「ロゼ、私の可愛いロゼリア。顔が赤いよ?……まさか、私とのキスを思い出していたのかい?」
「な?!そ、そんな事……」
「良い事だ。……そのまま、帰還するまで、ずっと私の事を考えていておくれ」
「だ、駄目です、お兄様。私、少し頭を冷やして冷静にならないと……」
「なら、今は冷静じゃないんだね。……騎士団へは、出来る限り早く戻ろう。けれど、それまでは……」
「お、お兄様……?」
「違うよ、ロゼ。そうじゃない」
お兄様が私を抱き締めながら、私の耳に唇を寄せた。
騎士団に帰るまでの間。数時間置きに馬を休ませている、この休憩の時間だけ。私は堂々とお兄様の隣にいてもいいのだろうか?
「前にもお願いした事があったね。……あの時のように、その可愛い唇で、オリバーと呼んで欲しい。上手く呼べたら、ご褒美をあげるから」
「っ、ぁ……!」
「ほら、ロゼ。言って?」
「お兄…………」
お兄様の吐息も、優しく私の耳に触れてくる指も、全部擽ったくて。お兄様の匂いも、温もりも、安心するのに、前よりもドキドキしてしまう。囁かれてるだけなのに、心臓が痛い。
「ロゼ?」
「お……オリバー……」
「ああ、ロゼ。嬉しいよ。……ご褒美は、何がいい?」
お兄様に視線を向けると、お兄様の瞳には甘さと獰猛さが宿っていて。私は、はしたないと分かっているのに、お兄様に砂糖菓子が欲しいと、お願いしてしまっていた。
* * *
0
お気に入りに追加
3,821
あなたにおすすめの小説
竜人王の伴侶
朧霧
恋愛
竜の血を継ぐ国王の物語
国王アルフレッドが伴侶に出会い主人公男性目線で話が進みます
作者独自の世界観ですのでご都合主義です
過去に作成したものを誤字などをチェックして投稿いたしますので不定期更新となります(誤字、脱字はできるだけ注意いたしますがご容赦ください)
40話前後で完結予定です
拙い文章ですが、お好みでしたらよろしければご覧ください
4/4にて完結しました
ご覧いただきありがとうございました
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。
処刑回避で海賊に就職したら、何故か船長に甘やかされてます。
蒼霧雪枷
恋愛
アレクシア・レーベアル侯爵令嬢はある日前世を思い出し、この世界が乙女ゲームと酷似していることに気づく。
そのゲームでアレクシアは、どのルートでも言われなき罪で一族郎党処刑されるのである。
しかも、その処刑への道の始まりが三日後に迫っていることを知る。自分だけではなく、家族までも処刑されるのは嫌だ。
考えたアレクシアは、黙って家を出ることを決心する。
そうして逃げるようにようやって来た港外れにて、アレクシアはとある海賊船を見つけ─
「ここで働かせてください!!」
「突然やって来て何だお前」
「ここで働きたいんです!!」
「まず名乗れ???」
男装下っぱ海賊令嬢と、世界一恐ろしい海賊船長の愉快な海賊ライフ!海上で繰り広げられる攻防戦に、果たして終戦は来るのか…?
──────────
詳しいことは作者のプロフィールか活動報告をご確認ください。
中途半端な場所で止まったまま、三年も更新せずにいて申し訳ありません。覚えている方はいらっしゃるのでしょうか。
今後このアカウントでの更新はしないため、便宜上完結ということに致します。
現在活動中のアカウントにて、いつかリメイクして投稿するかもしれません。その時見かけましたら、そちらもよろしくお願いします。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる