【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました!お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します!!

はる乃

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《分岐》オリバー・バルトフェルト

白く冷たい無慈悲な花

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「……私のロゼリアに何をしている?この毒虫がっ……!!」

お兄様の周囲に氷の刃が形成され、無数の【氷の槍アイススピア】が一斉に公国の第三王子ブラッド目掛けて飛んでいく。私の前にはいつの間にか【防御魔法シールド】が張られていたので、私は無傷だったけれど……

ブラッドは氷の槍アイススピアの威力によって後方の壁に叩きつけられていた。しかし、怪我を負いながらも、その身に真っ赤な炎を纏わせてお兄様の氷を溶かしていく。ブラッドが複数の属性持ちかは分からないが、火の属性を持っていたようだ。ニヤリと口角を上げて、お兄様を見て嘲笑うかのように口火を切る。

「貴方は氷魔法が得意なようですね。けれど、残念ですが私は火魔法が得意なのです。炎は氷を簡単に溶かしてしまう。……貴方にとっては相性最悪ですよね?」

私の心臓がドクドクと嫌な音を立てた。確かに氷と炎なら、氷の方が分が悪いように思える。けれど、お兄様の属性は氷だけじゃない。
それに、私も居る。少しでもお兄様を手助け出来たらと思い、起き上がろうとするけれど、身体が痺れて動けない。さっき無理矢理飲まされたものは痺れ薬だったようだ。私が逃げ出さないようにと飲ませたのだろう。

(……これじゃ、今の私はただの足手まといだ。悔しいけど、せめてお兄様の邪魔にならないようにしなくちゃ……っ)

「ロゼ!!」
「おにい……さま……」

お兄様が私を抱き起こし、私の首についていた首輪を外してくれた。その後、直ぐ様自身の上着を脱いで、私の胸元を隠してくれる。
そうして、お兄様は私を一度だけぎゅっと力強く抱き締めてから、再び私の周囲に防御魔法を展開させて、ブラッドと向き合った。

「そうだ。貴方の顔、見覚えがあります。二年前、私を蹴り飛ばした騎士だ。……あの時、結構痛かったんですよ?」
「私は、あの時に貴様を殺せていなかった事を悔いているよ。猛省している」
「そうですか。なら、その後悔と共に死んで下さい。……貴方はロゼリアの何なのですか?恋人?貴方の存在が気に食わない。ロゼリアは私の花嫁ですから!【炎の矢ファイアアロー】!!」
「【氷の矢アイスアロー】」

勢いよく放たれた【炎の矢】を、お兄様が【氷の矢】で相殺していく。どちらの魔法もかなりの高威力なので、室内での戦闘は危険過ぎる。建物が倒壊する恐れがあるからだ。けれど、特にブラッドの方は何も気にしていないようで、攻撃を止める気配はない。お兄様が無詠唱でブラッドの魔法を相殺しながら、私の名前を呼んだ。

「……ロゼ。少しの間、目を瞑っていて欲しい」
「目を……?」
「すぐに終わらせるから」

そう言ってお兄様は、私に防御魔法を重ね掛けしてから、一気に加速してブラッドの懐へと飛び込んだ。
ブラッドはお兄様が飛び込んで来ると予想していたのか、カウンター魔法を発動させた。

「やはり、魔法の相性が悪ければ、接近戦で来ると思っていましたよ!!死ね!!【地獄の炎インフェルノ】!!」

炎が渦巻いて、激しい火柱が上がる。
天井を突き破り、部屋中の物に引火して、肌が、空気が熱い。懐に入り込んだお兄様の姿が炎に包まれてしまい、私の身体は恐怖によって硬直してしまった。恐怖とは、ブラッドに向けたものではなく、お兄様を失ってしまうかもしれないという恐怖。
私は動けぬ身体に必死に力を入れて、魔法を発動させようと試みるけれど、痺れと動揺で上手く発動させる事が出来ない。高笑いをするブラッドを見て、無力な我が身を震わせながら、睨む事しか出来ないでいると、炎の中からお兄様の声が聞こえてきた。

「……何を笑っている?まさか、私に勝ったつもりなのか?」

ブラッドの瞳が、驚きで見開かれたと共に、炎の渦を割るお兄様の手が見えた。片手をブラッドに向けて翳し、お兄様の低い声音が響き渡る。

「【白き神の吐息アバランシェ】」

それはまるで―――……

無数の白い花弁のようだった。
水属性から派生する氷魔法の最上位攻撃魔法。
渦巻く炎も、天井を突き破っていた火柱も、瞬く間に白く美しい波に呑み込まれ、音も無く消えていく。魔法を使ったブラッドは、みるみる内に肌の色を無くし、その場にドサリと崩れ落ちた。
私はその光景を、ただ呆然と眺めていた。いつまでも舞い落ちてくる白く冷たい無慈悲な花を、美しいとさえ思った。けれど……

「うっ……」

胃液が逆流しそうになって、何とかそれを必死に我慢する。赤髪の第三王子―――ブラッドは、恐らくもう目を覚まさないだろう。だからお兄様は、事前に『目を瞑っていて欲しい』と、私に言ったんだ。
振り返ったお兄様は、そんな私の様子に気付いて、直ぐに駆け寄って来てくれた。

「ロゼ!大丈夫かい?今すぐここから……」

そう言って、私を抱き上げようとしたお兄様の手が、一瞬止まった。私に触れる事を躊躇ったように見えて、私はついさっきブラッドにされた事を思い出してしまった。途端、私はどうしようもない不安に襲われる。

「……すまない。とにかく、今はここを出よう」

お兄様が私を横抱きにして、倒壊しそうな公爵家別邸から脱出した。
私はお兄様の温もりを感じながらも、胸の内がとても寒く、冷たくて、お兄様が掛けてくれた上着を強く強く握り締めていた。


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