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《分岐》リアム
昔話(※修正済02/02/19)
しおりを挟む二十数年前。
スペード王国の北部にある小さな村で、黒髪の男の子が生まれた。山の中腹にある小さなその村は、段々になっている畑の仕事が主な仕事で、村人達は仲が良く、平和で穏やかな村だった。
そんな村の、一組の夫婦の間に生まれた男の子は、高い魔力を持っている事が分かり、村人達はとても喜んだ。高い魔力を持っていれば、将来は騎士団か魔法師団に入れる。そうすれば、地位が約束される。こんな田舎の小さな村から、英雄が生まれたかもしれないと、沢山の者達が祝福した。
男の子は毎晩、寝物語のように聞かされた。騎士団は魔物や悪い奴を倒してくれる、王国国民達の正義の味方なのだと。男の子はすくすくと成長し、素直な優しい子に育っていった。
『魔法師団もいいけど、将来は騎士団に入りたいな。騎士団の方が格好いいもの』
しかし、そんな幸せな日々はある日突然終わりを告げる。
子供同士の些細な喧嘩が原因で、強大過ぎた男の子の魔力が暴走し、沢山の怪我人が出てしまったのだ。村人達は男の子を恐れるようになり、誰も近付かなくなった。親でさえも、男の子を怒らせまいと、毎日機嫌ばかり伺うようになってしまった。
『ねぇ、怒ってるの?』
『怒ってないよ』
『お願いだから、あまり感情を高めないでおくれ。その、また暴走したら大変だろう?』
『うん、分かってるよ』
『気を、気を悪くしないでくれ!私はただ……!』
『大丈夫。怒ってないよ』
その頃から、男の子は顔に笑顔を貼り付けるようになった。その笑顔がどうにも上手く出来ず、陰で『胡散臭い』と言われている事に気付いていたが、その笑顔を取ると両親が怒っているのかと訊いてくるので、もう止める事が出来なかった。
そんな日々が数年続き、男の子が9歳になった頃。
村が魔物達に襲われた。魔物に気付いた男の子も、村人達と共に魔物と対峙した。初めて見る魔物に、足が竦み、恐怖で身体が震えたけれど、必死に呪文を唱えて、男の子の魔法で魔物達を倒す事が出来た。
しかし―――
『お前が魔物を呼んだんだろ!この化け物!!』
魔力暴走を起こした時に、重傷を負わせてしまった子だった。
今なら、最近本で学んだばかりの最上位回復魔法が使える。けれど、あの時はまだ幼すぎて初級魔法しか覚えていなかった。村には光属性の人も当然いるが、中級回復魔法までしか使えなかった為、あの時に重傷を負った人は後遺症が残ってしまったのだ。この子も、その一人だった。
その子の言葉が周囲に伝染し、瞬く間に男の子は畏怖の存在から、村人達の憎悪の対象へと変わった。魔物が村を襲ったのも、それ以外の事さえも、全部男の子のせいだと言われ、両親も怯えて助けに来てはくれない。
この瞬間。
男の子の瞳は、人の感情の色が見えるようになっていた。なってしまった。強大な魔力が、男の子自身に身の危険を知らせようとしたのだろうか。男の子は村人達の、負の感情しかない色を目の当たりにして、全てを諦めた。
男の子は、その場で広範囲の最上位回復魔法を使用した。村人達が魔物にやられた傷も、昔負わせてしまって残っていた後遺症も、これで全部治っただろう。
そうして驚く村人達の前から、男の子は姿を消した。
騎士団本部の正門前。
門番の騎士達が、ゆっくりと近付いてくる黒髪の少年に気付いて、慌てて声をかけた。少年が怪我をしていると思ったからだ。
『坊主、どうした?怪我をしたのか?』
『私は怪我なんてしてない』
『親はどうした?坊主の血じゃないなら、これは……?』
『魔物の血。ねぇ、騎士団って悪い奴を倒してくれるんでしょ?』
『あ、ああ、そうだが……』
『なら、私を退治してよ。私は化け物だから』
『……坊主、名前は?』
『…………………………リアム……』
門番の騎士達は、すぐに男の子がどんな環境で育ったのか理解した。直ぐ様上官へ報告し、魔力測定と適性検査を行ったリアムは、スペード王国王家で保護する事が決定したのだった。
『どうして私を退治しないの?』
当時の騎士団団長へ、リアムが問い掛ける。すると、団長はリアムの頭を撫でながら優しく言った。
『リアムが悪い事をしていないからだよ』
『悪い事ならしたよ。魔力が暴走した時、止められなかった。沢山の人に怪我をさせたし、魔物だって呼び寄せた』
『幼い子供は、魔力を制御出来ずに暴走させてしまう事がある。強大な魔力を持っていれば、尚更幼い子供には止める事なんて出来ないのさ。お前は何も悪くない』
『でも…………』
『それに、お前は魔物を呼んだりしていない。そうだろう?』
『呼んでは…………いないけど……』
『なら、退治する理由は無い。お前は何も気にせず、前だけを向いていればいい』
『………………』
……………………
…………
あの時から、十七年が経った。
八年前にロゼリアと出会って、私は初めて前団長以外の人間に興味を持った。
兄を、家族を助けたいという純粋な色。前世の記憶があると言う割りに無垢で、私に対して恐れを抱いていても、真っ直ぐに私の瞳を見つめてくる。私が髪に口付ければ、頬を赤く染めて、私を一人の『男』だと認識する。
私を恐がりながら、私を人間扱いする彼女を、私は気に入っている。
だから、彼女の願いは極力叶えてあげたいと思って、力を貸したのに。
(ロゼリアは五属性持ちだ。バレたらダイア公国の奴等に何をされるか分からない)
リアムはナンバーズの寮に居るバルトロの部屋の扉を勢い良く蹴破った。バルトロは奥の仕事場から、嬉しそうな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「リアム様!そんなに慌てて僕に会いに来て下さるなんて嬉しいです!今すぐ共に鍛練致しませんか?!」
「バカトロ、私は今からセルジュの元へ転移する。一緒に来い」
「セルジュ君の元へ、ですか?」
「別に私一人でも十分だけど、少し腹が立っているんだ。……お前、どうせ暇していただろう?」
「確かに暇と言えば暇でしたけど。……お手伝いをする対価に、リアム様は何を僕に下さいますか?」
バルトロの歪んだ笑みを見て、リアムは眉根を寄せながら溜め息をついた。
「一回だけ、気が済むまで鍛練に付き合ってあげるよ」
「本当ですか?!嗚呼!リアム様と鍛練出来るなんて今からワクワクが止まりません!!早くセルジュ君の元へ行きましょう!!」
「…………ああ」
そうして二人は、闇属性と時属性が必要となる、複合魔法、【影移動】 を各々同時に発動させ、セルジュの元へと向かったのだった。
* * *
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