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本編
救出作戦①
しおりを挟む少しくすんだ金色の髪が、ふわりと風に揺れた。いつも優しい眼差しの青年は、何か思い詰めたような顔をして、目的となる場所を確認し、闇夜の中へと消えていく―――……
……………………
…………
ダイア公国、王都郊外にて。
美しい花々が咲き乱れる、美しい庭園のある大きな邸。とある公爵家の別邸だ。その邸に、盛装し、仮面をつけた、沢山の貴族達が集まっていた。今夜は闇競売が行われるからだ。商品は他国から拐ってきた魔力持ちの少女達。
そんな少女達を救出する為に、沢山の腐った連中に混じって、スペード王国騎士団の精鋭部隊である『ナンバーズ』が既に数人潜入していた。
先に潜入し、情報を集めていたNo.4のルークとNo.6のフェリクスは、客側に混じって騒ぎを起こし、客達の気を引くのが役目だ。その間、事前にフェリクスから得ていた情報をもとに、少女達の捕らわれている場所へ侵入し、退路を確保しつつ逃がす役目をロゼリアとオリバーが担う事になっている。しかし―――……
「何故、ノアではなくロゼなんだ?」
オリバーは、今日までずっと、ノアと共に任務をするのだと思っていた。ノアからも、事前に団長から『お前を任務に使いたい』と言われたと聞いていたからだ。それなのに、いざ指定の合流地点に着いてみれば、そこに居たのはノアではなく、溺愛している最愛の妹、ロゼリアだった。男装し、見た目は少年だが、その愛くるしい面立ちを見ているだけで、オリバーの胸は苦しくなり、切なく痛む。
「ごめんなさい、お兄様……」
ロゼリアは、間違いなくオリバーに怒られると思っていた。けれど、オリバーは優しくロゼリアを包むように抱き締めた。ロゼリアは驚いて、アクアブルーの瞳を瞬かせる。
「お兄様……?」
「いい。……これもロゼには必要な事なのだろう?」
「!」
「ならば、私は全力でロゼを守る。今度は間違えないよ」
「お兄様……!」
ロゼリアもオリバーの背に両手を回し、オリバーをぎゅっと抱き締めた。
ロゼリアと合流する前に、オリバーは邸から少し離れた森の中へ転移魔法陣を設置してきた。術式が難しく、一度に数人移動させる事が可能だが、五回使うと陣が壊れて消えてしまう簡易的な転移魔法陣で、空間を操る事の出来る時属性持ちしか発動出来ない。ロゼリアは侵入する場所と退路の確認をしてきていた。敵の見張りや配置はルークからの情報通り。
「ロゼ、行こう」
「はい、お兄様」
ロゼリアは緊張していても、安心していた。オリバーが認めてくれて、傍に居てくれる事が心強くて。
絶対に成功させると、固く己の心に誓っていた。
想定外な事が起こるのだと、確かに警戒しながら。
……………………
…………
拐われた少女達の捕らわれている場所は地下室だ。ロゼリアは幻惑の闇魔法を自分とオリバーに使用して、難なく地下室の出入口付近へと近付いていく。出入口の扉の前には見張りが二人。オリバーと顔を見合わせてから、コクリと一度頷くと、二人は属性特有身体強化を発動させた。発動させるとほぼ同時に、見張り二人を一瞬で気絶させる。そして二人は、地下室へと続く扉を開けた。階段を下りていくと、そこにも見張りが二人居た。オリバーとロゼリアは幻惑の闇魔法を使用したままだったが、何故か見張りが二人の存在に気付いて武器を構える。
「し、侵入者か?!おい!早く旦那様に報告しろ!!」
「?!」
「待てよ、侵入者と言ってもまだガキじゃねーか!こんな奴等、殺してから報告すりゃ……」
「ぐあっ?!」
「なっ?!」
しかし、次の瞬間。オリバーが即座に見張り二人を沈めていた。ロゼリアは自分達の姿が見えていた事に動揺して、直ぐ様行動に移れず、一歩遅れてしまった。
「す、すみません、お兄様!」
「ああ。……ロゼ、誰に聞かれるか分からない。二人きりだが、話す時はセルジュの口調の方がいい」
「はい、オリバー!」
「良い子だ。……中へ入ろう」
いつの間にか、オリバーは倒した見張りの腰から鍵束を奪っていた。ロゼリアが瞠目していると、オリバーは奪った鍵を使って扉を開け、先に中へと足を踏み入れる。
(なんだ?……何か、妙な感じがする)
オリバーが奇妙な感覚に眉根を寄せた。けれど、すぐに捕らわれている少女達が視界に入り、意識を引き戻す。
「私は全ての牢の鍵を開けていく。セルジュは少女達を誘導してくれ。」
「了解です、オリバー」
順調だった。ここまでは何の問題もない。少女達は全部で23人。こんな大人数をこっそり逃がそうだなんて、無理があるのではないか?ロゼリアがそう思っていた時、誰かが地下室への扉を開けて入ってきた。そして、信じられない声が耳に届く。
「俺も任務に加わるよ」
ロゼリアの心臓が嫌な音を立てた。
扉を開けて中へ入ってきたのは、この任務から外した筈の、ノア・ヴィルターだった。
* * *
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