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本編
どんな時でも*グリードside*/リアムの誓約
しおりを挟む(―――なんだ?)
何故ロゼリアはリアムに“お願い“をしているんだ?
任務とは、何の話だ?
それに、何故リアムはロゼリアとこんなに親しい?たまにオリバーにも感じる、胸の内がモヤモヤとする感じ。
『任務?……待て。一体何の話だ?』
『さぁ?君には関係ない話さ。ね、セルジュ?』
……面白くない。
わざと俺を挑発している。
気になる事は多々あるが、一番気に食わないのは、この胸の内に渦巻く重苦しい気持ちだ。自分の一部なのに、気を抜くと呑まれそうになる。
「……気に食わない」
俺がそう呟くと、ロゼリアには聞こえなかったようだが、リアムには分かったらしい。リアムには他人の感情を“色“で読み取る力があるからだ。
今の俺の色を見て、さぞ面白おかしく思っているだろうと思ったのだが……
リアムは笑っていなかった。
それどころか、いつもの胡散臭い笑顔さえも消えていて、眉間にシワを寄せている。俺が不思議に思っていると、リアムが腹立たしげに言い放った。
「グリードはオリバーとはまた別の意味で面倒くさいね」
「?……どういう意味だ?」
「別に。じゃあね、セルジュ」
「は、はい!お願いします!」
ロゼリアがもう一度そう言うと、リアムは自信満々に得意気な顔をして「任せて」と言った。
腹が立つ。俺も、ロゼリアに頼られたい。………さっき、ロゼリアは俺の事を頼りになると言った。
ならば、これ以上は困らせるだけだろう。俺は困らせたい訳ではない。
(……いや、困らせたい、のか?困った顔のロゼリアは、何故だかとても可愛く見える)
リアムも会議室から去っていき、残ったのは俺とロゼリアだけだ。俺はロゼリアの名を呼んだ。“セルジュ“ではなく、本当の名を。
「ロゼ」
「ぐ、グリード!今、その名前は……!」
「大丈夫だ。ちゃんと俺とロゼの周りにだけ、音声遮断の魔法を掛けた」
「でも……」
「ロゼ。先程、お前は俺の事を『頼りになる』と言ったな?」
「え?」
俺の質問に、ロゼリアは一瞬だけ呆けた顔をしてから、唐突に顔を真っ赤に染めた。
ああ、そんな顔をするな。胸が苦しくて仕方がない。抱き締めたら、お前は怒るだろうか?それとも…………
「ロゼ」
「い…………言いました、けど……」
「ならば、俺はお前のその言葉を信じる。信じて、引いてやる。だが、覚えていてくれ」
「グリード?」
自分でも驚くほどに、俺の口から甘い声音が零れ落ちた。
「お前が俺を呼んだなら、俺はいつでも駆け付ける。お前の元へ。危機に瀕した時でも、一人で過ごす夜が越えられない時でも。……いつでも俺を頼れ。お前に頼られたなら、俺はそれが何よりも嬉しい」
「~~~っ。何を……わ、私は……」
参ったな。
また困った顔をさせてしまった。けれど、可愛くて仕方がない。俺はロゼリアの耳元に近付いて、そっと教えてやった。自分が今、どんな顔をしているのか。
「俺は先に行く。お前は少し落ち着いてから第二会議室を出るといい。今の顔は、とても男の顔には見えないからな」
「グリード……!」
抱き締めたい気持ちを抑え込んで、俺は第二会議室を後にした。ロゼリアのあんな顔を、他の者には見せたくない。
(しっかり落ち着いてから出てくれるだろう。……自分でも分かっている筈だ)
さっきまで渦巻いていた、胸の内のモヤモヤとした重苦しさが軽くなった。ロゼリアをあんな顔にさせたのは俺だ。その事実が、俺の気持ちを軽くした。むしろ、今は心地好くさえ感じる。―――堪らない。
「今日は仕事が捗りそうだ」
……………………
…………
*リアムの誓約*
騎士団本部。
ガーディアンナイト専用区域にある団長専用の執務室。重厚な扉を開けると、中に居たのはスペード王国騎士団団長にして【キング】の称号を持つレオン・オルブライトだけだった。
「バルトロは?」
「追加の書類を持って、もう部屋に戻ったぞ。それと、リアム。何度も言っていると思うが、部屋へ入る前にノックをしろ」
「はいはい。どうせ意味なんてないと思うけど」
「意味はある」
「それより、話があるんだ。例の任務について」
「…………」
レオンは顔を上げずに、書類仕事を続けている。王都内で起きた事件や、国境沿いでの怪しい目撃情報等。
重要な案件はレオンの指示を仰ぎ、それ以外の解決済みの報告書には目を通して印を押す。勿論全てがレオンに行く訳ではなく、ジェラルドやグリードにも書類は割り振られている。しかし、リアムには書類仕事が殆ど無い。それが【ジョーカー】となる事の条件の一つだからだ。
「例の任務に、セルジュを就かせたいんだ」
その言葉を聞いて、ずっと書類を見ていたレオンが、顔を上げた。
「……セルジュを?確かに、グリードが言っていたように、No.3くらいの実力はあるだろう。だが、まだ見習いだ。実戦経験も模擬戦や試験のみで、殆ど無いに等しい。危険だ。承認出来ない」
「それだと困るんだよ」
「何……?」
リアムは瞳を細め、口元に笑みを浮かべた。ゆっくりとレオンに近付き、執務机の上に腰を下ろして、レオンの顔を上から覗き込む。
「予定通りの人選では駄目なんだ。セルジュじゃないと、作戦は失敗する」
「……何故そう思う?」
「言ったところで、レオンには分からない。大丈夫。作戦は成功する。だから、私の言う通りにして」
「…………それは、【ジョーカー】として言っているのか?」
「勿論さ」
リアムの漆黒の瞳をじっと見つめてから、レオンは溜め息をついた。手に持っていた書類を机に置いて、椅子の背凭れに背を預ける。
「だったら、そう決めるしかない。俺は反対だがな。……もし、作戦が失敗して、セルジュも死んだら、分かっているだろうな?」
レオンの眉間に、深くシワが刻まれる。明らかに、レオンは怒っていた。けれど、リアムは全く気にしていなかった。笑顔を崩すことなく、「レオンは私に感謝すべきだよ」と、平然と言って退ける。
「君の考えていた人選では、確実に犠牲が出ていたのだから。……まぁ私は別に、誰が死のうと興味無いけどね」
「……それはセルジュでも、か?噂で聞いたぞ。お前が珍しく気に入っていると」
「セルジュは別さ。私は、変わらないあの子の色が好きなんだ」
「それなら、何故あえて危険な任務をさせようとする?」
「…………それが、望みだから」
「望み……?」
リアムから笑顔が消えた。
そして、それ以上は何も語らずに、執務机から降りて扉の方へ歩を進めた。
リアムは、ある日突然騎士団に現れた。
その出自も、家族も、全てが不明で。唯一分かる事は、リアムという名前と、化け物じみた力だけ。現れた時のリアムは、まだ幼い少年だった。恐らく、その化け物じみた力のせいで親に捨てられたのだろうと、スペード王国王家が保護し、ゆくゆくはガーディアンナイトになれるだけの実力があると判断され、その頃から黒月寮に入寮し、騎士団で育った。
しかし、成長したリアムは、『ガーディアンナイトにはなりたくない』と言った。
『守りたいものが無い』と。
『なっても無駄だ』と。
だが、化け物じみた力を持つリアムを、野放しにはしておけない。そこで王家と当時の騎士団団長がリアムと約束し、いくつかの誓約を交わした。今回のコレも、その一つ。騎士団の最高権力者であり、絶対的な決定権を持っているのは、団長であり【キング】であるレオンだが、リアムはそれを覆す事が出来る。王国にとって悪意なく、最善だと判断したなら、リアムの意見が通るのだ。しかし、それには勿論リスクもある。一度でも判断を誤ったなら、この誓約については無効となり、犠牲があった分だけ罪を背負わなければならない。
執務室から出ていったリアムに、レオンは小さく呟いた。
「…………その大事なものを、無くさなければいいがな。」
こうして、レオンは保留にしていた例の任務の一人を、ノアからセルジュへと変更したのだった。
* * *
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