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本編

見習い騎士の規則

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翌日。
朝早くに目を覚ました私は、すっかり魔力も回復し、身体の調子が戻ったので、見習い騎士用の制服の上着に袖を通し、支度をして救護所から外へと出た。
空の朝焼けが綺麗で、どこの世界でも空は同じなんだなぁとしみじみ思いながら軽く伸びをする。

(朝の鍛練しようかな)

そう思って、近くにある第一訓練場を素通りし、第三訓練場へ向かって歩いていると、若草色の制服が目に入った。あれは―――

「セルジュ様ですよね?!」
「え?」

ふわっとした栗色の髪に、淡いピンク色のリボン。大きな茶色い瞳。
間違いない。ヒロインのジェシー・バーネットだ。というか、今この人、私の事を呼んだ?
しかも、何やら挙動不審に周囲をキョロキョロと見回している。どうしたんだろう?

「よし。今日はあの、アレクとかいう奴は居なさそうね。……あの、セルジュ様。昨日の昇格試験で『ナンバーズ』入りしたセルジュ・プランドル様ですよね??」
「え、あ、はい。僕がセルジュ・プランドルですけど。何か用ですか?」

どうやら聞き間違いではないらしい。攻略対象者でもない私に、こんな早朝から一体何の用事だろう?
しかも今、アレクが居ない事を確認してたよね。意外な組み合わせだなぁ。二人の間に何かあったんだろうか?

「セルジュ様!昨日は誰に回復してもらったのですか?ちゃんと完治しました?」
「へ?誰にって……」

なんでそんな事を訊かれるんだろう?
というか、ヒロインとはあんまり関わりたくないんだよね。女友達は欲しいけど、今は男装してるし。

「見習い騎士の方は、試験で怪我をした場合、治癒師が治療を行うと決まっているのですよ?!一応、魔力回復班だって待機していたのに、何故だか救護所のセルジュ様の部屋だけ入っちゃ駄目って言われるし、何でなのよ?!隠しキャラを回復させるのはヒロインの役目でしょう?!んもう!さっぱり意味が分かんない!!」

ごめん。
私もよく分からない。
とりあえず、見習い騎士は試験で怪我をした場合、治癒師に治してもらわなきゃいけないって事??魔力も、ちゃんと魔力回復班とか居るんですね。知らなかったよ。使える優秀な治癒師達は、ゲームでは全員戦争でやられちゃってたからね。

「そんな規則があったとは知りませんでした。すみません。ですが、怪我ならちゃんと治してもらいましたので大丈夫です。次から気を付けます……の、で?」

会話の途中で、何故だかジェシーが急に私の腕を掴み、瞳を輝かせながら私をガン見し始めた。
ちょ?!
勝手に腕を掴まないで下さい!

「流石隠しキャラね。近くで見たら本当に凄い美少年だわ!将来有望!これはこれでアリだわ!!」

いや、何がだよ!!

ジェシーの手を何とか振り解こうとするも、力加減が難しくてなかなか上手くいかない。

「あの……ジェシー、さん?離してもらえませんか?」
「駄目ですよ!ちゃんと怪我が治っているか、診療所で確認しますので、一緒に来て下さい!」
「え?!」
「大丈夫です!何も痛い事はないですし、少し確認して、治療報告書に名前を書いてもらうだけですから!」

無理無理無理!!
確認て、制服脱がないといけない感じじゃない?!女だってバレたら即退場だから!!任務受ける受けないの前に、辞めさせられちゃうから!!せっかく痛い思いして『ナンバーズ』になったのに勘弁して下さい!!

「……っ!い、いい加減離し―――」
「きゃっ?!」

私が言い終わらない内に、ジェシーの悲鳴が聞こえたと思ったら、掴まれていた私の腕が突然解放された。
視界に映ったのは、黒に近いディープグリーンの髪。首の後ろ辺りで束ねられた髪が、ふわりと揺れる。

今はまだ、あまり会いたくないと思っていた人物。グリードがそこに居た。

「……何をしている?」


* * *
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