【R18】乙女ゲームの悪役令息の妹に転生しました!お兄様の処刑フラグを全力で叩き壊します!!

はる乃

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本編

大切な人*アレクside*

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学生時代も、時折セルジュは絡まれていた。綺麗すぎる容姿と、華奢な身体に似合わない実力を兼ね備えたセルジュは、やっかみを買う事が多々あったからだ。けれど、いつもセルジュは自分で解決していた。綺麗な見た目に反して、意外と気が強く、結構言いたい事をズバズバ言う。オリバー先輩やグリード先輩の前ではやや弱腰だが、あの二人を前にして強気でいられる奴はそうは居ないだろう。
だから、今回も大丈夫だろうと思っていた。三人掛かりでセルジュに手を出そうとしてきたら加勢するつもりで、ロイとリオと離れた位置から見守っていた。けれど……

「貧弱過ぎて、まるで女みたいだな。肌も白い。コネじゃないって言うなら、女人禁制な騎士団の、“慰め者“として入団試験に受かったんじゃないのか?」

―――なんだと?
コイツ、今セルジュになんて言った?

「なっ……」
「男ばかりの騎士団では、貴重な存在だ。それなら俺もお前を可愛がってやってもいいぞ?」

セルジュはまだ手を出された訳じゃない。だが、気付くと俺の身体は走り出していた。
俺達のセルジュは、勉強も、魔法や武芸の特訓も、いつもいつもクソ真面目で、人一倍努力していたのを、俺達は知ってる。それを“慰め者“だと?
―――なんて侮辱だ。

「こンのクソ野郎がアアアアアアアッッ!!!」

一回殴り飛ばしただけでは気が収まらず、俺はもう二、三発デミールを殴ってやった。どうせ叱られるなら一発も三発も大差無いだろう。これで沈んだと思ったが、意外にも奴にはまだ意識があった。俺に向かって魔法を発動させてきたのだ。反射的に俺はデミールから距離を取ったが、奴の発動させた魔法は触れればすぐに割れてしまうような、ひ弱なウォーターボールだった。俺に殴られたせいで、上手く集中出来なかったのだろう。ふよふよと飛んできたウォーターボールに、俺はあえて当たりに行こうとした。喧嘩両成敗が成り立つかなと安易に考えたのだが、ロイに羽交い締めにされていたセルジュが、いつの間にか抜け出していて、俺をウォーターボールから守るように抱きついて来た。俺は驚いて目を見開く。

「ダメだ!!アレク!!」
「セルジュ?」
「―――……防御シールド!!」

次の瞬間。
ひ弱なウォーターボールは空中で弾けて、白い煙を出しながら周囲に飛散した。酸だった。

セルジュが唱えた防御魔法は瞬時に広範囲へ及び、第三訓練場に居た見習い騎士達全員を包み込んだ。誰一人として飛散した酸を被らずに済んだが、見習い騎士達はセルジュの魔法展開の早さと、あまりに広範囲で強固なシールドに瞠目し、絶句している。普通は自分単体か、全体でも数人分のシールドを張るくらいだろう。だが、セルジュのシールドの範囲は明らかに異常だった。

「な……?!飛散する酸が触れる前にシールドを展開出来るなんて……!!」

デミールの言葉に、俺達を含め、周囲の見習い騎士達も一斉に我に返った。そして―――

「ただの喧嘩にこんな物を出すなんて!!」
「五大商家の子息だか何だか知らないが、明らかにやりすぎだっ!!」
「俺達はソイツがシールドを張ってくれていなかったら酸が掛かっていたんだぞ?!」
「デミールこの野郎!!隊長に突き出してやるっ!!!」

見習い騎士達に取り囲まれたデミールとその取り巻き達は、青褪めながら各々言い訳を口にする。

「しゅ、周囲にはシールドを張るつもりだったさ!それに、俺の属性は光と水だから、すぐに回復魔法だって……」
「それに、最初にデミール様に手を出してきたのは向こうだぞ?!」
「これは正当防衛だ!!」
「ふざけんな!!過剰防衛どころか、殺意すら疑うレベルだ!!」
「オレ達はさっきの喧嘩、聞いていたぞ!!先にお前が下衆な事を言ったからだろうが!!殴られて当然だ!!」

一時的に向けられていたセルジュへの不正疑惑なんて、さっきの防御魔法で一瞬にして晴れてしまったようだ。
デミールはもう騎士として終わったかもしれない。
俺がそう考えていると、俺に抱きついたままのセルジュが、静かに口を開いた。

「……もし目にでも掛かっていたら、中級じゃ回復出来ない。君は上級回復魔法が使えるの?」

今まで見たことが無いほど、セルジュは怒っていた。その綺麗な顔で、鋭くデミールを睨み付けると、デミール以外の者達も、いつの間にか口を閉ざし、息を呑んでいる。

「僕に文句があるなら、いつでも受けて立つ。だけど、こんな風に周りを巻き込むのは止めろ!!僕は、僕の大切な人達を傷付ける者を許さない!!」

―――嗚呼、これで本当に疑惑なんて微塵も無くなった。
身体は華奢であっても、セルジュの実力は本物で、この王国の騎士は国民を守る為に居るという事を、今まさに体現してくれたのだから。

「……セルジュ」
「アレクの馬鹿!なんでわざわざ当たりに行くんだよ?!」
「悪い。俺が考えなしだった」
「本当だよ。……僕……」
「セルジュ?」

あれだけ強気に、デミールに格好よく啖呵を切ったセルジュが、震えていた。その大きな瞳には、涙が滲んでいる。

「恐かった。……この世界には・・・・・・回復魔法があるけど、それでも、あんなものをアレクが被ったらと思ったら……っ」
「セルジュ……」

傍観してる場合じゃなかった。
もっと早く、最初からセルジュの隣に立っていれば良かった。確かにセルジュ一人で解決出来ただろうけど、そういう問題じゃなかった。

「アレクが、皆が無事で良かった……」

……俺はやっぱり、ロイに感化されたのか?セルジュが可愛くて、このまま腕の中に閉じ込めておきたいと思ってしまう。セルジュが男だろうが女だろうが、関係無いと思える程に。

俺はこの親友を、心底愛しいと思ってしまった。


* * *
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