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本編
早朝の鬼ごっこ③
しおりを挟む早朝。
騎士団の第三訓練場に併設している休憩所の個室にて。個室の中は簡素なベッドが三台程並んでいるが、現在横になっている者は居らず、立ったまま話しをしている者の姿が三人。
オリバーにグリード。そして男装し、セルジュの姿をしているロゼリアだ。
ロゼリアはいよいよ現れてしまったヒロインの存在に、背筋が凍るような思いだったが、ふと疑問に思って首を傾げる。
「ロゼ、彼女を知っているのか?」
「いえ、会った事は無いんですけど……」
ヒロインは何がしたいの?
グリードを追いかけ回すイベントなんて無かったと思うんだけど。確か乙女ゲームの攻略対象者達には、各々気に入っている場所がいくつかあった筈。
……もしやヒロインは私と同じ転生者で、あの乙女ゲームをプレイした人?それなら、グリードのお気に入りの場所を知っていてもおかしくない。ゲームではキャラとの好感度が上がっていくと、そのキャラの気に入っている場所へ訪れた時、かなりの確率で遭遇するようになるんだよね。
……え、本当にヒロインは何がしたいの?まさか、好感度を上げているつもりなの?ゲームでは遭遇する度に好感度が少しずつ上昇するけど、リアルで執拗に会いに行ったらただの危ない人だよね?
それに、ゲームで会う度に好感度が少しずつ上昇するのだって、その他の面でだいぶ好感度が上がってからだったし。
「もしかしたら、その人はちょっと……表現の仕方が変わっているだけで、グリード……先輩が好きなのかも??」
「…………いや、私も最初はグリードのファンなのかと思ったんだが、途中で遭遇した私の事も追い掛けて来たんだ」
「え?お兄様を……?」
「ああ。……初対面の筈なのに、何故だか私の名前も知っているし」
ちょっと。
この乙女ゲーム『貴女の13人のナイト達』では、逆ハールートなんて無かった筈。だってお兄様が死んじゃうから……
それなのにグリードだけじゃなく、お兄様もだなんて。ついヒロインにイラッときて、私が思わずお兄様の腕をぎゅっと掴むと、お兄様が驚いた顔で私をじっと見つめた。
「ロゼ?」
「へ?……あっ?!いや、えっと、これは、その……」
ついお兄様の腕をホールドしてしまった!!
私が慌てて手を離そうとすると、お兄様が蕩けるような瞳をしながら私との距離を詰め、そっと瞼にキスをしてくる。
私は顔を真っ赤にしつつ、お兄様の端整なお顔に手をやって押し退けようとするが……
「お、お兄様!恥ずかしいので、その……」
グリードも見てるし!!
「だってロゼは妬いてくれたんだろう?可愛いロゼ。可愛い、私のロゼリア」
お兄様が更にキスを落とそうとしてきて、私はきゅっと目を閉じて身構えた。けれど―――
「オリバー」
「……グリード、邪魔をしないで欲しいんだが?」
「言い難いんだが……」
「?」
グリードは少し視線を彷徨わせながら、申し訳なさそうにお兄様へ爆弾を投下した。
「兄妹は結婚出来ない」
「…………は?」
「知らなかったんだろう?誰でも知っているような事でも、知らない者は居るからな。恥じなくていい」
「何を……」
グリードは少しだけ気遣うような顔をした後、流れるような動作で私をお兄様からスルリと奪い、何故だか私をぎゅっと自分の腕の中に閉じ込めた。
「うひゃ?!」
「ロゼ?!」
「だが、安心しろ。お前の代わりに、俺がロゼを守る」
グリードの言葉を聞いて、お兄様に殺気が籠り始める。
「……それは一体どういう意味だ?」
「言葉通りの意味だが?」
グリードは不思議そうに首を捻った。
いやいや、お兄様すごい顔してますけど。落ち着いて、落ち着いてお兄様!とりあえず、グリードは私を離して!大体、お兄様の代わりに私を守るって、どーゆう意味??
そう思っていると、私を抱くグリードの手に力が籠る。
「別に深い意味はない。ただ、ロゼを守りたいだけだ。さっきの女は苦手だが、ロゼに追い回されるなら大歓迎だ」
「……っ?!」
ちょ……
ちょっと待って!
私はヒロインじゃなくて、ただのモブなんですよ?!今気付いたけど、自然な感じにセルジュから本名の愛称呼びになってるし!!
「……兄妹で結婚出来ない事など知っている。いいからロゼを返せ」
「今、ロゼは嫌がっていただろう?嫌がる事をしないなら、すぐに離すが……」
「ロゼは嫌がっていない!恥ずかしがっていただけだ!」
「??だから、恥ずかしくて嫌がっていたのだろう?」
「……っ!それなら、今だってロゼは嫌がっていると思うが?」
「!……そうなのか?」
「え?」
グリードが私から手を離し、私の顔を覗きこんでくる。まるで捨てられた子犬のような眼差しで…………
「すまない。俺自身が嫌がる事をしていたとは。……そんなに、嫌だったのか?」
「え?!……いや、その……別に嫌という訳では……」
「!」
「ロゼ?!」
「や、でも!困ってはいましたから!だから、その、過度な触れ合いは控えていただけたら嬉しいかなって!」
「そうか……」
どうやら分かってくれたようだ。
というか、ヒロインの話をしていたのに、途中から何かおかしな方向に……
私がホッと息をつきながらヒロインの事を考えていると、グリードが私の耳元に口を近付けて甘く囁いた。
「これからは、ロゼが嫌がらないよう、時々にする」
「?!」
時々?!
時々にするって……
というか、なんで今耳元で囁いたの?お兄様と同じくらいイケボなんだから、耳元で囁くのは勘弁してください!!
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