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本編
予期せぬ来訪者
しおりを挟むナンバーズ専用の寮。
その寮にあるお兄様の部屋のベッドの上で、私はくたっと力の抜けた状態で、お兄様にぎゅっと抱き締められていた。
布越しのキスだったけれど、未だに頭がふわふわしている。というか、咄嗟の行動だったのだろうと思うのに、よく瞬時にハンカチを出せたよね。……別に惜しいとか思ってませんから。布越しのキスで十分身も心も限界ですから!!
「……ロゼ。急にあんな事をしてしまってすまない。何とか冷静に話を聞いてもらいたかったんだ」
「……」
確かに、物理的効果は抜群でした。
布越しキスって初めて経験したけど、酸欠凄い。……うぐ!思い出しちゃった!~~~お兄様の馬鹿!!
「さっきも言ったように、騎士団は男しかいない。……星屑寮の部屋で、ロゼがルームメイトに触れられているのを見たが」
「あ、あれは、梯子から落ちた私を助けてくれただけで……」
「だとしても、向こうだって不思議に思っただろう。こんな…………」
「こんな……?」
「ゴホン。いや、とにかくだ。さっきみたいな事が今後も起こるかもしれない。その結果、もしもロゼが女だとバレてしまったら……」
「騎士団を追い出されるのは困るので、気を付けます。だから……」
お願い、お兄様。
見逃して下さい。
しかし、お兄様は首を横に振った。
そして真剣な眼差しで私をじっと見つめ、「そうじゃない」と私の考えていた事を否定した。
「むしろ、ロゼを女だと知って、きちんと上に報告してくる奴ならマトモで信頼できる。そうじゃなくて、私が心配しているのは、皆が皆、マトモという訳では無いという事だ。……もしも女である事を隠しておくからと、金銭だったり、不埒な行為だったり、何か良くない事を求められたらどうするつもりなんだ?まさか応じるつもりなのか?」
「……っ。それは……」
「ロゼ。私は本当にロゼが大事で心配なんだ。例え騎士になる程の実力があって、普段は良い奴だったとしても、魔が差す事だって有り得る」
お兄様の話を聞いて、確かにそうなる可能性も考えておかねばと思った。誰かに女だとバレて、脅された場合。私はその相手をどうしたらいいだろう?
全く考えてなかった訳ではないけど、私にとっての最優先事項は、騎士団に入団する事だったから。入団さえしてしまえば、何とかなるかなって…………
私が色々と考え込みながら口を噤んでいると、お兄様がポツリと小さく何かを呟いた。
「それに騎士団は、もうすぐ……」
…………お兄様?
私がお兄様の腕の中で、首を傾げていると、誰かがお兄様の部屋の扉をコンコンとノックした。足音や気配等、まるで感じなかったのに。私が思わず、ビクッと身体を震わせると、お兄様は安心させるように私の頭を撫でてから、私にバサリと布団を被せた。
「ロゼ、大人しくしておいで。追い払ったら、話の続きをしよう」
「…………」
お兄様の声、イケボ過ぎる。
……お客さんを追い払うつもりみたいだけど、いいのかな?
私が布団の中に隠れていると、ガチャッという音と共に、誰かが室内に入ってくる足音が聞こえてきた。
「……っ?!待って下さい!いくら貴方でも、勝手に室内へ入らないでいただきたい!」
「そう固いこと言わないでよ。……ねぇ、ここに居るんでしょう?ロゼリア」
「?!」
その声を、私は知っていた。
だってその声は、まだ私が6歳の時に1度だけ会った…………
―――バサッ!
「み~つけた♪」
制止するお兄様を無視して、部屋の奥までズカズカと進み、私が隠れるために被っていた布団をバサッと剥ぎ取ったのは……
『ガーディアンナイト』の【ジョーカー】である、リアムだった。
* * *
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