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本編

死なない約束

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「大体、僕は……男だって、言ってるのに……!」

疲れ果て肩で息をしながら、私達三人は訓練場で寝転んで空を仰いでいた。まだ太陽が高い。もうすぐ昼休憩の時間だろう。

「はっ……、まぁ、女の子がこんな汗だくになるまで、特訓なんてしないよな」
「確かに。ケホッ…だが、汗だくになるまで特訓するセルジュがまたイイ」

ロイの言動だけは何年経っても理解できない。アレクなんて最近はもう諦めてるみたいだし。

「………………………………でも、確かに実戦は効果的だね。試験まで一緒に特訓して、皆一緒に認めてもらお!!」
「そうだな!」
「セルジュ。ずっと疑問だったのだが、その腕の魔導具はいつ使うんだ?使っているのを見たことがないのだが」
「え?!いや、あの、これは……」

魔力タンクの魔導具は一応毎日つけてるけど、基本は魔力を溜めてるだけで使う予定は無いんだよね。だって、いざという時に魔力が足りなかったら困るし。どうして私の魔力量は普通なの?まぁ少なすぎるよりいいけど。……無事に騎士団に入団出来たら、グリードに魔力溜めるの手伝ってもらおうかな?グリードだったら何も聞かずに手伝ってくれそうだし。……お兄様も魔力量多いけど、お願いしたら、絶対に魔力タンクの使い道を訊いてくるだろうからなぁ。正直に話す事は出来ないし、仕方ないよね。

グリードと婚約………………
するつもりは無い、けど。セルジュとして頼るのは、有り?というか、あの婚約の話ってグリード本人は知ってるの?この間の事件の時は、そんな素振り無かったけど。

私がロイの質問に答えず、思考を巡らせていると、アレクがパァッ!と瞳を輝かせて「まさか秘密兵器か?!」と言い出した。

「へ?」
「なるほど、秘密兵器か。なら詳しく聞く訳にはいかないな」

まぁ確かに秘密兵器と言えなくもないけど。やっぱり男の子ってそーゆうの好きなの??

「秘密兵器かあ。俺もなんか欲しいな」
「アレクは秘密兵器云々よりも、身体強化をもっとちゃんとマスターしろ。ムラが多すぎるから負けるんだろ」
「ちゃんと身体強化マスターしてるし!!」
「アレク。言い難いけど、確かにロイが言う通り、アレクの身体強化はちょっと雑かも。所々で薄い箇所があるんだよ。だからダメージも結構受けるだろ?」
「~~~っ」

アレクは一年生の時から身体強化出来ていたけど、剣術や槍術はめちゃくちゃ上手いのに、魔法の方は苦手らしくてとにかく雑というか粗い。
それだけ粗いのに上位成績優秀者に入れるのだから、きちんとマスターすれば凄い事になるかもしれない。私は身体を起こして、アレクの傍へ移動する。

「身体強化してみてよ。どこが薄いか教えてあげるから」
「……分かったよ」
「セルジュ!!俺にも教えてくれないか!!」
「ロイはもう出来てるから教える事なんて何もないよ。卒業おめでとう」
「何も教わってないのに卒業させられた?!」

ガーン!とショックを受けたロイが、こちらに背を向けて不貞寝し始めた。いつもの事だし、放っておこう。アレクが上体を起こし、身体強化したので、じっと見つめて粗い箇所を探す。やはり数箇所見つけたので、人差し指でツンと触って教えていく。

「左肩と、右の脇腹、右膝と……」
「え、そんなにあるの?」
「あるある。まぁ、頭と心臓あたりは厚いくらいだから、無意識にそっちに集中してるのかもね」
「あー……なるほど。多分じーさんのせいかも」
「今朝話してくれたアレクのお祖父さん?」
「ああ。特訓の度に、とにかく頭と心臓守れって言われてたから。腕や足なら、例えもげても騎士団お抱えの治癒師達が治してくれるからって」

お祖父さんっ!!!
確かにそうかもしれないけど、子供相手に手足もげても大丈夫とか何言ってんの?!絶対お祖父さんのせいじゃん!!治癒師が優秀なのは良い事だけどさ!!

―――あれ?待って。

「治癒師?」
「セルジュは知らないのか?騎士団お抱えの治癒師達は治癒院の中でも優秀な奴が集まってるから、騎士団の騎士達は安心して戦えるんだ」
「…………」

今少しだけ思い出した。
まだ未熟なヒロインが、どうして他の優秀な治癒師達を差し置いて、攻略対象者達の治癒をしていたのか。……戦争で治癒師達が殺されてしまったからだ。だから未熟なヒロインが、騎士団の中でもエリートである『ナンバーズ』や『ガーディアンナイト』達の治癒をしていたんだ。

優秀な治癒師達が死んでしまえば、治癒師達の回復魔法を頼りにしていた騎士達はどうなるの?中には治癒が間に合わずに死んでしまう者が出てくる筈だ。もげた手足まで治癒出来るのは、光属性の上位魔法……

「……セルジュ?どうしたんだ?」
「あっ。……ごめん、ちょっと考え事しちゃった。あのね、アレク」
「ん?」
「身体強化、卒業までにはきっちりマスターしてね。でないと騎士団の入団日にアレクの恥ずかしいエピソードを大声でバラすから」
「はあ?!」
「絶対だよ」
「!」
「約束して」
「……セルジュ?」

私があまりにも真剣な顔でそう言ったからか、アレクは不思議そうな顔をしつつも、「分かった、約束する」と頷いてくれた。
私はそれが嬉しくて、でも先の未来が恐くて、アレクの手を握った。そして、アレクの小指に自分の小指を絡ませる。

「嘘ついたら針千本の~ます、指切った!」
「??なんだそれ??」
「言葉通りの意味だよ。約束破ったら針千本だからね」
「……恥ずかしいエピソードをバラされた挙げ句に、針千本まで飲まされるって事か?厳しいな」
「アレクには無事でいて欲しいからね。絶対に、死んだら駄目だから」
「何言ってんだよ。まさか身体強化がマスター出来なければ死ぬって言いたいのか??」
「可能性の話だよ。約束、ちゃんと守ってね」
「…………守れなかった場合のリスクがでかすぎる。約束守れたら、何かご褒美くれよ」
「ご褒美?いいよ、何でも言ってよ。それでアレクの生存率が上がるなら、安いもんさ」
「ぷはっ!生存率って!そんなに俺に生きてて欲しいの?」
「生きてて欲しいよ」
「!」
「アレクとロイは、ちゃんと生きててよ」
「ばか、本気で返すなよ。……分かった。絶対に身体強化マスターして、意地でも死なねーから。だから、セルジュも死ぬなよ」
「あはっ。僕は大丈夫だよ」
「セルジュ」
「ありがとう、アレク。……きっと僕達は同時期に騎士団へ入団する事になる。今から備えておいてね」
「ああ、分かった」

……アレク、一年生の頃に比べて大きくなったなぁ。身長もだけど、体つきも、もう立派な男の子だ。もう少しで14歳だもんね。前世だと中学二年生あたりか。

しみじみとそう思いながらアレクを見ていると、午前の授業終了のチャイムが鳴った。

「お昼だ。学食に……」
「セルジュ」

…………アレク?
立ち上がろうとしたら、アレクに手を掴まれた。なんだろう?立ち上がらせて欲しいの??

するとアレクは、男の子な顔つきで私に言った。

「いざという時は、俺がセルジュを守ってやるよ。お前は俺が死なせないから」

急にどうしたんだろう?
私は「ありがとう」と答えた。本当は、セルジュの設定的には怒らなきゃいけないところかもしれないけど。アレクの真剣な瞳に、私は一瞬、素で答えてしまっていた。

アレクの言葉は、素直に嬉しかったから。


* * *
 
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