85 / 245
本編
余裕なんかない
しおりを挟む国境にあるスペード王国騎士団の砦。そこの東側にある一番奥の部屋では、ロゼリアによる魔力の暴走のせいで、割れたティーカップやボロボロになった家具等が部屋中に散乱していた。
そんな部屋の中心で対峙しているのは、オリバーと眠っているロゼリアを抱えたグリードだ。
まさに一触即発な雰囲気の中、遠くからバタバタと走る数人の足音が聞こえてきた。恐らくは騒ぎを聞き付けた騎士達が、隊長を呼びに行ったのだろう。
グリードはオリバーから視線を逸らし、ロゼリアの頭を軽く撫でてから、ロゼリアをオリバーへと渡した。
オリバーがロゼリアを受け取り、横抱きに抱えながら訝しんだ顔でグリードを見つめると、グリードは僅かに口元を綻ばせる。
「ロゼリアの事となると、随分余裕が無いのだな。そんな事では、いざという時に足元をすくわれるぞ」
「……そういうグリードは随分と余裕そうだな」
「そう見えるか?」
「違うのか?」
「…………オリバーはロゼリアを別室へ連れて行け。俺は魔力暴走の事を隊長に報告する為、ここに残る」
「何故だ?さっきはロゼを渡すのを許否したくせに。騎士団の中ではグリードの方が先輩なのだから、私を報告に行かせて、自分でロゼを別室に運んだらいいだろう?」
オリバーがそう言うと、グリードは床に落ちていた物を脇に退けながら何でもないように答えた。
「ロゼリアの付き添いはお前だろう。それに、俺は今日は非番ではない。仕事に戻る」
「…………」
「もしロゼリアが目を覚ました時に、まだ魔力が欲しいようなら連絡してくれ。仕事が終わり次第、会いに行く」
「…………くそっ」
まさかグリードに出し抜かれるなんて。
いざという時、ロゼリアの傍に一番に駆け付ける存在でありたいのに。
オリバーは不甲斐ない己を責めながら、ロゼリアを別室へと運んで行った。グリードはそんなオリバーの後ろ姿を見送りつつ、ぽつりと呟く。
「……俺にだって、余裕なんかない」
今まで色恋沙汰に疎かったグリードは、ロゼリアへの想いを自覚したばかりで、余裕など全く無かった。
本当はオリバーが言っていたように、自分自身でロゼリアを別室へと運び、魔力回復を続けたかった。けれど―――
ついさっき、ロゼリアを心地好い眠りに誘おうと、流す魔力量を増やした時。あの時のロゼリアの反応が、グリードの胸を痛いくらいに締め付ける。
「……またあんな顔をされたら、自分を抑えられるか分からん」
あの時のロゼリアは、堪らない顔をしていた。思い出すだけで、胸の奥が熱くなってしまう。
だからこそ、グリードはロゼリアをオリバーに託したのだ。
そうして、ふと疑問に思う。
「……オリバーは兄なのに、何故妹であるロゼリアにあれだけ執着しているんだ??」
まるで恋敵のように接していたし、実際に恋敵だと思うのだが、グリードにはイマイチ理解できなかった。
そもそも彼の頭の辞書には、『シスコン』という言葉自体が無かったのだ。
「兄妹では結婚出来ないと知らないのか?しかし、オリバーに限ってそんな…………」
グリードの苦悩は、隊長達がやって来るまで続いたらしい。
* * *
0
お気に入りに追加
3,828
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。


騎士団寮のシングルマザー
古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。
突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。
しかし、目を覚ますとそこは森の中。
異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる!
……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!?
※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。
※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる