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本編
独占欲*オリバーside*
しおりを挟む「あ~~舌がヒリヒリする。ノア、なんであんな事したんだい?めちゃくちゃ熱かったじゃないか!」
「あそこで『普通じゃない』なんて言ってごらんよ。オリバーに殺されるよ?」
「だって、全然普通じゃないから!!どこの世界にあんな恋人みたいな兄妹がいるのさ?オリバーがあそこまでシスコンだったなんて……」
「私がシスコンだから何だと言うんだ?」
「?!」
「オリバー!」
ロゼへの事情聴取を終えて、隊長を見送った際、私は隊長から『後で部屋に来るように』と言われていた。それ故、ノアとテオドールが退室した後、心配だったがロゼを部屋に残し、隊長の部屋へと向かった。
隊長の話とは、私の実家であるバルトフェルト家の話だった。幸いにも死人は居らず、怪我をしたのも執事のベルンとお母様のみ。二人の怪我はどちらも軽傷で特に心配は無いとの事だが、わざわざ私を呼び出して伝えてくれたのはロゼへの配慮だ。例え軽傷であっても身内の怪我の話を聞けば、弱っているロゼに更なる心労を与えてしまうかもしれないと思ったそうだ。隊長の度重なる配慮には恐れ入る。用件はそれだけだったので、私は礼を言ってから隊長の部屋を後にした。
早くロゼの居る部屋へ戻らなくては。
そう思いながら元来た道を辿っていると、途中にある談話室でノアとテオドールを見つけた。二人はお茶をしながら話をしていて、私はそのまま声をかけずに立ち去ろうとしたのだが……
二人の会話の中から私の名前が聞こえて来たので、通り過ぎようとしていた私はわざわざ踵を返して二人の元へ歩み寄り、今に至る訳だ。
「オリバー。まさか今までずっと、あれが普通なのだとロゼを騙していたのかい?恋人みたいな真似をさせて」
「テオドール、人聞きの悪い事を言うな。本当にあれが私とロゼの『普通』なのだから仕方ないだろう?それから、気安く私のロゼを愛称で呼ぶな。不愉快だ」
「ロゼから愛称で呼ぶ許可は出てるんだから、オリバーにそう言われても関係ないし~」
「……っ」
確かに、ロゼはノアとテオドールに愛称で呼ぶようにと言ってしまっていた。スペード王国では、仲の良い友人同士ならば、愛称で呼び合うのは普通の事だ。それが例え異性間であっても。けれど、ロゼに恋情を抱く者が、愛しさを込めて『ロゼ』と愛称で呼ぶのは我慢ならない。
……こんなに独占欲が強く、心の狭い男だと知ったら、ロゼは私から離れてしまうだろうか?
私は身体中を支配しそうになる、ドロドロとした黒い感情を必死に抑え込む。……テオドールは友人だ。ロゼを譲る気など毛頭無いが、愛称で呼ぶくらいは許すべきなのだろう。当人であるロゼは許可しているのだから。
私が苦々しい顔をして、そう考えていると、ノアが言いにくそうにテオへ話し掛けた。
「……テオ、あのさ」
「ん?なんだい、ノア」
「ロゼを気に入ってるのは分かるけど、もし本気で狙ったとして、オリバーはロゼのお兄さんな訳だからさ」
「…………」
「オリバーの気を損ねるような事は止めておいた方がいいと思うけど。オリバーが反対する相手を、ロゼの両親が快く思うかな?」
「…………ノア、言いたい事は分かるよ。分かるけど。オリバーはお兄さんって言うより……」
テオドールがチラリと私に視線を向ける。テオドールも何となく分かっているのだろう。私が厄介な“恋敵“であると。本来ならばロゼの身内である私に、自分を認めてもらおうと努力や気遣いを見せるところだろうが。どれだけ努力や気遣いを見せられても、実力があろうとも、私はロゼを譲る気は無い。そう思っているのが、テオドールにも伝わっているに違いない。
もし私が、誰かにロゼを譲る事があったとすれば…………
それはロゼが自分から望んだ場合だけだ。
(―――お兄様)
「?」
「オリバー?どうかしたの?」
私は何故だか、聞こえる筈のない、ロゼの声を聞いた気がした。
部屋に居る筈なのに、聞こえる筈ないのに。
気付いた時には、私は走り出していた。談話室から、ノアとテオドールに名前を呼ばれた気がしたが、構っていられない。
―――ロゼッ!!
* * *
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