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本編
見習い騎士としての初任務*オリバーside*
しおりを挟む今年の春。
騎士団本部にて、石造りの、まるで円形闘技場のような形をした第一訓練場では、今年入団したばかりの見習い騎士達が、初任務内容を聞く為に整列していた。
オリバーも当然その中に居り、前後にはノアとテオドールが立っている。私語も無く、静まり返った厳かな空気の中、やがて騎士団の第一部隊隊長が号令台の上に上がると、見習い騎士達を見渡して、初任務内容を訓練場内に響かせた。
「今年入団した、見習い騎士の諸君!!諸君等には、これから先輩騎士と共に王国の平和を護ってもらう!!見習い騎士第一班は王都の見回り部隊へ、第二班は魔物討伐隊へ、第三班は転移魔法陣にて国境沿いの見回り部隊に参加してもらう!!一月経ったら役割交代だ。スペード王国の平和は、我等騎士団の背にかかっている!!心して各自任務にあたるように!!!」
「「「はっ!!!」」」
……………………
…………
……学校を卒業した私は、無事に騎士団入りを果たした。私は第三班に割り当てられ、最初の一月は国境沿いの見回り部隊に参加した。時々現れる魔物を討伐しつつ、近くの村に立ち寄り、村々の見回りもこなしていく。すると、王都で聞いていたダイア公国絡みの話が、ここでも聞こえてきた。
「オリバー、ちょっといいかな?さっき立ち寄った店で、困った事はないかと聞いていたら、妙な話を聞いたんだけど」
「ノア。その話なら、私も別の店で聞いたかもしれない。ダイア公国の紋章を持った連中の事じゃないか?」
「!……オリバーも聞いていたんだね」
「その話なら僕も聞いたよ~。妙な連中が時々食料を買いにくるって」
「テオドール!」
「お金はちゃんと払ってくれるし、話し方も丁寧で、今までは普通に食料を売っていたらしいんだけどさ。偶然そいつ等のローブの内側に描かれたダイア公国の紋章を見たって」
「…………一応、先輩騎士に報告するか」
私がそう言うと、テオドールがあからさまに嫌そうな顔をした。第三班の殆どは私達の通っていた、王都シィヴァルリィ魔法学校の卒業生で構成されている為、先輩騎士も卒業生から選ばれているのだが。
先輩騎士とは、グリード・ルフスとジル・ケーニヒだったのだ。私は彼等の事に興味が無かったし、学校の模擬戦などでも当たった事が無いのでよくは知らないが、テオドールはグリードの事を大層嫌っていた。
「グリードに報告するとか。……任務に好き嫌いは言ってられないけど、今年は僕にとって最悪の年になりそうだよ」
「何がそんなに気に入らないんだ?指導も丁寧で分かりやすいし、私は好感の持てる人物だと思うが」
「ふーん。別に僕の気持ちを押し付けるつもりはないけどさ。……そう言えば、まだ僕が三年生の時に助っ人として一年生の剣術授業に呼ばれたんだけどさ」
「テオ。任務外の話は休憩時間に……」
「確かグリードの奴、セルジュと模擬戦したんだよ。あの時は驚いたなぁ。グリードの一撃を一年生のセルジュが受け止めちゃうんだもん」
テオドールの話を適当に流し聞いていた私は、今の話を聞いてピタリと立ち止まった。
……待て。
今、誰と誰が戦ったって??
ロゼが、私の可愛いロゼが、華奢で少しでも乱暴に扱えば手折れてしまいそうなロゼが、学校一の強者と言われていたグリード・ルフスと………………模擬戦??
「テオドール。すまないが、もう一度言ってくれ。……誰と誰が戦ったって?」
私の言葉に、テオドールは一瞬だけキョトンと目を丸くしてから、さっと口元に手を当てて視線を彷徨わせた。
「……オリバーは知らなかったのか?」
「質問に質問で返すな。誰と誰が戦ったと言った?」
「…………あー、えっと。グリードとセルジュが」
ロゼ。
いくら男のフリをしているからって…………………………………………!!!
なんて無茶な事を!!!
あんな魔物を紙切れみたいに瞬殺していく男と、あのロゼが模擬戦なんて!!まさか、あの当時は気付かなかったが、怪我でもさせられたんじゃないだろうな?!こんな事なら、もっと全力で学校に通うのを辞めさせるべきだった!!
属性特有身体強化を使えば、その辺の同級生や上級生相手でも負けはしないだろうが、もしも無理だと思う相手がいたら挑んではいけないと言っていたのに!!!
(よりによってグリード・ルフスと……!!!)
しかし、私の予想はテオドールの次の言葉で更に嫌な方へと裏切られた。私の脳裏に、いつかの記憶が蘇る。
「敗けはしたけど、セルジュもかなり凄かったんだよ?!最後は魔力涸渇になって倒れちゃったけど、グリード相手にあそこまで戦えたんだから、休暇で帰省した時にでも褒めてあげてよ!」
―――魔力涸渇?
私の中で、何かがカチリと嵌まった気がした。あの日、ロゼの魔道管から感じた、知らない男の魔力。
まさか、ロゼの中に魔力を流したのは―――……
* * *
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