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本編
約束
しおりを挟むテオドールから魔通石を渡されて、三日経ちました。お兄様に相談する事も出来ず、お昼休憩は訓練場に逃げているのだけど。
流石に三日目ともなると、お兄様が心配するよね。別に毎回お昼休憩を一緒に過ごしている訳じゃないんだけど、この学校って購買が無いから学食に行かないとご飯が食べられない訳で。かなりの頻度でお兄様と顔を合わせるんだよね。……早い時間に学食へ行って頼んでおけば、サンドウィッチとか買えるみたいなんだけど、結局お昼休憩に学食まで取りに行かないといけないし。今はテオドールに会いたくない……
というか、まさか4歳の時にがっつり接触してたなんて~~!!
いや、その割りにはやっぱりあんまり覚えてないんだけどさ。飴玉貰った事はよっぽど嬉しかったのか、それだけは覚えてるんだよね。当時の私は前世の成分ゼロパーセントの、生粋の4歳児だったから、格好いい男の子云々より食い気が勝ってたって事だろう。それに、お兄様が宇宙一格好いいと思っていたし。まぁそれは今もだけど。
お兄様以外の男の子の記憶なんて、殆どないもんね……
どれだけお兄様が好きなのか。
そしてお昼ご飯食べてないから、お腹が空きました。
「う~~、お腹空いた。全部テオドールのせいだ」
「あはは~ごめんね?ちょっと言うタイミング間違えちゃったかな?」
「?!」
「セルジュが分かりやすく避けてるから、差し入れに来たよ~」
な、なんでテオドールが訓練場に居るの?!この時間、私が予約してあるのに!!
私が狼狽えて後方に一歩下がると、テオドールは少しだけ寂しげに笑った。
「そんなに警戒しなくてもいいのに。セルジュに何かする気はないし、バラしたりするつもりもない。本当だよ?」
「……そう言われて、はい、そうですかと信じられる訳ないでしょう?」
「昔の君なら、きっと信じたよ」
「な、何の事だか分かりません……」
「ふふ。まずは敵じゃないって分かってもらわないとね。とりあえず、学食の特製サンドウィッチを一緒に食べないかい?」
「特製サンドウィッチ……」
ああ、それ……
ユベール先生が前にご馳走してくれたやつだよね。めちゃくちゃ美味しいやつ。お腹空いてる時に食べ物で釣るとか!ズルい!!
「食べ物で釣る作戦ですか?」
「心外だなあ。ただ純粋に、一緒に食べたいだけなのに。ちゃんと飲み物もあるよ?」
「…………」
まぁ、サンドウィッチさんに罪はないからね。サンドウィッチさんは食べられる為に生まれてきた訳だから、食べてあげないと可哀想だものね。私のお腹も、きゅるきゅる鳴り出してしまったし。
私はにこにこ笑うテオドールを半眼ジト目で見つめながら、小さな声で「食べます」と答えた。
……………………
…………
訓練場の端にあるベンチに腰を下ろして、テオドールからサンドウィッチの入った袋を手渡される。
私が袋の中を覗いてみると、美味しそうな特製サンドウィッチと温かい紅茶が入っていた。紅茶は蓋付きの紙コップみたいな容器に入っている。
「……美味しそう」
「召し上がれ~」
くっ!言動が軽いと言うか、チャラいと言うか。でも、攻略対象者なだけあって見た目は凄く格好いい。
私は特製サンドウィッチを袋から取り出して、「いただきます」と言ってから、サンドウィッチにかぶりついた。
お~い~し~い~!!
めちゃくちゃ美味しい!!
一つはチーズと生ハムとレタスが入ってて、もう一つはパストラミビーフとレタスが入ってるのだけど、それぞれ素材も良いけどかかってるソースがまた美味しい!パストラミビーフは塩と胡椒が効いてるね!
私がパクパクと食べるのを見て、テオドールが嬉しそうに笑っている。確かにサンドウィッチは絶品だけど、これで絆されたりしませんから!!
かなりの空腹だったので、私はサンドウィッチをペロリと平らげて、食後の紅茶を堪能する。少し冷めちゃったけど、このくらいがゴクゴク飲みやすい。
「美味しかった。ご馳走様」
「ご馳走さま??」
「……真似しないでいいですから」
「食べる前にも言ってたよね。いただきます、だっけ?バルトフェルト家の作法か何かなのかい?」
「違います。これは、その……クセと言うか……」
「クセ??どーゆう意味なんだい?」
「……いただきますは、作ってくれた人と、食材に対して感謝を込めて、いただきますって言うんです。ご馳走様も同じ様な意味で、食事を準備してくれた人に、ご馳走様って…………」
「そうなんだ。いただきますもご馳走様も、感謝の気持ちを込めて言う言葉なんだね」
「…………だから、この場合、テオドール先輩も感謝の対象になりますね」
「え?」
「わざわざ学食で、頼んでおいてくれたんでしょう?……ご馳走様でした」
「いいよいいよ、そんな。元はと言えば、僕が原因で学食を避けてるんでしょ?」
あ。そうだった。
特製サンドウィッチが美味しすぎて、うっかり忘れかけちゃった。
「そうでしたね。じゃあ、今の感謝は無しで」
「え~?いや、それもそれで少し寂しいような……」
「テオドール先輩」
私がテオドールに視線を合わせて、じっと見つめると、テオドールは一瞬だけキョトンとした顔をしてから、またにこりと笑った。
「なんだい?」
「僕の正体は、黙っていてもらえませんか?お願いします」
「最初からバラすつもりなんて無いよ。さっきも言ったでしょ?」
「……どうして?テオドール先輩が、なんで僕に魔通石を渡したのかも分からないし、黙っていてくれる理由も、分からないんですけど……」
私がそう言うと、テオドールは少しだけ困ったような笑みを浮かべた。そして、私から視線を外し、空を仰ぎ見る。
「ルスターシュ家から、結構前に手紙がいってると思うんだけどさ」
「手紙……?」
「そう。……君は知らないんだね」
「??」
「僕は来年、騎士団に入る。そこで力を示して、地位を築く予定なんだ」
うん、それは知ってる。
テオドールは騎士団に入団してから一年後に、その実力が認められて昇格試験に受かり、『ナンバーズ』の一員となる。確か、No.8だった筈。
一応、学校にいた時から志していたんだね。それで実現させちゃうんだから、少しだけ見直したかも。めちゃくちゃ努力が必要な事だものね。
「頑張って下さいね」
「うん、ありがとう。それで、その……」
「?」
「僕は、気軽に女の子と遊びに行ったりするのは、もう止めるよ」
「??……はぁ、それは良い心掛けだと思いますけど。なんだか、話が飛びますね?」
「や、ごめん。確かに、ちょっと話の流れがおかしいよね。少し動揺してるみたいだ」
「そうなんですか」
あれかな?
騎士団入りも決まったし、女遊びは止めて、これからは真面目に頑張ります、みたいな??なんで私に言うのか、よく分からないけど、誰かに聞いて欲しかったのかな?
「騎士団で地位を築く事が出来たら、君に聞いて欲しい話があるんだ。……話を聞いてくれるって、約束してくれないかな?」
「それって、取引ですか?約束したら、僕の正体は隠しておく、とか」
「いや、セルジュの事は初めから誰かに言うつもりなんてないよ。これは僕からのお願いさ」
……なんでそんなに、私に対して好意的と言うか友好的なの?本当に信じてもいいのかな?
まぁ、最初から悪い人ではなさそうだけど。話を聞いてあげるくらいなら、いいかな?
「何の話か分かりませんけど、いいですよ」
「……っ。約束、してくれるの?」
「はい。約束します」
「ありがとう、セルジュ!!」
「?!」
お礼の言葉を言うと同時に、テオドールに抱き締められて、私は驚きのあまり固まった。イケメンに抱き締められるなんて、心臓に悪すぎる!!私は顔を赤くしながら、「テオドール先輩?!」と声を上げた。
「あっ!ご、ごめんね。つい……」
「?!」
スッと離れたテオドールの顔を見上げて見てみると、あのチャラくて女好きのテオドールが、耳から首筋まで真っ赤に染まっていた。
何これ。
テオドール推しの人は、このギャップに萌えるの?私も少しだけ、ほんの少しだけ、本当に本当にちょこっとだけドキドキしちゃったじゃない!!
「……約束、絶対に忘れないでね」
「?」
「なるべく早く、力を示してみせるから。君が年下で良かったよ」
いや、中身はアラサーでバリバリ年上だけども。ここ数年でだいぶ精神年齢下がっちゃった気がするけどね。肉体の年齢に引っ張られてるから。
「それじゃ、またね。セルジュ」
「はい。……僕の事、本当に誰にも言わないで下さいね?」
「ああ、誰にも言わないよ。約束する」
テオドールは、とても嬉しそうな、蕩けちゃいそうな笑みを浮かべて訓練場から去っていった。あの笑顔を見て、どれだけの女の子が恋に落ちてしまうのか。
そんな事をぼんやりと考えながら、手元に残ったままの魔通石に気付いた。さっきテオドールが言っていた、話を聞く時が来るまでは、持ってて欲しいという事なのだろうか。
「ヒロイン用の魔通石はどうするんだろう……?」
グリードにしてもテオドールにしても、何故私に寄越すのか。お兄様のは有り難く貰っちゃうけどね。
* * *
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