44 / 245
本編
知らない匂い
しおりを挟むやっぱり攻略対象者って基本スペック高過ぎだよね。いや、本人も物凄く努力はしてるんだろうけど、魔力量の多さなんかは基本的に生まれつきのものだから。
魔力の涸渇した私は、グリードのお陰でかなり回復した。リアムの時なんて、必要最低限の魔力を貰っただけで、後は一晩かけての自己回復力任せだったのに。グリードは本当に沢山の魔力をくれた。それこそ、何とか普通に歩ける位まで。
こんなに分けて貰ったら、今度はグリードが体調を崩すのではと心配になって『もう大丈夫』と言った私に、グリードは涼しい顔色でサラリとこう言った。
『なんだ、もういいのか?何なら全快するまで続けてもいいんだぞ?』
どーゆう事??
モブな私の魔力量は、やはりモブなだけあってミジンコ級だという事?
思わずその不満が顔に出てしまったら、グリードが少しだけ困った顔をした。
『なんだ?また俺は何か気に障るような事を言ったのか?すまない。人の感情の機微には疎くてな……』
未来の【エース】様をしょんぼりさせてしまった。何これ。何このピュアな生き物。私、そこまで腹黒ではないと思うんだけど、グリードを前にすると何だか自分が汚れて見える……
『セルジュ?』
『大丈夫です。グリード先輩は何も悪くないですよ。ただ単に僕が荒んでいるというか、汚れているというか……』
『?……俺は今まで武芸ばかりで、あまり他人の外見なんて気にした事など無かったが、セルジュは綺麗だと思うぞ』
『え?』
『何処かに隠してしまいたくなる』
待って。
もしかして、私、口説かれてる?今の私はセルジュ・プランドル。……まさか、グリードって男色家?
いやいや。流石に乙女ゲームの攻略対象者が男色家とか無いよね。落とすの無理ゲー過ぎるもんね。
じゃあ、あれかな。天然たらし系??きっとそうよね。グリードは天然たらし系なんだ。
私が1人そう納得していると、保健室にノックの音が響いた。次いで聞こえてきたのは、アレクとロイの声。
グリードは私からスッと離れて、懐から小さな石を取り出した。まるで宝石のように綺麗な石を、何故だか私の手に握らせる。
『グリード先輩?』
『これは魔通石だ。困った事が起きたら、これを使って俺を呼べ』
『魔通石……?待って、どうしてコレを僕に―――』
―――バタン!!
『おーい、セルジュ!大丈夫だったか?!』
『セルジュ、立てないだろうから俺の肩を貸そう。何なら全部使ってくれていいぞ!』
『アレク!ロイ!……あれ?……グリード??』
『なんだ、グリードまだ居るのか?!何処だ?』
『いや、さっきまで此処に居たんだけど……』
グリードはまるで忍者かと思うくらいの速さで、保健室から居なくなっていた。私がおかしいなと首を傾げていると、何故だかロイがショックを受けたような顔をしていた。
ロイって表情豊かだよね。
『セルジュ、まさかグリードみたいな奴が好みなのか?!』
『は?』
『俺も髪を伸ばそうか……』
『ロイ。何がお前をそんなに変えちったのか、最近分かってきたけどさ。お前が髪を伸ばしたところで、何も変わらないと思うぞ』
『なんでだ?アレク』
『お前だから』
『??』
『はぁ。前のロイだったら、もう少しマシだったかもな』
そんなやり取りをして、私はアレクやロイと一緒に教室へと戻った。その後はお昼ご飯を食べてから午後の授業に臨み、やはりまだ少し怠い身体で、何とか家路に着いたのである。
いつもの隠し通路から家に帰り着き、湯殿に入ったら、私はもうくたくたで。流石に自室で休もうと、フラフラ廊下を歩いていたら、今日もまたお兄様に出会したのだった。
「ロゼ?!どうしたんだい?凄く疲れた顔をしているけど……」
「お兄様。今日は、その、属性特有身体強化の特訓をしていたら、やり過ぎてしまいまして……」
「魔力を使いすぎたのかい?」
ああ、お兄様が凄く心配した顔をしてる。ごめんなさい、お兄様。
「はい。少しだけ、使いすぎてしまって。だから、今日は早めに休みます」
「夕食は?」
「いえ、もうとても眠くて……」
私がそう話していると、お兄様がひょいと私を横抱きに抱き上げた。横抱きって、所謂お姫様抱っこなんだけど、なんでそう軽々と出来ちゃうの??私、結構がっつり食べてるのに……
「歩くのも辛いだろう?私が連れていくよ。ロゼが心配だからね」
「ありがとうございます、お兄様」
お兄様は今日も優しい。
大好き。
私がぴとっとくっついていると、最初は優しげに目元を細めていたお兄様の表情が、何故だか驚いたような顔に変わる。
そうして急ぎ足になり、お兄様は私の部屋ではなく、ご自分の部屋へと私を連れて行った。
お兄様??
普段お兄様が寝ている落ち着いた色合いのベッドに寝かされて、そのままお兄様がギシッと僅かに音を鳴らしながら私を組敷くように、私の上に跨がった。
「……ロゼ、正直に答えて。今日は一体、誰と一緒に居たんだい?」
「お、お兄様?」
「ロゼから、知らない匂いがする。しかも、誰かから魔力を貰ったね?」
「?!」
* * *
10
お気に入りに追加
3,821
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる