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本編

秘密の保健室*グリードside*

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剣術の授業で、俺はセルジュ・プランドルという一年生と模擬戦を行った。セルジュはとても綺麗な少年で、鮮やかなアクアブルーの髪と大きな瞳が印象的だと思った。けれど、体つきはとても華奢で、どう見ても武芸には不向きだろうと判断した。
しかし、実際にやり合ってみれば、恐らく一年生の中で最も強い部類に入る実力を持っていた。それどころか、上級生にも勝てるかもしれない。俺は俄然、興味を持った。セルジュ・プランドルという少年に。

セルジュは身体強化の他に、何か別の強化魔法を併用していたらしい。俺の攻撃を受け止め、ダメージこそ無かったが、俺に一撃を与えたセルジュは、魔力を使い果たして倒れてしまったのだ。故に、対戦相手だった俺が自ら買って出てセルジュを保健室まで連れて行ったのだが……

「……先生は居ないようだな。奥のベッドを使わせてもらうか」

先生がいないのなら、セルジュの魔力回復が遅れてしまう。横抱きに抱き上げているセルジュへ目を向けると、顔色が真っ青だ。

「仕方無い、俺の魔力を分けよう。とりあえず、ベッドに寝かせてから……」

仕切りのカーテンを閉めて、真っ白なベッドの上にセルジュを降ろそうとすると、俺の首にセルジュの腕が巻き付いてきた。

「?!」

突然の事に驚きつつ、俺は降ろそうとしていたのを止めて、セルジュを横抱きに抱えたまま、ベッドの上に腰を下ろした。

「セルジュ、起きたのか?」
「……今、離しちゃ、やだ」
「……………………」

一瞬だけ妙な気分になった。
よく分からないが、今は体勢を変えると吐きそうなのかもしれない。
あまり体勢は変えずに、魔力回復をしよう。そう思った俺は、体内にある魔力の通り道、魔道管の入口に指先を当てた。この体勢で近くにある一番太く流しやすい魔道管は、首筋と膝裏だ。俺は躊躇いなく、ソコから俺の魔力を流し始めた。

「……っ……ん」
「セルジュ、もう少しで楽になるからな。他人の魔力が入ってくるのは気持ち悪いかもしれないが、少しだけ我慢してくれ」

あまり勢いよく流すと魔道管が傷付いてしまうので、俺は少しずつ、ゆっくりと魔力を流していく。
魔力を流すと、真っ青だったセルジュの顔にだんだんと血色が戻ってきた。俺はホッとすると同時に、近距離で聞こえてくるセルジュの息遣いが、何故だか俺の胸の内を擽って―――

セルジュを抱き締める手に、力が籠ってしまう。

「う……」
「セルジュ、大丈夫か?」
「……まだ、気持ち悪……」
「たかだか学校の授業で、魔力を使いすぎだ。俺の魔力は大丈夫か?違和感が強すぎたら言ってくれ」
「……っと……」
「………セルジュ?」
「もっと、欲しい。違和感なんて無い。……温かくて、気持ちいい」
「……っ」

魔力の話なのに。
掠れた声で強請られて、俺の頭の中は一瞬で真っ白になった。
そうして気付く。微かに香る花の香りは、セルジュの匂いなのだと。

……………………
……………

「……近っ?!グリード?!……っ、目が……回る」

暫くして、セルジュの意識が回復した。
さっきまでの会話は無意識だったのか?

「誰だと思っていたんだ?……少しはマシになったようだが、まだ動かない方が良さそうだな」
「グリード……先輩が、僕に魔力回復をしてくれてたんですね。……お礼は言いませんよ、こうなったのも先輩のせいですから」
「…………俺のせいなのか?」
「他に誰がいるんですか?」
「俺は最初に手加減してやると言っただろう。それでも俺が悪いのか?」
「尚更悪いですね」
「……………………そうか。すまない」

ぎゅう。

「…………ところで、グリード先輩」
「なんだ?」
「なんで僕達、男同士で抱き締め合ってるんですか?」
「セルジュの方から俺の首に腕を回して来たんだぞ」
「え?!」
「覚えていないのか?」
「途中で吐きそうになって、何かにしがみついた記憶は薄ぼんやりと……」
「そうか。吐かなくて良かったな」
「……………………た、大変申し訳ありませんでした」
「何故謝る?俺のせいなのだから、気にするな」
「いや、でも、危うく顔面にリバースしかけていたなんて……」
「セルジュ」
「?」

俺の呼び掛けに、セルジュは不思議そうに小首を傾げた。……たったそれだけの仕草に、何故だか胸が痛くなる。

「魔力、まだ足りないだろう?もっと欲しいか?俺の魔力が」
「え?……あ、はい。出来れば、もう少し欲しいですけど」
「少しでいいのなら、もう止めるが?」
「へ?!えっ、じゃあ、その……少しじゃなくて、もっと沢山欲しいです」
「……………………」
「グリード……?」
「…………いくらでもやる」

俺の腕の中に居るセルジュは、やっぱりずっといい匂いで、華奢で、フワフワ柔らかい。

俺は何となく気付いていたが、セルジュには言わないでおいた。きっとただならぬ理由があるのだろう。しかし、また今回のような事があっては、すぐに周囲にバレてしまう。

俺はセルジュに、俺以外の奴と模擬戦を行う時は、魔力涸渇を起こすなと念を押しておいた。


* * *
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