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本編
言葉にしてはいけない
しおりを挟む「だーめ。一緒に寝るのは禁止したでしょう?百歩譲って、眠るまで一緒に居るのだけは許します」
お母様の予想外な返答に、私とお兄様は目を丸くした。
いつもなら大体どんな事でも「しょうがないわね」と言って許してくれるお母様が、まさかの取り付く島なし。
「それは何故ですか?」
「何故って、朝は忙しいからよ」
「……は?」
しかも駄目な理由は、お父様の心配する兄妹仲が良すぎる事とはまるで関係のない理由だった。
お母様が私を見て、何やらアイコンタクトをしてきた時、私は猛烈に二人に謝りたくなった。
そう、朝忙しいのは私です!!
着替えなんかは女の格好をするよりも全然早いけど、それでもカツラのセットや軽いお化粧等をする訳です。お兄様とイチャイチャしていたら遅刻してしまう恐れがある。
「オリバー。ロゼと朝食を一緒にとりたいなら、貴方も早起きなさい」
「お母様、それは一体どういう事ですか?」
「明日から、ロゼは毎日私と朝早く散歩に行くからです。深窓の令嬢設定はいいけれど、ずっと家に籠っていては身体に悪いですからね。ロゼの顔は殆ど知られていませんから、少し変装すれば問題ないでしょう」
「朝早くから散歩……?ロゼ、そうなのかい?」
「は、はい!すみません、お兄様!私、うっかりしていましたわ!お母様、申し訳ありません!!」
本当の本当に申し訳ありません!!
許されるならスライディング土下座を披露したいところだったけれど、今は勘弁して下さい!!
そして早速気を抜いていた私を、どうかお許し下さい……!!
私の心の声が聞こえたのか分からないが、お母様はふぅと溜め息をついてから、私に向かって微笑んでくれた。
「分かってくれたならいいのよ。オリバー、そういう事ですから、もうロゼと一緒に眠る事は難しいと思って頂戴ね。さぁ、もうそろそろ寝る時間ですよ。二人とも、自分のお部屋にお戻りなさい」
「はい、お母様。おやすみなさい」
「……おやすみなさい、お母様」
「おやすみなさい。良い夢を」
お母様との話が終わり、私とお兄様は踵を返してお母様のお部屋を後にした。静かに絨毯の敷かれた廊下を歩きながら、チラリとお兄様の横顔を覗き見る。
……明らかにしょんぼりしている。
こんな子供らしいお兄様を見るのは珍しいかもしれない。
ごめんなさい、お兄様。私がいけないんです。私がうっかりしていなければ、お兄様にこんなお顔をさせてしまう事もなかったのに。
私の部屋の前に着くと、お兄様が一緒に部屋の中へと入ってきた。
「……せめてロゼが眠るまで、一緒にいさせてくれるかい?」
お兄様!!
あまりに切なそうな顔をしているお兄様に、私はひしっと抱き付いた。
「勿論です、お兄様!眠るまで、私と一緒に居てください!」
「……うん」
お兄様と一緒にベッドで横になり、ぎゅうぎゅう抱き締め合う。
お兄様、ぬくい。相変わらず良い匂いだし、すごく安心する……
「お兄様、大好き」
「ふふ。私も大好きだよ、ロゼ」
やばい。疲れていたせいか、すぐに睡魔がやってきてしまった。これはすぐに眠ってしまうかも。まだお兄様とお話していたいのに。
「ロゼ、眠いの?」
「……いえ……全然、眠くないです。私、まだお兄様と……」
「眠いなら眠っていいんだよ。明日も明後日も、眠るまでなら一緒に居ていいんだから」
成程。
確かに、一緒に眠るのは駄目だけど、眠るまでなら問題ないよね。
お兄様、賢いです。
「本当に?」
「うん、本当だよ」
「……ね、お兄様」
「ん?」
ああ、私、本当にお兄様が大好き。
妹に転生出来た事は嬉しかったけど、本当はずっとずっと一緒がいい。
……ヒロインが、羨ましい。
「私がもし、妹じゃなかったら……」
「ロゼ……?」
「…………」
駄目だ。
私ったら、何を言おうとしてるんだろう。お兄様に気持ち悪がられたらどうするの?
お兄様は私が『妹』だから可愛がってくれてるのに。ただの身内贔屓なのに、変な事、考えちゃ駄目。
「……ロゼ、寝ちゃったのかい?」
「…………」
ああ、眠い。
おやすみなさい、お兄様。
私の気持ちは、全部全部、お兄様を、家族を守る為に…………
……………………
…………
「ロゼ、寝ちゃったんだね。おやすみ」
チュッと額にキスをして、オリバーはベッドから起き上がった。眠ってしまった愛する妹を見つめながら、小さな小さな声で呟く。
「もしロゼが妹じゃなかったら、私は…………」
誰にも聞こえないような声だったけれど、オリバーはその先を口にしなかった。
それは言葉にしては、いけないものだから。
己の胸の内で、深く深く想う。
(―――私が、私だけが、一生ロゼを守っていけたなら、良かったのに)
* * *
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