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本編
僕の従兄弟*オリバーside*
しおりを挟む今日の授業を終えて学校から家へ帰ると、愛しのロゼではなく、お母様と知らない美少年が僕を出迎えた。
(誰だろう?)
僕は上着と荷物を執事に渡し、お母様に促されるまま、その美少年と屋敷内にあるサロンへと入った。
「オリバー。この子は私の妹の息子で、貴方やロゼリアからすると、従兄弟にあたるセルジュ・プランドルよ。急な事で驚いたと思うけれど、少しの間、話し相手になってやって欲しいの」
……僕とロゼの従兄弟だって?
お母様に妹がいた事は知っていたけれど、その息子の事は初耳だ。
「僕は構いませんが……お母様、ロゼは?」
「……っ」
僕がロゼの事を訊くと、何故だかその美少年―――セルジュは少しだけピクリと肩を揺らした。
(ロゼの事を知っているのか?)
僕が訝しんでセルジュを見つめていると、お母様が僕の質問に答えた。
「ロゼはね、ちょっとお昼寝をしているの。ほら、ロゼって身体が弱いでしょう?」
「!」
ああ、深窓の令嬢設定か。
よく分からないけど、セルジュとロゼは会わせない方がいいって事かな。年齢はロゼと同じくらいっぽいけど。
「そうですか、分かりました。起こすのは可哀相なので、ロゼはそのままゆっくり寝かせてあげた方がいいですね」
「そうそう。そうなのよ。だからね、オリバー。セルジュのお相手、宜しくお願いしますね」
「はい、お母様」
「ふふ、いい子ね」
……なんだろう。
お母様の綺麗な笑顔が、今日は更に綺麗に見える。気のせいだろうか?
既にサロンのテーブルには、紅茶とお菓子がセッティングしてある。僕は帰ってすぐに、ロゼにいつもの「おかえりなさい、お兄様!」が言ってもらえなかった事を名残惜しく思いながら、セルジュへと話し掛けた。
「呼び方はセルジュでいいかな?」
「はい」
「僕の事は気軽にオリバーと呼んでくれていいよ」
「は、はい。ありがとうございます、オリバー」
「!」
セルジュに名前を呼ばれた瞬間、何故だか僕の胸が大きく高鳴った。
セルジュの声……
少し、ロゼに似てる?というか、待て僕。
いくら声がロゼに少し似ているからって、男にドキドキしちゃ駄目だろ。……ロゼはいつも『お兄様』と呼ぶから、確かに名前の呼び捨ては新鮮だけど。
いやいやいや、落ち着け、僕。
セルジュは男だ。
どこをどう見たってロゼとは違う。僕の可愛いロゼは、僕と同じ灰色の瞳で、髪は美しく艶やかな青紫…………
「オリバー、紅茶が冷めてしまいますよ?早く座りましょう?」
「~~っ?!」
―――ドッキーン!!!
う、上目遣い!!
おかしい。同じ男な筈なのに、どうしてこんなに可愛く感じるんだ?!
よく見ると、ロゼより少し切れ長に感じるアクアブルーの瞳が、くりくりしていて真ん丸で、睫毛も長くフサフサで…………
ちょっと待て、僕!!
僕にはそっちの気があるのか?
男の声や瞳や睫毛を気にしてどーする?!落ち着け。落ち着け、オリバー。僕はロゼ一筋だ。
断じて男色などでは無いっ!!!
僕は自分の気持ちを必死に抑え込みながら、ソファーへと腰を下ろした。きっと帰ってからまだロゼを見ていないから、ロゼ不足で血迷っているだけだ。そうに違いない。
紅茶でも飲めば落ち着くだろう。
そう思って僕は紅茶の入ったティーカップを手に取り、口元へと運んだ。
「オリバー、隣失礼しますね!」
「ブフゥーーーーーッ!!!」
隣に座るなああああああああああああああああああああああああ!!!!!
僕とした事が、思わず紅茶を吹いてしまった。
それを見たセルジュが驚いて、「オリバー大丈夫ですか?!」と声をかけてくる。
大丈夫な訳ないだろっ!!!
なんでわざわざ隣に密着して座るんだよ?!他に空いてる椅子やソファーがあるだろう?!
普通は向かい側に座るものじゃないのか?!なんで隣に……?!!
って、なんで男のくせに、こんなに良い匂いなんだっ?!!
「オリバー、僕のハンカチ使って下さい!あ、早く脱がないとシミになりますよ?!メイドさ……メイドが来るまでに脱いでしまいましょう。ああ、結構盛大にやっちゃいましたね。……オリバー??いいや、僕が拭いてあげますから、じっとしてて下さいね!」
「~~~?!!」
ブラウスのボタンを外した挙げ句に、ハンカチで拭くとかっ
そんなロゼに似た声で………………………………………………………………………………………………………………
「失礼致します、オリバー様。何用で…………お、オリバー様?!大丈夫でございますか?!紅茶を溢してしまわれたのですね!今すぐタオルと替えの服をお持ち致します!!火傷などはされていませんか?!」
「…………火傷や怪我は無い。すまないが、タオルと着替えを出来るだけ早く持って来てくれ」
「かしこまりました!」
……メイドが来てくれて助かった。本当に。
とりあえず、落ち着こう。セルジュは僕とロゼの従兄弟なんだ。少しくらい声が似ていたっておかしくないし、可愛いのだって…………
ロゼの従兄弟なのだからおかしくない。そう、僕はセルジュを通してロゼにドキドキしているに違いない。
断じて男であるセルジュにはドキドキしていない。
それに、ロゼと似た弟が増えたと思えば、僕はセルジュと上手く付き合える筈だ。まずは、心配してくれて身体をハンカチで拭いてくれたセルジュにお礼を言わないといけないな。
僕はコホンとひとつ咳払いをしてから、きちんとセルジュの瞳を見てお礼を言った。
「セルジュ、心配してくれてありがとう。身体まで拭いてもらってしまって、面倒をかけてすまなかった。久しぶりにこんな失敗をしてしまったから動揺してしまったみたいだ」
僕がそう言うと、セルジュは少し頬を朱に染めて、照れくさそうにしながら、柔らかく僕に向かって微笑んだ。
「謝らないで下さい。少しでもオリバーのお役に立てて良かったです」
そのあまりにも可愛らしい微笑みに、僕はついつい無意識で口走っていた。
「……セルジュは、笑うと僕の妹に似ているね」
しかし、そう言った瞬間。
セルジュから笑顔が消えて、カッと顔を真っ赤にし、眉を吊り上げて僕に向かって怒った。
「僕は男だ!!妹に似ているだなんて、女みたいだと僕を馬鹿にしているのか?!」
* * *
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