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本編

私の推しは宇宙一

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夜になり、私は自分の部屋でお兄様を待っていた。今夜は久しぶりに一緒に眠れる。魔法の特訓も、賢いお兄様と一緒なら、何か良い方法が思いつくかもしれない。
それにそれに…………

もうもうもうもう!!お兄様ったら!!
どれだけシスコンなんですか?!
『なんなら誓約しようか?』だなんて!しかも、『僕の一番は、ずっとずっとロゼだけだから』だなんて!!
もお死ぬ!!
ときめき過ぎて死ぬ!!
というか、これだけ重度のシスコンなのに、どうしてゲームではシスコン設定出てこなかったの??
お兄様ルートでも、他の攻略対象者のルートでも、最後にはヒロインに恋していた筈だし。

え。
そうだよ……
お兄様ってどのルートでも死んでしまうけど、死に際では毎回ヒロインの事を想ってた。という事は、お兄様はヒロインと出会えば、最終的にはヒロインがどのルートに進むとか関係無く、必ずヒロインを好きになるんだ。

ガーン…………

何これ、凄い切ない。寂しい。
ロゼだけだよって言ってくれるのは今だけって事なのね……
お兄様はヒロインに恋をして、脱シスコンするから、設定にも出てこなかったんだ。……誓約しなくて良かったね、未来のお兄様。いいよいいよ。私はお兄様が生きて幸せになってくれれば、それでいいんだから。
じゃあ、時期が来たらヒロインとの恋を応援してあげなくちゃね。
当然、お母様やお兄様の親友は私がちゃんと助けてあげて、お父様とお兄様が悪の道に染まらないようにしてからだけど。

「お兄様……」

気落ちした私が可愛らしい子供用のネグリジェ姿でベッドに腰掛けていると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。

「ロゼ、僕だよ。入ってもいいかい?」
「はい、お兄様。どうぞ、お入りになって下さい」

私がパタパタと扉に駆け寄ると、お兄様が扉を開けて中に入って来てくれた。パジャマ姿で片手には魔法書を持っている。
魔法の特訓方法を考えながら一緒に寝れるなんて、とっても嬉しい筈なのに、ヒロインの事を考えると胸が少しだけチクリと痛んだ。少しというか、だいぶ、かなり。

だってお兄様は前世の私の推しで、今世での私は本当にお兄様がめちゃめちゃ大好きのブラコンなのだ。
どうしたって切ない。
殿堂入りした他作品の推し達で気を紛らわせたくても、この世界に前世のものは無いし。

「ロゼ?何だか少し元気がないね」
「そんな事ないです」
「……ベッドに行く前に、ホットミルクでも飲もうか。ハチミツ入れてもらおう?」
「……はい」

お兄様が呼び鈴を鳴らし、やって来たメイドにホットミルクを頼んでくれた。ホットミルクにハチミツって、この世界に来てから初めて飲んだけど、結構美味しいんだよね。

「おいで、ロゼ」
「!」

お兄様はふかふかのソファーに座り、自分の膝をぽんぽんと叩いている。膝に座ってって事かな。
私はお兄様の元へ歩み寄り、促されるまま、お兄様のお膝にちょこんと座った。
すると、お兄様が後ろからぎゅっと抱き締めてくれる。

「お兄様は私を抱き心地の良いぬいぐるみか何かと勘違いしていませんか?」
「嫌なのかい?」
「……嫌じゃないですけど」

本当は嬉しい。
しかし、大好きなお兄様もいずれはヒロインに恋をする。私はお兄様の一番ではなくなるのだ。今からそれに備えておかないと、私はきっとショックで禿げる。
そしてヤケ食いの果ての暴飲暴食でメタボになり成人病を患って嫁の貰い手が無くなり一人孤独に寂しく朽ちていくんだあああああああ!!!

「ロゼ?!ちょ、なんで泣いてるの?!」
「なんでもありません。ちょっと未来の自分があまりにも不憫で……」
「え??未来の何……?」

―――コンコン。

「ホットミルクをお持ち致しました。入っても宜しいでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
「失礼致します」

お兄様がメイドに入室許可を出し、メイドが中へと入って来る。ホットミルクを乗せたトレイをテーブルに置くと、お兄様が「後はやるから下がっていいよ」と言った。

「それでは、おやすみなさいませ」
「ああ、ありがとう。おやすみ」

メイドが下がると、お兄様は私をひょいと膝から降ろし、隣に座らせた。それから立ち上がって、ホットミルクにハチミツをたっぷり入れてくれる。

「ロゼ。話したくないなら話さなくてもいいけど、僕で力になれる事があれば遠慮せずに言って欲しい。……さぁ、今はとりあえずホットミルクを飲んで、ゆっくりしよう?」
「お兄様……!」

お兄様が尊すぎる!!!
私はなんてちっさい女なの?
お兄様の一番が誰でもいいじゃない!!お兄様の幸せが、私の幸せ!!
それに、私の気持ちは自由だもの!!

「お兄様大好きっ!!!」
「わっ?!ホットミルク溢しちゃうから!!」
「あっ!!ごめんなさい、お兄様!!大丈夫でしたか?!」

勢い余って抱き付いてしまった!
お兄様はホットミルクを持っているのに、危ない危ない。お兄様が火傷しなくて良かった。

「大丈夫。気を付けなくちゃ駄目だろう?でも、少し元気になったみたいで良かった。ホットミルクを飲んだら、ベッドでいっぱい抱き締めてあげるからね」
「え?!」
「そうすれば、きっとロゼの不安も和らぐかなって。人肌は安心するからね」
「お兄様の優しさに、私、感動致しました!!」

お兄様は間違いなく天使だわ!!!
私の推しは宇宙一です、神様!!!!!


* * *
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