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本編
モブの体力はミジンコ級
しおりを挟むさわさわと風に揺れる新緑が美しい季節。
スペード王国の王都で、知らぬ者はいないだろうと言われる程の名家、バルトフェルト家。その邸は見るからに大きく立派だ。広大な敷地内には本邸の他に、離れや美しい庭が広がっている。しかし、そんなバルトフェルト家の敷地の外で、汗だくになり、息を切らしながらフラフラと走り込みをしている少女が一人。
バルトフェルト家の愛娘、ロゼリア・バルトフェルトだ。
「ぜぇはぁ……」
ハイ。
甘く見てました。
蝶よ華よと可愛がられてきた、俗にいうお嬢様な私が、急に厳しい鍛練なんて出来る筈ありませんでした。ゼェゼェと息を切らしながら、ひたすら走り込みをして体力をつける毎日。
くそう。無駄に広い敷地が憎らしい。
今世での私のお家は、このスペード王国でとても力のある五大商家の一つで、めちゃくちゃお金持ちなのだ。執事やメイドさんも沢山居ます。すごいでしょ?
でも、体力は無い。
私の体力はミジンコ級です。
これが本編に1ミリも出ないモブの力。モブの存在価値とは空気のように軽い。
たった1キロ走っただけで、足が震えて動けない……
「ロゼ?!」
?!
しまった!!
内緒で邸の外を走っていたのに、へばっていたらお兄様に見つかってしまった!!
お兄様の片手には水の入ったジョウロ。
どうやらお庭のお花に水をあげようとしていたようだ。お兄様がジョウロを置いて、急いで門を通り、私の方へ走って来る。
「汗びっしょりじゃないか!早く邸の中へ行こう。立てるかい?」
「は、はい……」
しかし、私の足はもはや生まれたての子鹿状態。何とか立ち上がったものの、フラりと倒れそうになり、お兄様が素早く支えてくれた。
「体調が悪いの?ああ、ロゼ……一人で邸の外に出ちゃ駄目だろう?次からは僕と一緒じゃないと出ちゃ駄目だよ?」
ごめん、お兄様。
体調は悪くありません。
ただの走り過ぎと体力不足です。
(くそ!いつ私はミジンコから進化出来るの?!)
内心で自分に対して毒づいていると、お兄様が私の額にご自分の額をコツンとくっつけて熱を測り始めた。
「お、お兄様?!駄目です、私、汗いっぱいで……」
「少し熱いね。熱があるのかもしれない。……しばらくは大人しくしてなくちゃ駄目だよ、ロゼ」
お兄様のとても心配そうは瞳に、私はつい嬉しくなってしまって、うっかり素直に返事をしてしまった。
「分かりました、お兄様……」
「ん。いい子」
お兄様が私の額に、ちゅっと優しいキスをしてくれる。
ああああああ!!!
お兄様がキラキラ輝いて見えるうううううう
お兄様大好き!!!
そうして、その日は本当に熱が出ました。子供の体力は無限大だと思っていたけど、そういえば前世でも子供の頃はよく熱を出した事を思い出した。
熱出してる場合じゃないのに……
ぐすん。
* * *
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