上 下
7 / 245
本編

モブの体力はミジンコ級

しおりを挟む

さわさわと風に揺れる新緑が美しい季節。
スペード王国の王都で、知らぬ者はいないだろうと言われる程の名家、バルトフェルト家。その邸は見るからに大きく立派だ。広大な敷地内には本邸の他に、離れや美しい庭が広がっている。しかし、そんなバルトフェルト家の敷地の外で、汗だくになり、息を切らしながらフラフラと走り込みをしている少女が一人。
バルトフェルト家の愛娘、ロゼリア・バルトフェルトだ。

「ぜぇはぁ……」

ハイ。
甘く見てました。

蝶よ華よと可愛がられてきた、俗にいうお嬢様な私が、急に厳しい鍛練なんて出来る筈ありませんでした。ゼェゼェと息を切らしながら、ひたすら走り込みをして体力をつける毎日。

くそう。無駄に広い敷地が憎らしい。
今世での私のお家は、このスペード王国でとても力のある五大商家の一つで、めちゃくちゃお金持ちなのだ。執事やメイドさんも沢山居ます。すごいでしょ?

でも、体力は無い。
私の体力はミジンコ級です。
これが本編に1ミリも出ないモブの力。モブの存在価値とは空気のように軽い。
たった1キロ走っただけで、足が震えて動けない……

「ロゼ?!」

?!
しまった!!
内緒で邸の外を走っていたのに、へばっていたらお兄様に見つかってしまった!!

お兄様の片手には水の入ったジョウロ。
どうやらお庭のお花に水をあげようとしていたようだ。お兄様がジョウロを置いて、急いで門を通り、私の方へ走って来る。

「汗びっしょりじゃないか!早く邸の中へ行こう。立てるかい?」
「は、はい……」

しかし、私の足はもはや生まれたての子鹿状態。何とか立ち上がったものの、フラりと倒れそうになり、お兄様が素早く支えてくれた。

「体調が悪いの?ああ、ロゼ……一人で邸の外に出ちゃ駄目だろう?次からは僕と一緒じゃないと出ちゃ駄目だよ?」

ごめん、お兄様。
体調は悪くありません。
ただの走り過ぎと体力不足です。

(くそ!いつ私はミジンコから進化出来るの?!)

内心で自分に対して毒づいていると、お兄様が私の額にご自分の額をコツンとくっつけて熱を測り始めた。

「お、お兄様?!駄目です、私、汗いっぱいで……」
「少し熱いね。熱があるのかもしれない。……しばらくは大人しくしてなくちゃ駄目だよ、ロゼ」

お兄様のとても心配そうは瞳に、私はつい嬉しくなってしまって、うっかり素直に返事をしてしまった。

「分かりました、お兄様……」
「ん。いい子」

お兄様が私の額に、ちゅっと優しいキスをしてくれる。

ああああああ!!!
お兄様がキラキラ輝いて見えるうううううう
お兄様大好き!!!

そうして、その日は本当に熱が出ました。子供の体力は無限大だと思っていたけど、そういえば前世でも子供の頃はよく熱を出した事を思い出した。

熱出してる場合じゃないのに……
ぐすん。


* * *

しおりを挟む
感想 170

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

処理中です...