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聖域の日常(おまけのお話)
第16話 なぜ仮面……
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コイルたちはあまり詳しくは知らなかったが、海の中に浮かぶダンジョンはレジャー施設として有名だ。近くに住む人々も訪れてはいたが、全国各地に住む有力者たちの間でとくに知名度が高かった。
ダンジョンの安全を維持するために、年に一度行われる儀式がある。そのため、一般の観光客は一時的に島を退去させられることになっていた。もちろん、コイルたち一行も四日前に渡し船で島を離れて、そのままデルフ村へと急ぎ足で帰っていた。
そして、今は無人であるはずの飛びウサギ島ダンジョンに、薬の仕込まれた野菜を積んだ船が着く。
船からは三人の男たちが降りてきた。
「おや。ウサギたちはどこに行ったんだろう」
「いつもは餌を待って、船着き場のすぐ近くにいるのにな」
大きな箱を抱えて降りてきた男から、そんな声が聞こえる。
不思議に思いながらも、男たちは荷物を下ろすのをやめない。野菜はこの辺りに撒いておけば、今は姿を隠していてもいずれウサギたちが食べに来るはずだ。
草がまばらに生えた広場に、野菜の入った箱が十個近く積まれた。男たちがその箱を開けようとしたとき、島の奥の林から歩いて来る人影が見えた。
時々こうしてコッソリ隠れている観光客がいるのだ。
放っておくわけにはいかないので声をかける。大人しく帰ってくれればいいが。
「こらー、お前たち。儀式の最中は島に入っちゃあ駄目だろ」
男の声が届くと、歩いてきた観光客の中から一人、背の小さな子供が前に出てきた。
「はーっはっは。その儀式は今年からはもう必要ないのだ―っ」
「……子供の遊びに付き合ってる暇はないんだぞ。後ろの人らも、ちゃんと子供の面倒を見とこうぜ」
「むっ。今回の隊長は俺なのにっ! カガリビ、あいつらやっちゃっていい?」
「勝手なことをすると隊長を解任されるじゃろ。よいのかの?」
「それは困る。おーい、お前ら。その箱を持ってさっさと帰ってしまえよー。このダンジョンは、今日から俺様たちが乗っ取ってやったのだ。はーっはっはっ」
訳の分からないことを言いながら近寄ってくるのは、いったい何者なのか。
男たちは作業の手を止めて身構える。
何の危険もないはずの簡単な仕事だが、ダンジョンに乗り込むからには男たちも一応は腕に覚えのある冒険者たちだった。
たまにこういう面倒な観光客がいるのだ。そういう輩は無理やりでも帰りの船に乗せて、ロゼの領主のところに連れて行くことになっている。
今回は少しだけ手間がかかりそうだとウンザリしながら近寄ってくる観光客の顔を確かめた。
「……仮面?」
「ようやく気がついたか。カッコいいだろう」
先頭に立つ子供が胸を張ってそう言う。後ろにいる二人の大人たちも、顔に変な仮面をつけて。
「何の遊びか知らんが、領主様から怒られるぜ。さあ、帰りの船に乗るんだ」
「分かってないのはお前たちだぞ。このダンジョンのルールを決めるのは領主じゃなくって、ダンジョンマスターだ。そして今日は俺様がマスター代理なのだ。はーっはっはっ」
子どもはゴキゲンで高笑いをしている。後ろの大人たちは呆れているのか何なのか、子供を止めようともしなければ男たちに対して何かをする様子もない。
仮装が趣味の、おかしな観光客か。
「面倒だが話が通じねえなら仕方がねえ。やるぞ」
意味の分からない話にしびれを切らして、男たちが三人の観光客を捕まえようと前に出た。
それを見て高笑いをやめた子供は、手に何かを構える。
一瞬動きが止まる男たち。だが……。
「なんだ。けん玉か」
「ふふふ。受けてみよ、俺様の真けん玉術を! 月面~着陸~からのうおぉぉ、一回転逆落としいぃぃぃぃっ!」
「う、うわあああああっ」
子どもがけん玉を振り回すと、猛烈な風が吹き荒れて男たちと木の箱を海に向かって吹き飛ばした。
「こら、龍王。散らかしちゃあ駄目だってマスターに言われただろ。あの箱からこぼれた野菜、全部あたしたちが拾って片付けなきゃならないんだぜ」
「へんっ。やわな木箱だぜ」
「仕方がないのう。さあさ、始末じゃ」
仮面の観光客たちは箱からこぼれた野菜を拾い集めて詰めなおした。飛ばされて海に落ちた男たちも拾い上げて、そのまま担いで船に投げ入れる。
「領主に伝えよ。このダンジョンの主は変わった。もうこのような貢物はいらぬ。言いたいことがあらば、領主自ら話し合いに参るがよい」
船頭がびくつきながら頷いて船を出す。
島での出来事はすぐにロゼの領主に伝えられた。
ダンジョンの魔物の反乱。いや、ダンジョンらしさが戻っただけなのか。けれどせっかくのリゾートアイランドだ。領主としてもこのまま諦めるわけにはいかない。
飛びウサギ島の魔物たちとロゼの領主の攻防が始まる。(……のかな?)
ダンジョンの安全を維持するために、年に一度行われる儀式がある。そのため、一般の観光客は一時的に島を退去させられることになっていた。もちろん、コイルたち一行も四日前に渡し船で島を離れて、そのままデルフ村へと急ぎ足で帰っていた。
そして、今は無人であるはずの飛びウサギ島ダンジョンに、薬の仕込まれた野菜を積んだ船が着く。
船からは三人の男たちが降りてきた。
「おや。ウサギたちはどこに行ったんだろう」
「いつもは餌を待って、船着き場のすぐ近くにいるのにな」
大きな箱を抱えて降りてきた男から、そんな声が聞こえる。
不思議に思いながらも、男たちは荷物を下ろすのをやめない。野菜はこの辺りに撒いておけば、今は姿を隠していてもいずれウサギたちが食べに来るはずだ。
草がまばらに生えた広場に、野菜の入った箱が十個近く積まれた。男たちがその箱を開けようとしたとき、島の奥の林から歩いて来る人影が見えた。
時々こうしてコッソリ隠れている観光客がいるのだ。
放っておくわけにはいかないので声をかける。大人しく帰ってくれればいいが。
「こらー、お前たち。儀式の最中は島に入っちゃあ駄目だろ」
男の声が届くと、歩いてきた観光客の中から一人、背の小さな子供が前に出てきた。
「はーっはっは。その儀式は今年からはもう必要ないのだ―っ」
「……子供の遊びに付き合ってる暇はないんだぞ。後ろの人らも、ちゃんと子供の面倒を見とこうぜ」
「むっ。今回の隊長は俺なのにっ! カガリビ、あいつらやっちゃっていい?」
「勝手なことをすると隊長を解任されるじゃろ。よいのかの?」
「それは困る。おーい、お前ら。その箱を持ってさっさと帰ってしまえよー。このダンジョンは、今日から俺様たちが乗っ取ってやったのだ。はーっはっはっ」
訳の分からないことを言いながら近寄ってくるのは、いったい何者なのか。
男たちは作業の手を止めて身構える。
何の危険もないはずの簡単な仕事だが、ダンジョンに乗り込むからには男たちも一応は腕に覚えのある冒険者たちだった。
たまにこういう面倒な観光客がいるのだ。そういう輩は無理やりでも帰りの船に乗せて、ロゼの領主のところに連れて行くことになっている。
今回は少しだけ手間がかかりそうだとウンザリしながら近寄ってくる観光客の顔を確かめた。
「……仮面?」
「ようやく気がついたか。カッコいいだろう」
先頭に立つ子供が胸を張ってそう言う。後ろにいる二人の大人たちも、顔に変な仮面をつけて。
「何の遊びか知らんが、領主様から怒られるぜ。さあ、帰りの船に乗るんだ」
「分かってないのはお前たちだぞ。このダンジョンのルールを決めるのは領主じゃなくって、ダンジョンマスターだ。そして今日は俺様がマスター代理なのだ。はーっはっはっ」
子どもはゴキゲンで高笑いをしている。後ろの大人たちは呆れているのか何なのか、子供を止めようともしなければ男たちに対して何かをする様子もない。
仮装が趣味の、おかしな観光客か。
「面倒だが話が通じねえなら仕方がねえ。やるぞ」
意味の分からない話にしびれを切らして、男たちが三人の観光客を捕まえようと前に出た。
それを見て高笑いをやめた子供は、手に何かを構える。
一瞬動きが止まる男たち。だが……。
「なんだ。けん玉か」
「ふふふ。受けてみよ、俺様の真けん玉術を! 月面~着陸~からのうおぉぉ、一回転逆落としいぃぃぃぃっ!」
「う、うわあああああっ」
子どもがけん玉を振り回すと、猛烈な風が吹き荒れて男たちと木の箱を海に向かって吹き飛ばした。
「こら、龍王。散らかしちゃあ駄目だってマスターに言われただろ。あの箱からこぼれた野菜、全部あたしたちが拾って片付けなきゃならないんだぜ」
「へんっ。やわな木箱だぜ」
「仕方がないのう。さあさ、始末じゃ」
仮面の観光客たちは箱からこぼれた野菜を拾い集めて詰めなおした。飛ばされて海に落ちた男たちも拾い上げて、そのまま担いで船に投げ入れる。
「領主に伝えよ。このダンジョンの主は変わった。もうこのような貢物はいらぬ。言いたいことがあらば、領主自ら話し合いに参るがよい」
船頭がびくつきながら頷いて船を出す。
島での出来事はすぐにロゼの領主に伝えられた。
ダンジョンの魔物の反乱。いや、ダンジョンらしさが戻っただけなのか。けれどせっかくのリゾートアイランドだ。領主としてもこのまま諦めるわけにはいかない。
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