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聖域の日常(おまけのお話)

第2話 マイの悩み

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 マイの相談事の内容はもう他のメンバーは想像がつくらしく、フェンが肩をすくめて首を振る。それをちょっと睨んでから、マイがぽつぽつと話し始めた。

「ダンクの事なんだ……」
「ああ! いつもマイに挑んでくる、あの冒険者の」

 冒険者のダンクはガライの剣というパーティーに属している冒険者だが、ここの第4層が闘技場になった原因でもある。ダンクとマイが初めて出会った時、その場の勢いで何故かタイマン勝負になった。それ以来、第4層での戦いは今でも一対一のタイマン勝負が多い。

 最初の戦いこそ引き分けだったが、それ以降はマイが勝ち続けている。二人のバトルは第4層の名物になっていて、ダンクがいつ勝つかは冒険者たちの間で賭けの対象だ。

「いつもマイが絡まれてるんだよねえ。相手をするのが嫌なら、断ってもいいんだよ?」
「違うんだ! ダンクの相手をするのは嫌じゃない。あいつは人間の中では相当強いし、あたしといい勝負をしてくれるのはアイツだけだし……」

 ブンブンと大きく首を振ってマイが否定した。

「だったら、ああ! もしかして、ついに負けそうなの?」
「逆なんだよ、マスター。あたしの方が強くて、ダンクはいつまでたっても勝てそうにないんだ」
「それは……」

 良いことでは?
 他のメンバーを見回すが、誰も口を開かない。

「アイツはバカだからさ、私に勝つまでは冒険者ランクA級を辞退するって言ってる。でも人間はランクってやつが大事なんだろ? ダンクよりも全然弱ええヤツがA級になったって言って威張ってるんだ」
「はあ」
「なあ、マスター。あたしが一回、わざとダンクに負けてやってもいいかな?」

 これは驚いた。
 まさかマイの口から八百長の提案があるとは。
 鬼熊だった頃から、マイはまっすぐで裏表のない性格だった。戦う事を心から楽しんでいて、それだからこそダンクと気が合ったんだろうに。

「それがインチキだからと言って、絶対やっちゃあだめだって僕から言うつもりはない。もちろん良いことじゃないけど、いろんな事情があるだろうし。でもさ……マイは本当にそうしたいの?」
「それは……」

 マイの表情が苦悩に歪む。
 フェイスさんは無表情。秋瞑は冷え冷えとした顔で黙っている。龍王は退屈したのか、けん玉で遊び始めた。あっ、けん玉でちょっと危ない技を出そうとして、秋瞑に押さえられた。
 それを横目でチラッと見てから、フェンがやれやれって感じでマイに話しかける。

「お前さ、いつも修行だとか言って俺に飛び掛かってくるだろ。まだ一回も勝てたことないけどな」
「ああ、フェンは強いよ。でもいつかあたしが勝ってやるんだ」
「例えば、俺が一回手抜きして負けてやったら、お前はどう思う?」
「そんなっことっ、………………嬉しい訳が……ない」
「だろ」

 フェンの言いたいことは、マイにも分かってる。最初から分かってることだから、彼女も悩む。

「でもそれじゃあ、ダンクはいつまでたったってB級のままだから」
「それはダンクの問題で、お前には関係ねえだろ」
「そりゃ……そうなんだけどさあ……」

 マイは戦いを思いっきり楽しみたい。けれどそれ以上に、ダンクの将来を心配し始めた。これって……。

「つまりダンクがお前より強くなるように、鍛えりゃいいじゃねえか」
「アイツも他のダンジョンに修行に行ったりして、がんばってるんだけどな」
「フェイスさん、鍛えるのに何かいい案ある?」
「そうですね」

 フェイスさんは無表情のまま頷いて、少しの間考えこんだ。

「データを検索した結果、近隣のダンジョンの中で一番彼を鍛えるのに適した場所は、ここです」

 まあ、そうですよね。
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