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第3章 森から村へ

17 それでは解説はダンカン、実況はわたくしメルで……

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 午後からの勝負のファイトマネーはその日の観客数によって異なる。
 前日の残金と今日の午前中の入場料を合わせた金額を、午前中に登録した参加者の人数で割ったものがその日のファイトマネーだ。
 受け取るのは試合前なので勝ち負けにかかわらず、金額は変わらない。観客数が少ない日は賞金も雀の涙だが、多くの観客を集める勝負もある。そして、いま最も人気がある勝負が、今日の最後に行われるということで、目の前の観客席は満員だ。

 観客席と言っても、椅子や座布団があるわけではなく、ただ踏み固められた土が闘技場の周りを取り巻いているだけ。
 中心にある舞台は1メルほどの高さに土が盛られ、土魔法でしっかりと固められている。
 観客席は舞台から少し距離があるが、魔法や剣や身体が飛んで来ることも多く、それもまた、観客を選ぶ所以だ。

「大変お待たせいたしました。それでは本日の第一戦、勇気ある戦士の入場です」

 解説席から冒険者の格好をした女性がマイクを持って舞台に上がってきた。
 ここにも不遇のマイクが……

「本日の第一戦目、挑戦者は何と!D級冒険者にしてここまで登ってきた猛者!D級パーティービッグマウスの期待の星、ユウキーーーッ!」

 観客席から少しへたれた防具を付けて槍を持った男が上がってきた。
 パラパラと観客席から拍手が聞こえる。

「対するはダンジョン防衛隊の精鋭、「美麗なる白き腹黒」秋瞑さまの部下、羽鹿F----ゥ!」

 空からフワッと大きな鹿が白い羽を広げて降りてくる。
 観客席から小さな歓声が上がった。

 ユウキと羽鹿Fを定位置に立たせると、舞台上の女冒険者はマイクを掴んだまま解説席に戻った。

「戦士たちよ、正々堂々戦うがいい!レディーーーーーッ、ファイトォッ!」

 掛け声とともに勇気は槍を構え、羽鹿Fはふわりと舞い上がった。

「さて、本日解説をしていただくダンカンさん、この戦いはどう見ますか?」

「そうですねえ、実況のメルさん。羽鹿はC級相当の魔獣ですから、ユウキにはずいぶん苦しい戦いになるのではないでしょうか」

「やはりそうですか」

 メルはちらりと手元の紙に目を通す。

「どうやら、ユウキのパーティーメンバーは第3層を突破する途中で、ダンジョンアウトしたようですね」

「そう。ここの第3層のレベルは、C級以上と評されていますので、その点からいえば、ユウキはよくぞここまで辿り着い」

「あーーーっと、ユウキ、羽鹿の上空からの攻撃をよけきれないっ!」

「これは痛い。左腕を羽鹿の足で強打されました」

「やはりダンカンさんの言う通り、D級冒険者には厳しい戦いでしょうか。あ、でも立ち上がったあ、よし、まだいける、ユウキーィ」

「素晴らしい根性ですねぇ。自分をここまで送り込んでくれたビッグマウスのメンバーの為にも、ここで諦めるわけにはいかないでしょう」

「なるほど。おっと、ユウキの槍がFの肩をかすめたが、皮を切り裂くほどの勢いはないかっ。ハッ、すかさずFも反撃だ!ユウキ、あーーーっ避けた。今度は避けたぞ」

「ユウキ、なかなかの動きですね。格上の羽鹿Fの動きをしっかり見据えて動けています」

「これは、ユウキ、将来楽しみな冒険者がまた一人誕生したと言っていいでしょうか。おっと、今度は当たった!ユウキ、がっくりと膝をつく」

「あ、これはいけませんねえ、目を離しては、ほら」

「F、角でユウキの体を空高く跳ね上げたーーーー!ここでダンジョンアウトだーーーーっ!」

 空中でユウキの体がふっと消えた。どうやら体力切れで転送されたらしい。
 コイルは握りしめていたこぶしを開き、上着で手を拭いた。
 舞台上では羽鹿が浮き上がり、会場の上空をくるりと一周回って奥へと飛んで行った。会場からは割れんばかりの拍手だ。
 辺りを漂う笑い袋も歓声を上げている。

「すごい迫力だったねー。ミノルさん」

「そうだな。羽鹿にはまだ余裕がありそうだが、ユウキも良い根性だった」

 会場の熱は冷めやらぬまま、すぐに第2戦が始まった。

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